この作品はいかがでしたか?
50
この作品はいかがでしたか?
50
コメント
1件
最後の説明、「かろうして」ではなく「辛うじて」です。すみません
ひゅぅッ、と風が悪戯げに吹く。
「 ぅおッ 」
思わずバランスが崩れる。
まるで、「此方においで」と言う様に、星と月が煌めく。
覚悟なら決めて来た。迷う要素は何処にも無い。
唯少し、もう少しだけ、
此の空を眺めて居たかった。
「 …俺も、あの星みたいに、自由に輝けっかな 」
好きな様に輝いて、煌めいているあの星の様に。
夜。其れは皆が眠りに着く時間。
夜。其れは俺が唯一自由な時間。
夜。其れはお星様を見れる時間。
夜。其れは静寂に包まれた時間。
夜。其れは何も気付かれない時間。
そう、夜は自由だ。
寝ても良い。遊んでも良い。星を見ても良い。
静寂に身を任せても良い。気付かれなければ何しても良い。
そう、気付かれなければ、ね。
「 なぁ、明日は何をしようか 」
「 また書類か?やる気が出ないな 」
「 甘味を食わせろよ 」
「 …星よ。其処で待っていろ。 」
「 俺も、もうじき仲間になるさ 」
例えば、独りでにお星様に成ろうとしても、
誰も邪魔しない。
例えば、独りで静寂の中消えてゆこうとも、
誰も邪魔しない。
そう、邪魔なんてされないのだ。
泡沫の様に彼は暗闇に落ちていった。
もう戻る事は無いのだろう。
否、戻る事を彼が選ばない。
彼等は如何思うだろう。
朝起きたら、道標が無い事に。
偉大なる存在が消えている事に。
彼が居なかった。
探して、探して、探しても。
何処にも居ない。
そして、見つけた。
血に塗れて、未だほんのり暖かくて、そして笑顔な彼を。
誰も気付かなかったのだから、きっと夜だろう。
彼は幸せだっただろうか。
立場に縛られて、肩身の狭い生活だったのでは無いか。
医者の彼奴が、
「 最善を尽くした。命だけは取り留めたよ 」
と言った。だが、命だけ。
彼は植物状態に成ってしまった。
毎日話しかけた。
周りには、沢山の仲間から送られた、
沢山の花が添えられていた。
彼は、まるで泡沫の様に、
淡く、儚く、消えてしまった。
万死に一生を得るとは、必死の覚悟を決める事。
また、ほとんど死を避けがたい危険な瀬戸際で、
かろうして助かること。