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クロウに 食事会についての説明と、専属従者がすることについて教えている。
「従者は まず、主人の座る椅子を引いて…」
ソフィアが、知っている知識と実際に見たところを自室にある椅子と机を使い実践して見せる。
クロウは勤勉なのか 主人の役に立ちたいという 欲からなのかは 分からないが覚えが早く、話や本から 色々学んでいるようだ。
「食べ終わった後は、皇族全員が退室して
から 椅子から立つ」
貴族の基本マナーとして、食事の時間は
特に気をつけなければならない。
例えば、陛下が 先に食事に手をつけなければ他の者は食べてはならないが…
陛下が室内に入る前に、他の者は椅子に
座っていなければならない。
退室はその逆。
他にも ナイフとフォークの置き方、食べ方
など 頭が痛くなる程のマナーがある。
普通の貴族は、 幼い頃から家庭教師に教育されるが、何故か ソフィアにはされなかった。
代わりに、母に教わったり 本に書いてあるのを覚えたりした。
「もし--」
言いかけて止めた。
もし 食事などに、毒物が 入っていて誰かが
倒れたりしたらと 思ったが…各々の毒味役がいるはずだ。
ソフィアは母親による精霊の血が半分入っているので毒で死ぬことはない………多分。
「?」
「何でもない」
クロウがじとーっと見つめてくるが、
諦めたのか 何か落ち込んでいる。
そんなに気になるのかな。
そんなとき、扉からコンコンとノックが聞こえた。
出ようとしたら クロウに止められ、扉を開けないまま返事をした。
「どちら様でしょうか」
「食事会のお迎えに参りました」
扉の向こうから 男性の声。
この声は聞き覚えがある。
確か、ベリアルの専属執事だった人。
「え? 食事会は来週の満月の日じゃ…? 」
ソフィアが驚く。
食事会は今まで満月の日にしかしていなかった。
それに、馬の鳴き声も聞こえなかった。
いつもは 皇族の親戚も招待し、外には
馬車が四台は止まっていた。
「本当にお食事会なのですか? 」
ソフィアの疑問が伝わったのかクロウが問いかける。
「はい。今月の満月の週は天候が荒れそうなので城に滞在している者だけで行うと陛下から」
それにしても急過ぎる。
手紙でも寄越してくれると勝手に思っていた。幸い、身だしなみはそこまでひどくない
はず。
「すぐ行きます! 」
ソフィアは、首もとに 母がつけていた緑色の小さい宝石がついたネックレスを着ける。
「クロウ 、 これ着けていて」
クロウには襟の胸元に緑色の、中に白い
紋様が書いてあるピンをつけた。
「これは…?」
「私の専属だという印」
食事会には色んな召し使いが来るだろう。
印が必要だ。
このピンも母が使っていたものだが
急なのでそれしかなかった。
「帰ってきたらちゃんとしたの造るから」
ソフィアのネックレスと同じ色のピン。
クロウは目を輝かせ喜んでいるようだが、
一様 母の形見なので保管したい。
「とても嬉しいです」
頬を染め笑顔を見せるクロウに
ソフィアは少し罪悪感を感じた。
部屋を出て、ベリアルの執事に連れられ
食事会が行われている大堂へと向かった。
大堂へ入ると、ベリアル一人が椅子に
座っている。
大人数で座る様な椅子と、とても長いテーブルが きらびやかで目がチカチカする。
城にいる皇族の参加者は六名だろう。
それぞれの第一・第二 皇子や皇女と陛下。
もうひとりが第三皇女のソフィア。
各々に専属従者が、一人つく。
「ちゃんと来たな」
昼に見た時とはまた違う雰囲気の服装で、
ベリアルが手招きしている。
…ん? 手招きしている?
