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夜の宿場町。サブは一人、薄暗い路地へと足を踏み入れていた。
「ったく、レイス・ワイルか……妙なことに首を突っ込んじまったな。」
彼は懐に忍ばせた短剣を確認しつつ、目的の店へと向かう。宿場町の裏社会を仕切る《影の市》──違法な情報や武器、そして暗殺依頼すら取り扱う場所だ。
サブは目立たぬようフードを被り、雑踏の中に紛れ込む。しばらく歩いた後、古びた酒場の扉を押し開けた。
中は薄暗く、酒と煙草の匂いが漂っている。テーブルではならず者たちが酒をあおり、カードを賭けている。そんな中、サブの目当ての男──《灰色のジル》がカウンターに座っていた。
「久しぶりだな、ジル。」サブは隣に腰を下ろす。
「ほう……?」ジルは皺の寄った顔を歪め、不敵に笑う。「てめえみたいなお行儀のいい戦士が、こんなとこに何の用だ?」
「情報が欲しい。……吸血鬼、レイス・ワイルについてだ。」
その名を口にした瞬間、周囲の空気が変わった。カウンターの奥で酒を飲んでいた男が一瞬動きを止め、賭けに夢中だった連中もチラリとこちらを盗み見た。
「……物好きな奴だな。」ジルは杯を傾けながら呟く。「だが、いいぜ。こっちも ‘興味深い話’ を聞かせてもらったばかりだからな。」
「どういうことだ?」
「今、王国の連中が吸血鬼狩りを本格的に始めた。ターゲットはレイス・ワイル。宰相アレクシスが ‘懐柔’ か ‘抹殺’ を指示したらしい。」
「……やっぱりな。」サブは低く呟く。
「しかも、レイスが ‘ある貴族’ の息子だって噂もある。」
「貴族?」サブは眉をひそめた。「吸血鬼貴族ってことか?」
「そうだ。レイス・ワイルの ‘ワイル’ は、もともと吸血鬼貴族ワイル公爵家の名だ。王国に滅ぼされた ‘旧吸血鬼勢力’ の生き残りって話だな。」
「つまり、レイスは ‘王国に復讐しようとしている’ ってことか?」
「それは分からねぇ。ただ、奴が ‘転生者’ って話もあるだろ? 吸血鬼貴族の血を引く ‘転生者’ だとしたら……王国にとっちゃ、かなりヤバい存在だ。」
サブは黙り込んだ。
まどかがレイスに興味を持っていた理由が、少しだけ分かった気がする。
「お前も気をつけろよ。」ジルが軽く笑う。「お前らが ‘レイスと繋がってる’ ってバレたら、宰相アレクシスは容赦しねぇぞ?」
「……余計なお世話だ。」サブは立ち上がると、金貨を数枚カウンターに置いた。「情報料だ。」
「ほう……意外と太っ腹じゃねぇか。」ジルがそれを指で弾きながら笑う。「気に入ったぜ。」
「今度 ‘俺の首’ を売ろうとするなよ。」サブはそう言い捨て、酒場を後にした。
レイス・ワイル──旧吸血鬼貴族の生き残りであり、転生者。
まどかは、そんな奴に ‘直接話を聞く’ って言ってたな……。
「……妙なことになってきやがった。」
サブはため息をつくと、夜の闇に溶け込むように歩き出した。