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転生前は決闘とか無縁だったし、今生でも無縁だった。
それがいきなり申し込まれたのが、数日前。
なんとこの世界、決闘は合法である。
そのかわりルールが存在しており、
・死に至る攻撃はしない
・魔法の場合、詠唱必須
・カウント前の攻撃は無効
等々幾つかあり、この他にも細かいものがあるが今は割愛する。
ディマスが指定したものはよりによって模擬剣を使っての試合だ。
魔法試合でいいじゃねーーーーーか!
おまえ、俺の剣技見てたろ……?!
ちなみにディマスが勝ったときの条件は『レジナルドに近づかない』だ。
決闘なんかしなくても俺は近づいてないと思うわけよ……。
王族なんだしさ、忍みたいなの俺につけて観察してほしいわ……!
俺からレジナルドに近づくことなんて、生徒会で用があったときのみで、個人的にという括りでは皆無オブ皆無である。なんでそういうところは見えてないのか、ディマスさん。
それでですね、その噂が王立学園内にサクサクっと流れてしまい……無論、キースをはじめとした家族にも伝わってしまったのだ。
で、どうなるかと言えば
1.アレックスから特訓の提案
2.キース(家族)から退学の提案←もれなくキースとの結婚付き
3.父から退学しないなら王立騎士団長から特別に特訓してもらう提案
はーい!現状のリアムさんは!以上三本立てです!
1は断る暇もなく昼休みを指定され、2は即辞退した故の3選択しかなかった。
2とか婚約もすっ飛ばして挙式みたいな話を母がし始めて、肝が冷えたどころか凍り付いたね……。キースの根回し力を知った瞬間だった。
どれにしても、てんで俺の意見が入ってないのも凄いところなんだが、かといって事態の収拾も出来ないので、自身の力を磨くという選択肢を取るしかなかった。
まあ、負けても別に俺としては無問題なので、怪我を防ぎたいだけだ。
というわけで、現在俺は王城にいる。
王立騎士団の詰所には大きな練習場もあり、俺は父から連れて来られていた。
父は騎士団長であるコンブリオ卿──アレックスの父である──とは懇意らしく、快く引き受けてくれたようで、俺たちのこともちゃんと伝令が出来ているらしく、練習場に入っても歓迎ムードだ。
「やあ、バーナード」
横にいる父が声かけと同時に手を挙げると、若い騎士と話していた壮年の男性がこちらを向いた。
アレックスと同じく鮮やかな赤髪で、顔もよく似ており精悍さが滲む美形だった。背も随分と高く、キースよりも高いかもしれない。
うちの父はどちらかと言えば線の細い感じで、俺と同じ髪色の中性的な顔で、背丈は俺よりも高いものの、コンブリオ卿やキースと比べるとどうしても小さく見える。
「ギル!遅かったじゃないか!」
ギル、とは父の名であるギルフォードの愛称だろう。愛称で呼ばせるくらいだから仲がいいのだろうが……お互いの家を行き来するような、家族ぐるみ付き合いをしたことはない。リアムが俺という存在になる前だとわからないが……そうした話も聞いたことがなかったので、何とも不思議な……。
コンブリオ卿は父を見ると、まるで大きな犬が主人を見つけたときのように喜び飛んできて、父の振っていた手を取り握り締めた。
父はちょっと嫌そうな顔で身を引いている。
「バーナード、近いぞ」
「久々のギルだぞ?!味わなくてどうする?!俺がどんなに寂しかったか……!抱きしめさせ……むがっ」
「煩い。息子の前なんだが?」
父は空いている手でコンブリオ卿の口を乱暴に塞いだ。
「リアム、コンブリオ卿だ。……少し馬鹿だが根は悪くないし、騎士団長というだけあって腕もいい。よく学ぶといいよ」
俺に対してはにこやかに父は言う。
なんというか、目の前で意味が分からんことが起こっている。
コンブリオ卿は残念そうな表情を浮かべつつも父の手を放して、身を正した。
そうしたところで父もコンブリオ卿の口から手を外す。
「やあ、君がギルの息子か!なかなかギルが隠して見せてくれなかったから、会うのは初めてだね。騎士団長を務めるバーナード・コンブリオだ」
気さくに自己紹介をし、コンブリオ卿は俺に軽く頭を下げる。
俺も慌てて頭を下げた。
「リアム・デリカートです。本日はよろしくお願いいたします」