これも礼儀に入るが、椅子に座れる場所は
決まっている。
陛下の隣や誰かの隣など本当は決まっているはずだが。
陛下の座る椅子の隣が両方
ともあいている。
陛下の隣に座れるのは、第一皇子のベリアルと、第一皇女だけ。
「何故そこに…? 」
思わず声に出してしまった。
第二皇子の座るところにベリアルが座っているからだ。
ベリアルはさっさと来いというように
手を振り隣の椅子をポンポンと叩く。
案内してくれた ベリアルの執事も呆れた
様子でベリアルの後ろに立っている。
逆らえないので 仕方なくベリアルの座るべき席に着く。
「ありがとう」
クロウが椅子を引いてくれた。
こんなにも魔族は覚えが早かっただろうか。
勝手な偏見で魔族の知能が全般的に低いと思い込んでいたのかもしれない。
キィ…と扉が開く。
「…あ” ? 」
使用人に扉を開けさせ部屋に入ってきたのはラット第二皇子と次にフィーリア第二皇女。
「…あら、ベリアルお兄様、ご機嫌よう」
二人はベリアルが先に来ていたことに驚いたのか 扉の前で固まっている。
ベリアルはそれが可笑しかったのかクスッと笑い 二人に座る許可を出した。
「おい」
「二つ目の星に挨拶申し上げます」
第二皇子のラットが話しかけて来たので挨拶する。
ラットもフィーリアもこちらを睨み付けラットに関しては後ろにいるクロウを押して ソフィアが座っている椅子を蹴ってきた。
「ラット、そこ 元々私の席なんだけど」
ベリアルがとても不機嫌そうにラットを見ている。
すると、舌打ちをしたラットはベリアルの
左隣の椅子にどかっと座った。
ラットもベリアルに席を取られているが、相手がベリアルなため何も言えないらしい。
後ろから、ラットを殴りたいという気持ちを押さえているクロウの気配がすごい。
ガチャ。
「…あら」
第一皇女のアメリアと国王 ロイベルが一緒に入ってきた。
やはり、席順を見て驚いているようだ。
全員席につき、早速ぞろぞろと食事が運ばれてくる。
陛下であるロイベルが食事に手をつけ、 みんなもそれを確認すると各々食べ始めた。
しかし、久しぶりに表に出たソフィアを目の前にしてチラチラと見てくる人が多数。
視線が痛くて 食べ物の味がしない。
ソフィアは手を少し上げ クロウに水をグラスに注いでもらう。
ソフィア以外はワインを 嗜んでいる。
「君」
ロイベルが手を上げながら クロウを呼ぶ。
ソフィアに緊張が走る。
クロウに何かをするのだろうか。
「この後も仕事なんだ。水をもらえるかい? 」
「はい」
ホッとした途端に、クロウの顔が不機嫌
そうだ。
ロイベルの後ろにいる専属の執事の眉間にもシワが寄っている。
「ありがとう」
「いえ」
二リットル以上の水が入る 大きい水差しを
片手で持ち、ソフィアの後ろに戻る。
それから 味のしない食べ物を食べなから
次々と食事が運ばれてくる。
「デザートの…」
ようやくデザートが運ばれてきた。
デザートは大きい平らなお皿にベリーやソースがかかったガトーショコラ。
普段食べている残飯とは比べるまでもないような高級感が漂っている。
おいしいのだろうが、緊張と視線でもうそろそろ精神の限界が近い。
そんな緊張が 一瞬でなくなる程、嫌な香りがケーキから漂ってくる。
「…! 」
このデザートのケーキ…毒の匂いがする。
精霊の血が半分入っているソフィアは植物の香りに敏感だ。
この毒は 植物から作られた毒なのだろう。
特に花の毒は渋い匂いがする。
このような知識は役に立たないと思っていたのに…。母には感謝である。
他の者のデザートに毒の匂いがしないということは、この毒はソフィアのための毒。
「ん、ソフィは甘いもの苦手かい? 」
ロイベルが 食べて上げようかと、手を出してくる。それはまずい。
「い、いいえ! 食べます! 」
食べようと手を動かした瞬間、クロウに手首を後ろから軽く捕まれた。
クロウも なぜだか毒に気づいたようで、食うなと言わんばかりの目で見つめてくる。
しかし、目でクロウに大丈夫だと訴える。
「君 何をしている? 手を離しなさい」
ロイベルがクロウを睨んだからか、その場にいる人の視線がクロウに集まる。
その空気を察してクロウは手首から手を離す。
「…申し訳ありません 」
食べないという選択もあるだろうが、ロイベルは甘いものが好きなため手付かずだと代わりに食べられてしまいそうだ。
皆がケーキを食べ始めたところで意を決してケーキの欠片をフォークに刺し 口に運ぶ。
パクッ
毒の匂いでケーキの味が苦くなっている。
苦いものは苦手ではないが、毒と分かっていて食べるものではない。
「…美味しいです」
「そうか」
ロイベルは満足そうに微笑む。
ソフィアは毒の廻りが遅くなるように息を浅くし、水を飲む。
デザートが食べ終わり、机の上にある皿をメイド達が片付けている合間にロイベルとベリアル達の政治についての話し合いが始まった。
…お腹が痛くなってきた。
頭もクラクラする。
でも それを顔に出してはいけない。
毒を盛ったのは 、城で召し使いとして働いている貴族の中の一人だろう。もしくはソフィアを嫌っている皇族の中か。
毒なんてなかなか手に入らない。
平民が独自で手に入れられるとは考えにくい。
今 倒れたりしたら騒ぎになる。
それで医者を呼ばれたら魔力が暴走する可能性がバレて、監禁されたりするかもしれない。
せめてみんなが部屋から出ていくまでは我慢しなければ。
ロイベルは話に夢中で一向に部屋から出ようとしない。
陛下が出ないとソフィアもこの部屋から出られない。 クロウも後ろでソワソワしてきているのがわかる。
話し合いが終わったであろうところで、ロイベルが手をあげる。
「さて…ソフィア以外は先に戻りなさい」
そう言われると一斉に椅子から立ち上がり、ぞろぞろと大堂から出ていく皇子や皇女達。
ベリアルが去り際に 目を合わせ何かを訴えて
いるようだったが それが何か分からない。
「ソフィ」
「は、はい…」
何だろう。
クロウや毒のことを知られてしまったのだろうか。
「その後ろにいる男を紹介してくれないのかい? 」
両手を組み、肘と手で顔を支えながらクロウを睨みつける。
ベリアルから聞いたのか、専属としてこの場に見知らぬ男を連れているからなのか 怒っている様に見える。
「わ、私の専属執事です 。勝手な真似をしたことを心より謝罪します 」
ソフィアは 、深々とお辞儀をし、謝罪する。
「いや、ソフィが認めた者なら良い。だが…なぜ男なんだ?」
ロイベルはクロウをじーっと見つめている。
魔族だとバレなければいいが。
いや、もうバレてるかもしれない。
「…女にもなれますが」
「ごっ、ごほっ」
思わず むせてしまった。
その場に気まずい沈黙が走る。
ソフィアはロイベルとの気まずさで泣きそうになる。
魔族は性別が人間より曖昧だ。
人間はできないが、魔族は魔法で性別を変えられるらしい。
毒のせいで臓器がやられているから咳をしたら血が出るかもしれない。
気を付けなければ。
見るとロイベルが遠い目をしている。
「ま、まぁ、取り敢えず、 専属にするなら女性にしなさい 」
「…これ以上 雇うつもりはありません」
「ならば、こちらから送ろう」
…… !
