撮影が終わり、冷たい夜風に吹かれながら、スタジオの出口を出た。吐く息が白く広がるのを眺めつつ、肩にかけた鞄を少し持ち直す。
今日は長い撮影だったけど、弟が隣にいるだけでなんとなく疲れも軽くなる。
「お疲れ、しゅーと」
俺は自然と弟に声をかけた。肩を並べて歩くこの瞬間が、どこか安心できる。
「お疲れ」
ダウンに埋もれながら返事をする姿は、小さい頃の面影を感じた。
仕事のときは俺よりしっかりしてるけど、こんな風に気を抜いた顔を見ると、やっぱり弟なんだなと思う。
スタジオを出て少し歩いたところで、ふいに愁斗が立ち止まった。
「どうした?」
振り返ると、愁斗は少し困ったような表情をしていた。
「……ひで」
少し間を置いて、愁斗が口を開く。
「ん?」
俺はポケットに突っ込んだ手を抜いて、真剣そうな愁斗の顔を見つめる。
「今日……泊まったらダメ?」
愁斗は俺をじっと見たまま、赤い鼻をかすかに啜った。なんだかいつもより少しだけ弱気な雰囲気だった。
「泊まるって、うちに?」
突然のことに驚いたが、正直断る理由なんてない。愁斗が頼んでくるなんて珍しいことだし。少しだけくすぐったい気持ちが広がる。
「……最近、自分の家に帰っても、なんか気持ちが落ち着かなくてさ。ひでん家ここから近いし……もし予定とかなければだけど」
愁斗は、なんてことないふうに話そうとしているみたいだけど、その声には少しだけ遠慮が混ざっていた。
「いいよ」
俺は思わず笑って答えた。
「むしろ嬉しいよ。久しぶりにお兄ちゃんと2人きりで過ごそうぜ♡」
いつもの調子でふざけると、愁斗はホッとしたように笑った。
その笑顔を見た瞬間、俺の心は完全に温まってしまった。家に戻っても、何だか寂しい夜を過ごすつもりだったけど、愁斗が来てくれるなら話は別だ。
「さむ……よし、じゃあ行くぞ」
俺が歩き出すと、すぐについてくる愁斗。隣に並んで歩くと、やっぱり少し小柄だ。
夜道を二人で歩く。
街灯の光に照らされる愁斗の横顔は、ステージ上の彼とは違い、どこか儚く消えてしまいそうで、でもすごく安心できる。不思議な感覚だった。
____
外が寒かったので、家に着いてすぐに風呂を済ませた。
俺が風呂を出ると、スキンケアを終えた愁斗が帰りに奢ってやったコーヒーのカップを加えてソファに身を預けていた。
「ひで」
愁斗は口を開きかけて、少し躊躇った。
「ん?」
軽く首を傾け愁斗を見る。
「………いや、やっぱなんでもない。」
そう言いながらも、愁斗は視線をスマホに落とした。
「なんだよ、気になるじゃん。言えって」
小さく笑いながら愁斗の隣に腰を下ろすと、愁斗は少し口を尖らせたあと、少しだけ間を置いた。
____
「ひでは、みんなの憧れだよな」
そう言った声はどこか遠くを見ているように聞こえた。
「なんだよ、急に」
俺は照れくさくなって苦笑いを浮かべる。
「憧れ」だなんて、そんな大それたものじゃないと思うけど、そう言われることも少なくない。グループの中でも俺は兄貴ポジションで、後輩やファンからもそう見られることが多い。
「でもさ」
愁斗はをカップを置いて小さな声で続けた。
「ひではみんなのものだけど……ひでのことを『お兄ちゃん』って呼べるのは、俺だけだから、
……ひでが、俺のお兄ちゃんで良かった」
その言葉に、一瞬時が止まった。愁斗の顔を覗き込むと、彼は照れくさそうに目を伏せていた。
「俺は、」
無意識だった。
「……『もしお前と兄弟じゃ無かったら』って、何度考えたか分からない」
気づいた頃には、言葉が口から落っこちた後だった。
愁斗の瞳が揺れた。信じられない、とでも言うような、そんな表情だった。
「なんで……」
愁斗が呟くように問う。
「…ごめん、忘れて欲しい。だって俺はお前のお兄ちゃんで、弟を守る立場なのに……こんな………俺、最低だ」
なんとか笑おうとしたが思うように笑えず、両手で顔を覆った。
「ひで、」
呼ばれて顔を上げると、愁斗は両手で頬に添えてきた。
今俺はどんな情けない顔をしてるんだろう。
「俺だって、考えたことあるよ。もし、ひでがお兄ちゃんじゃなかったら………って、そしたら普通にっ、」
その続きを言わせたくなくて、少し乱暴にその柔らかな唇を塞いだ。
1回、もう1回、とお互いを慰め合うように何度も。
掴んだ手首は、今にも折れてしまいそうな程頼りなかった。
____
「ひで…っ、ァ……んっ」
自分の下で甘く啼く弟の体に、優しく歯を立て、舌を這わせ、ゆっくりと味わった。
裸なんか見慣れているのに。
俺のせいで呼吸を乱し、細い腰を僅かに揺らして俺にしがみつくその姿は、酷く扇情的だった。
細い割にしっかり割れた腹筋の線を舌でなぞる。
そのまま下がり、ベルトを緩め、ボトムスの中に手を滑らせる。
可哀想なほど腫れ上がったそこを布越しに撫でると、既にぐっしょりと濡れていた。
「しゅーと、これ…」
「んっ……ごめ、なさ……っ」
耳まで紅色に染め、顔を両腕で隠す仕草に加虐心が刺激された。
「しゅーと、これなに?」
「……っ」
「おもらし?」
「ちがっ、」
「じゃあ、何でこんなに濡れてるの?」
「……っ、わかんな、ひでが触るとこぜんぶきもちくて、…………かってに出ちゃう…っ」
実の兄に全てを暴かれ、涙をいっぱいに溜めて目を赤くしている。
可哀想な俺の弟。
最後に残っていたはずの理性の糸が音を立てて弾けた気がした。同時に、自分の浅ましい欲望が露になる。
____
息が荒くなる。歯止めが効かない。
自分にこんなにも獣的な一面があったとは、この腕の中の存在がなければ一生知らなくて済んだのだろう。
____ごめん、愁斗。
大切にしたいのに優しくできない。
こんな兄では、嫌われるだろうか。
既に脱力しきった細い腰を掴み直す。
「ァ……はァ…っひで、」
声に甘く混じった吐息と、瞳を細める無防備な表情のアンバランスさが余計に情欲をかき立てた。
____
どのくらい時間が経っただろう。
先程の情事は幻だったかもしれないと疑うほど、幼い子どものような顔をして眠る弟を眺めていた。
今日、弟を家に上げたことを後悔して止まない。
それでも、この息遣いを感じている今この瞬間が幸せだと思わずには居られなかった。
____たとえ兄失格でも、死ぬまでこの秘密を抱えて生きていかなきゃいけないとしても、
もうこの手を離すなんてこと出来るわけがなかった。
コメント
2件
素晴らしい森兄弟をありがとうございます😭 最高です😭