午後零時、地下区画。白磁の円卓を囲む五人のシルエット。
喋っているのは、《灰階評議官》の一人、ミルゼ・ラウト。
指先には、相変わらず血の気のない紅茶カップ。
「――彼女、一毬という名だったかしら?」
その言い方には、名前すら興味がないのが滲んでいる。返したのは、隣の《黒帯役》ガラ・スーグ。
「ああ、“自称・探偵”の子娘。賑やかしにはちょうど良い。」
「“ちょうど良い”……というより、“ちょうど都合が良い”では?」
ミルゼが、カップを皿に戻す。
「結局、彼女は何の成果も持ち帰らなかった。囮としての時間稼ぎも、誤差。そのくせ、全成果を《機関側》に渡す始末。」
スーグが、くぐもった笑い声を漏らす。
「無様ではあるな。しかも、あれで“評判がいい”とは、世も末だ。」
他の評議官の一人が低く言う。
「“無能ではないが、有能でもない”――ああいう手合いが一番始末に困る。」
ミルゼの唇に、僅かに冷笑が浮かぶ。
「しかも本人は、“自分は戦った”と信じ込んでいる。」「自分語りで現実逃避とは……哀れだな。」
「まぁ、我々としては情報と引き換えに小噛ませ犬を得た、という点では使い道はあった。実際に接触した《件》の個体の戦力を、想定の一つ上に更新できたのだから。」
「にしても――」
ミルゼが茶をもう一口すする。
「“口だけは達者”というのは、ああも不快かしらね。」
ガラ・スーグが、机の端を軽く叩いた。「まぁ、あれだ。“死ななかった”だけマシとするか。これで消されても、回収が面倒だ。」
「ふふ、ええ……。どうせ、次も勝手に現れて喋るでしょう。“つまり一毬は可愛いってことですよね!”――って。」
五人の中に、乾いた笑いが少しだけ漏れる。
だがその目は、皆冷たい。
あくまで、“彼女は使い捨ての小道具”という目線だった。
――そして、その“道具”がいつ壊れるかも、もはや興味はない。