それは嫌だな。
これまで陛下に 送られてきたメイド達は全員 メイド長に言われて 移動してしまった。
これはロイベルに知られていないからか、メイドをまとめるメイド長が好き勝手やっている。
今回も送ってきたところでという気持ちになる。
もし、その事実が陛下に知られたらまた 面倒なことになりそう。
ソフィアは面倒くさがりなのだ。
そしてさらに気持ちが悪くなってきた。
ソフィアの身体が無意識に毒を身体から出そうとしているようだ。
「うっ、げほっ けほっ !!」
「ソフィア様 !!」
「ソフィ!?」
血と胃液が上って来たのか、咳をしてしまった。
その拍子に口から大量の血が出てきてしまう。胃が爛れてきたのかもしれない。
気道が腫れてきているのか、息が細くなりヒューヒューと喉から音がなっている。
その途端、我慢の限界に達したクロウが
無理やり ソフィアを抱き上げ 自室へ走る。
「…! 待て!! 」
ロイベルが走り出したクロウを止めようとするがクロウは聞く耳を持たない。
「クロウ…?」
お姫様抱っこのように持たれ、落ちないようギュッと苦しいくらいに持たれている。
腕の隙間から陛下が追いかけて来ているのがわかる。
「…これ以上、ソフィア様も私も限界です」
少しは自重しろ 、と言われているようだ。
クロウから本気の焦りがわかる。
全速力ではないだろうが、そこそこ速いスピードで部屋から出て長い廊下を走る。
剣術、武術に心得がある陛下でも魔法なしで追いついて来れるかどうか。
「クロウ…ごめんね」
もっと自分にも気遣えるような対策を考えていれば良かった。
でも、他の人に毒を食べさせるわけにもいかない。それに、久々のケーキを捨てるのは勿体無いと思った。
「ふぅ…」
自室。
クロウは、扉を閉めずにソフィアをベッドに寝かせる。
「解毒できるものを持って参ります 」
クロウの目が光っている。
魔族にとって召喚主の存在はとても大切なんだろう。
眠くなってきたソフィアはつかさずクロウの服の裾をつかんだ。
「ありがとう、でも大丈夫…身体の中で解毒してくれるから」
精霊は植物の自然魔力というものから生み出された存在。
精霊自体に 肉体はなく、魔力がそのまま
形どったもの。
よって、そこらへんの毒や鈍器では死なない。
ソフィアは 人間と精霊のハーフなので肉体や血液はあるが、人間より 魔力の質も量も違う。毒は効くが、死にはしない。
「クロウ、お願いがあるの」
「…?」
クロウは膝で立ちながらソフィアの右手を握っている
「私は身体を回復させるために寝なきゃいけないから、その間 この部屋に誰も入れさせないで」
魔力で発熱するときも同じだが、身体を回復するには 眠るのが手っ取り早い。
この部屋に誰も入れさせないのは、単純に弱っているのを見られたくないからというのと魔力が安定していないから。
ロイベルは、ソフィアがこの部屋を使っているのを知らない。
追いかけられているとき、ロイベルは途中からいなくなっていた。
もしかすると、ソフィアが連れ去られたと騒いでいるかも。
ロイベルが居場所を知らなくても、同じ王宮の中、見つかるのは時間の問題だ。
「数日間…眠るから、何かあったら…たたき
おこして……」
「…承知」
クロウを信じてそのまま瞼を閉じる。
クロウの顔が途中から 余計に悲しげになったのをソフィアは知らない。