「やっぱり、早まった……よね」
後悔は引越し当日、新居にてすぐに訪れた。
「場所は良いんだよ」
私が今日から住むアパートは、都会にあって、駅から徒歩十分程度、大型スーパーやコンビニも徒歩圏内という好立地にある。
「だから、古いのは仕方ない……」
本当なら築浅の物件が良かったのだけど、好立地にあると家賃が高い。
だから、多少の古さには目を瞑ろうと思った。
「でも……」
とにかく多少古くても立地条件が良い事、費用もなるべくかからず家賃が安いところを探していた私は、不動産屋でこのアパートを教えてもらったのだけど、
「やっぱりもっと、よく考えるべきだった……」
好立地、敷金礼金無しな上に、契約年数の縛りも無ければ退去の際の費用も無し、家賃は管理費込みで一万五千円という言葉を耳にした私は即内見してみた。
外観も中も古い造りだったけど住めなくはないと感じて、よく考えもしないで決めてしまったのだ。
「安さで選んだの、絶対失敗だった」
引越して来てすぐにこんな思いをするなんて、絶対馬鹿だと思う。辞められるなら今すぐ実家に帰りたいけど、それは無理だから仕方ない。
「覚悟決めるしかないのよ、うん……」
住めば都と言うし、慣れればきっと大丈夫。そう、言い聞かせてはみるものの、
(築四十年、六畳一間、簡易キッチン有り、風呂無しトイレ共同のアパートとか……やっぱり有り得ない……)
新生活は最早不安でしか無かった。
「っていうか、ここの住人本当に居るの!?」
不動産屋で聞いた限り住人は居るようなのだが、内見の時も荷物を運び入れている時も、誰一人として住人に会わなかった事も更に不安要素になっている。
「生活リズムが、違うだけ?」
このアパートは全部で十部屋あって、101号室、103号室、105号室、それから201号室が埋まっていてそれ以外は空いているらしく、防犯の事を考えて私は二階の部屋を選んだ。
そして本来なら角部屋が良かったのだけど、アパートは共同の玄関から入って階段を上がるタイプのもので、廊下には窓もあるけど日当たりがあまり良くないせいか、昼間でも薄暗い。
もちろん電気は付いているものの、手前と真ん中と奥の三ヶ所に小さめの電球がついているだけで、万が一奥か真ん中の電球が切れてしまった時、夜に一人で奥まで歩くのは怖いから角部屋を諦め、隣とは一部屋空けた203号室に住む事にした。
「四人しか居ないし、日曜日だし、家に居ないのかも……?」
朝から引越し作業でアパートへ来ていたのだけど、昼が過ぎても夕方になっても住んでいる筈の四部屋から人が出てくる気配はない。
どんな人が住んでいるのか分からないまま時間だけが過ぎていき、日も落ちて辺りが暗くなって来た頃、ようやく誰かが階段を上がってくる音が聞こえてきた。
(階段上がって来てるって事は、201号室の人だよね?)
そっとドアを開けてこっそり廊下を覗くと、やはり201号室の住人のようで、鍵を開けて中へと入って行った。
(暗くて、どんな人だか分からなかったけど、男の人、だよね)
外はもう薄暗く、廊下の電気は玄関を出てすぐ横にあるスイッチか階段を登ってすぐの所にあるスイッチを押さないとつかない為住人の顔はよく見えなかったけれど、シルエット的に男の人だという事だけは分かった。
「まぁこんなアパートに女の人が好んで住む訳ないよね……頑張ってバイトしてお金貯めて、もう少し良い所に引っ越そう」
そう心に誓いながら、静まり返った部屋で一人、ひたすら荷解きを進めていった。
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