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自分の中ではっきりとした答えが出せないまま、いつまでも好きなのかどうかをひとり考えあぐねていると……、
「……あともうひとつ寄りたいところがあるのですが、いいですか?」
彼の方から、そう唐突に問いかけられた。
「はい…でも、どこに?」
聞き返した私には何も答えずに、彼は唇の端で軽く笑うと、横道へとハンドルを切った。
立ち並ぶ木々の間を抜けて、車がうねうねと曲がりくねる坂道を登っていく。
空には夕闇が広がり、次第に日が落ちつつあった。
山道を上る内にやがて日が沈み、辺りが濃い群青色に包まれると、
車は、低めの柵と僅かな駐車スペースがあるだけの高台に止まった。
「ここは……?」
どこに連れて来られたのかわからずに、やや不安な気持ちで彼の顔を仰ぎ見る。
「……降りてみませんか?」
手がつと引かれ、車から外へ降りると、柵の向こうには、緩やかな斜面を覆うように芒が群生をして、一面に広がっていた。
「ここは、すすきヶ原と言うんです」
彼が話して、夜風に吹かれてサワサワと音を立てる白い穂に目を移した。
「ここにも、お父様と……?」
「いいえ…」と、彼が首を横に振り、
「ここへは、誰とも来たことはありません。ここに来るのは、思い出した時に独りきりで……」
そう続けて、風にそよぐ芒の穂を物静かな眼差しで見つめた。
「私はこの風景が好きで、思いついた時に訪れてはただ飽きるまで見ていて……」
空には丸い月がかかっていて、その月と凪いで揺れる穂のコントラストが一枚の絵画のようにも見えて、とても幻想的に映った。