「リアム君はギルにそっくりだね?私はアレックスから話は聞いてたが……性悪……、いや、ごほん!マリー嬢とはあまり似ていないじゃないか。ふむ……君、アレックスのよ、むがっ」
「い・い・か・げ・ん・に・し・ろ・!早く始めてほしいものだね?!」
コンブリオ卿はまた父から口を塞がれて、最後までは言えなかった。
ちなみにマリーとは俺の母である。性悪って言ったな?うん、なんか……察しが良い俺は理解できてきた……。
しかし、面白いものだ。
ゲームの中ではこんな設定はでてこなかった。リアムの父母なんて、リアムの最期にちょろっと文字で出てくる程度の存在なのだが……年月を越せば越すほどにやはりこれがゲームという作られた虚構ではなく、実際に生きた世界だと分かる。
「んんっ。ギルとは後々に話させてもらうとして。アレックスとも練習をしていると聞いているから……さて、どう教えたものか」
コンブリオ卿はペアで初めてやった剣術授業時のアレックスと同じように、同じ言葉を紡いで首を傾げた。その姿はとても似たもので、思わず俺は小さく笑ってしまう。
コンブリオ卿は気を悪くしたようではないが、どうしたんだい?と大きな背を丸めて俺の顔を覗いてきた。
「いえ、すみません。アレックス先輩とよく似ていて……同じことを仰っていたので」
「アレックスがかい?」
「ええ。とても似ていらっしゃいますね」
俺がそういうと、コンブリオ卿はなんとも曖昧に笑った。
あれ?コンブリオ卿とアレックスの仲は──……とまで考えてノエルとした会話を思い出す。そうだ、アレックスは小さいころの後遺症で足が悪い。
幼い頃にアレックスは魔物に襲われて、それを庇った兄は死にアレックス自身も右足に大きな怪我を負い後遺症として残ってしまうという……不幸な悲しい事故だ。
といっても、アレックスは騎士としても他の人間に引けをとることはなく、強くもあるのだが……兄が死んだのは自分のせいであり、自責の念からか父母もそれを気にしていると思い込んでしまっていて、親子関係があまりスムーズじゃない。
俺のことを話すくらいには会話があるようだが……。あ、これコンブリオ卿のほうに問題解決のアプローチをかけるのは無理だろうか?本人とどうかするよりも俺に対する愛着などはわかない気もする。
まあ、正直なところ、攻略対象者のトラウマを治す必要性はないのかもしれない。
ただ、俺が最大限で安穏な日々を送るために、マイナス要素を除去したいだけではある。
「卿は、先輩のことがお嫌いですか?」
俺はずばり聞いてみた。
問いかけにコンブリオ卿は目を見開いたあと、困ったように眉を下げて笑った。
「そう見えるなら、父親失格だ……息子だからね。愛しているよ。ただ、アレックスは頑張りすぎているように私は見えてね。それが辛いかな」
初見の俺の、しかも遠慮ない質問にもコンブリオ卿はそうちゃんと答えた。
うん、やはりアレックスの気負いすぎか。
俺はゲームの中のノエルと違いアレックスの悩みを直に聞いたわけではない。ただ情報として知っているだけだ。けれど、その際にアレックスが話していたセリフは元真夜ことノエル のやり込みのおかげで覚えているのが、それからも気負いすぎだというのは伺える内容だった。
「それ、アレックス先輩に伝えたことはありますか?」
「え?」
「人間って、話さないと……親子でも夫婦でも兄弟でも……ましてや他人なら尚更で、考えることなんてわからないですよ。頭の中って、見れないので。なので、卿のお気持ちを先輩に伝えたら、先輩も頑張りすぎから解放されるかもしれませんよ?」
俺だって偉そうに語れるほど人間関係が築けるわけではないが、それでも会話というのは大事で、話し合いに無意味なことは少ない。今回のアレックスの件なんかまさにそれで、親子してコミュニケーションが出来ていないだけと俺は踏んでいる。父と母だってそうだったと思う。ゲーム内では冷たかった夫婦関係が、俺やキースを含んで話すうちに互いを知って、今や熱々なわけだし。それもお互いの情報を知りえないが故の躓きから発生していると俺は思った。
コンブリオ卿は俺の言葉を静かに聞き、少しすると俺の頭をくしゃりと撫でた。
「そうだね。リアム君のいうことも尤もだ。少し息子と話してみよう。……さて、はじめようか」
俺は言われたことに頷く。
うん、で。俺の力量を見たコンブリオ卿はやっぱり「型からかなぁ」と唸った。
本当に親子して似ている。