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物陰に身を隠したゼンとミルシード。
「ゼン、あんた、彼を行かせてしまっていいの?」
「これも作戦のうちさ」
「はあ?」
「見ろ」
ゼンは銃撃で穴があいた壁を指した。
「ボードは穴があいているが、横の金属のところ、わずかにへこんでいるだけだろ」
「たしかに」
「そして、下にゴム片が散らばっている。ゴム弾だ。当たると痛いだろうが、死ぬやつじゃない」
「どういうこと?」
「オレが裏で手を引いてるとか思うなよ。こんなことを引き起こしたのはおまえだ」
「はあ? なに言ってんのよ」
「メッチャウマイが食いたいって」
ゼンに指摘され、むくれたミルシードはそっぽを向いた。
「だって、こんなことになるなんて思わないじゃない、普通」
「いいさ。オレもやることがある」
「やることって何よ。ちゃんとおしえなさい」
「ここは、連邦から遠く、ラスカートの勢力圏内だ」
「ラスカート共和国? 大国だけど、ここは領海ではないはずよ」
「そんなことは関係ない。ラスカートの勢力圏内であることが重要なんだ」
「あなた、つながっているの? ラスカートと?」
「興味あるか?」
「知るべきことを知りたい、それだけ」
「オレも、じつはまだ間接的に聞いているにすぎない。連邦の自由主義に異を唱える勢力のつながり。そこには武器の供与も含まれる」
「武器ってなによ」
「たとえば、それさ」
ゼンはフロアに散らばったゴムの破片を見て顎でしゃくった。
ミルシードは、いきなり彼の胸ぐらをつかんだ。
「あんた、知ってることを全部言いなさい」
「オレが知ってることなんてなにもねえよ。これから調べるんだ、放せバカ」
ゼンは彼女の手を引き離した。
ミルシードは力負けした悔しさを込めてゼンをにらみつけた。
「あんた、ラスカートみたいな自由のないがんじがらめの社会がいいの? そんなの私はいやよ」
「そうじゃない。野放しすぎた自由が、格差を拡大し、欲深いやつらが力で支配する原始社会に戻っちまった、ってこと。それが今のマーサ連邦ってやつだ」
「なによそれ。まあ、わかるけど、でも、それ、今する話?」
「ひとつ言っておくが、この対立に一歩足を踏み込んだら、おまえもテロリストのレッテルを貼られかねない。だから勧めたくはない」
「はあ? 生意気なのよ、あなた。私を誰だと思ってるの?」
「王宮のイカれたバカ女」
「むきー」
「覚悟があるなら、しばらくオレについてこい。タクヤとユリは、おそらく、このあと龍人族の里に行くだろう。王の元まで行くのにしばらくかかる。そのあいだに情報を集めたい」
「あんた、何かぶっ壊す気?」
ミルシードの厳しい眼差しに、ゼンは苦笑を浮かべた。
「オレは何も壊す気はねえよ。ただ、あいつと、国のために、道を作るだけさ」
「ほほー、かっこいいね、それ」 「甘く考えるんじゃねえ」
「いいのよ。正直、私も王宮暮らしにはあきて、死に場所を探していたところだから」
「それはずいぶん極端な発想だな」
「そうかしら? 女ってそういう願望、あるものよ。で、そこを王子様に救ってもらうの」
「最高にわがままだな」
「ばか。『恋』って言いなさい」
「まじか?」
「あたりまえでしょ」
「え゛」
「な、な、なによいまさら。わかりきってるでしょ」
「なんだ、まじか。まじなのか」
「私は王子の婚約者よ。そしてなによりむかつくのが、王子は別の女と去ったこと」
「ご愁傷様」
「ふん、いいわよ。見返すチャンスととらえるわ。この世界の、裏の裏まで知りつくしてやる。協力しなさい。私をなめるんじゃないわよ」 「それにしても……タクヤだろ? あいつのどこがいいんだ」
ミルシードはゼンの目を見返した。
「……本気だったのよ」
「なにが?」
「すべてが。怪我人を運んだり、祈り師をかばったり、止血の布をまいたり、刺さったガラスをひとつひとつ取り除いたり。ずっと、悪い人じゃないけど、根はそこそこいいかげんな人、と思ってた。『降霊祭』で変わったみたい。長い眠りから目覚めた朝にはすっかり別人よ。すごい力よね、王宮の秘術って」
「そういう……」
「災害時って、人間の本性が出るものでしょ? 正直、痺れた。でも、言わないでよ。こんなこと、誰にも」
「オレは口は堅いほうだ」
「しかし”私”には、何でも言いなさいよ、かくしごとなんてしたら処刑するから」
「処刑なんてできねえだろ。おまえはただの貴族。王家じゃない」
「そんなことありませーん、私の父は血がつながっていて、王位継承の権利だってちゃんとあるんですー!」
「そんなやつがテロリストになったら、この国も終わりだな」
「あんたが言うな」
ミルシードに断言されて、ゼンは苦笑した。
「とりあえず、これから捜索が始まるだろう。そんなことにつきあっちゃいられない。船を降りるのに政治力使えるか?」
「あんたが敬意をはらって頼んでくるなら、やってみないこともない」
「おねがいします」
「って、きもちわるっ。なに、いきなり謙虚になってるのよ。いいわ。最速で降りれるようにしてあげるから、そのあとのこと、しっかり考えておきなさい」
「はいよ」
ミルシードは気丈に立ち上がって、両腕を腰にあてた。
「そう、ここは戦場にして食堂。カレーを食べてから行動よ。メッチャウマイはフライにしてお弁当にさせるわ。いいわね?」
「やっぱ、おまえ、つぇーわ」
第10話 メッチャウマイ