朝の井戸都市《イド=カタコンベ》、中層の区画。
朝の人工太陽の日差しがぼんやりと差し込む中、ウィス・フィンはいつものように「井戸の掃除」をしていた。
地下深くに広がるこの都市では、空が見えることはほとんどない。
昼間でも薄暗い街並みの中で、人工日光が街の隙間から差し込むのみだ。
その光が、地下の湿った空気を少しだけ明るくしてくれる。
中層の区画では、井戸が一つの大きなネットワークを形成しており、都市の水源として欠かせない。
しかし、ウィスの仕事は単なる掃除屋だった。
魔物退治屋として名を馳せているわけでもなく、ただのうっかり者であることを自覚していた。
その日も、井戸の中にちらばったゴミを引っ張り出し、ポンポンと叩く音が響いていた。
地下深くの空間はその音を遠くにまで響かせ、耳障りに聞こえる。
街の人々は、ウィスを見て笑っていたが、特に気にする様子もなく、ただ日常が流れていく。
何か大きな事件が起きる予感など、まったくない。
だが――その瞬間、異変が起きた。
ガシャーーン!!!
突如として、目の前の井戸から何かが飛び出してきた。
大きな音を立てて、巨大な影が現れ、ウィスは思わず後ろにひっくり返りそうになった。
その影が地下空間の中で動き出すと、どこまでも響くような音を立て、周囲の湿気が一層重く感じられる。
「お、おいおい、何だよこれ!?」
それは、巨大な魔物だった。
顔は醜く歪み、触手のようなものが無数に生え、そして井戸水を吸い上げるように、周囲の水を渦巻きながら吸い込んでいった。
その姿は異常で、まるで地下深くに眠る「記憶」を具現化したかのような、歪んだ形をしていた。
ウィスはその場に立ち尽くし、目を大きく見開いていた。
「ま、まさか……魔物!?ここで!?今日は水の掃除だけで終わると思ったのに!」
ウィスは慌てて道具を探したが、手にしていたのはあくまで掃除道具。バケツとモップ、そしてさっき使っていた箒だけだった。
「こ、これはダメだ……!俺、掃除道具しかないし!」
周囲では住民たちが恐怖のあまり、逃げ惑っている。
しかし、ウィスはどうしても諦めきれなかった。バケツを頭にかぶり、モップを杖のように握りしめた。
「いいか、ウィス。ここで引いたら伝説になれないぞ!」
その瞬間、魔物の触手がウィスに向かって伸びてきた。危機感が走り、ウィスは無意識にモップを構えて叫んだ。
「お前、掃除してやるからどけぇぇぇ!!」
モップを振り上げると――なんと、魔物の触手が一瞬止まった。
「え?まさか効いた?」
不思議に思うウィス。しかしその直後、触手が一斉に動き出した。だが、ウィスは臆せず叫んだ。
「俺、掃除に来たんだ!お前、汚れだらけじゃねえか!」
その言葉と共に、ウィスは大きな動きでモップを振り回す。
すると、なぜか魔物の触手が次々にモップに引き寄せられ、まるで汚れを拭うかのように、吸い込まれていった。
「え、これ、意外にいけるのか?」
触手が吸い込まれ、魔物の動きが鈍くなる。
ウィスはモップを振り下ろし、身体に一撃を与えると、音が鳴り響き、魔物は力を失って地面に倒れ込んだ。
地下の深い空間にその音がこだまし、微かに震えるように響き渡った。
「……お、終わったのか?」
ウィスは息を切らしながら、モップを持って立ち尽くした。
周りの住民たちは、何が起こったのか理解できない様子でただ呆然としている。
その時、突然どこからか声が聞こえた。
「ウィス・フィン、まさかこんな方法で魔物を倒すとは。君、なかなか面白い。」
振り向くと、そこには見覚えのある人物が立っていた。護井会の使者――あの腐敗した組織から来た人間だ。
「え?あ、あんた誰?」
使者はニヤリと笑う。
「君に依頼がある。」
第一話おまけ
居住層:中層
職業:掃除屋(魔物退治屋志望)
性格:陽気でおっちょこちょい、ギャグ好きだが責任感は強い
特徴:掃除道具を使って魔物退治することもある、普段は井戸の掃除を担当
井戸との関係:井戸を守る仕事をしているが、特別な信仰はなし
代表的な言葉:「俺、掃除に来たんだ!お前、汚れだらけじゃねえか!」
コメント
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