◇ rd side
「ラダオクン、オマタセ」
一時間前に俺から走って逃げていってしまったみどりくんが待ち合わせにやってきたのは、約束の時間ピッタリだった。
買いたい物は買えたのかな?
荷物変わりなさそうだけど…
「買いたいもの買えた?」
「ン……」
返事の後にゴソゴソとカバンを探って取り出したのは、青い鈴がついたガラス細工の小さなキーホルダー。
「えー!?わっ…かわい〜…!」
夕日に球体のガラスが透けてキラキラと光を散らした。
とっても綺麗で可愛らしい。
「ありがとう、みどり!」
振り返ってみどりに感謝を伝えると、みどりは泣きそうな顔でふにゃりと口元を緩めた。
「ラダオクン、ドウイタシマシテ」
ガチャリ
本館の扉を開けたら、きょーさん達がお出迎え。
ただいま、と返しながらお土産にクッキーを渡していく。
「ア、アノ…コレ……」
みんなにも俺と同じガラス細工のキーホルダーを手渡していたみどりの背後から覗き込む。
鈴と飾り紐の色が違うらしい。
きょーさんは黄色、レウは赤、コンちゃんは紫、俺は青。
「みっどぉ自身のはないの?」
「ウン、買ッテナイ」
コンちゃんとみどりの会話を聞きながら、俺はキーホルダーをどこにつけようか悩んでいた。
悩ましい…カバンを常に持ち歩くタイプでは無いし、鍵は首から下げているし……とりあえずポケットにしまっておくか。
最後にもう一度光を透かして楽しんでからニットのポケットにしまった。
「みどりくん、ありがとう」
「みっどぉ、ありがと〜」
「ありがとな、どりみー」
みんなからの感謝に頬を緩める姿は写真に収めたいくらい可愛かった。
「楽しかったね!」
「…………ソウダネ」
こうして久々のお出かけは大成功に終わった。
…俺だけが、そう思っていた。
トントントン
翌朝、眩しい日の光によって目を覚ます。
包丁の軽快なリズムとお味噌汁の匂いが食欲をそそった。
朝食を並べる手伝いをしながら部屋を見回して疑問に思ったことを口にする。
「あれ?みどりは?」
「…そーいや、見てへんな」
まだ眠そうなきょーさんにみんなが同意しているのを確認してから、起こしてくるよ、と上階へ向かった。
コンコン
「みどりー?朝だけど…」
…なかなか返事が返ってこない。
いつもならウン…って返事が返ってきて、すぐに扉が開くのに。
「みどりー、開けるよー?」
一応確認をしてから扉を開ける。
遠慮がちに部屋を覗き込むと、カーテンをピッタリと閉めた真っ暗な部屋の真ん中で、芋虫みたく蹲るみどりがいた。
「何やってんの…?」
寝ぼけてこんな姿勢になって……そんで、手足が痺れてるとか?
それなら動けないってのも頷ける。
「ほら、大丈夫か…」
「イ”ッ……!?」
脇に手を差し込んで持ち上げようとしたら、突然みどりが呻き声を上げて俺の手を振り払った。
「ごめっ、俺、力加減間違えた…!?」
慌てて謝罪をしたものの、みどりは無言で首を横に振るだけだった。
「……じゃあ、どこか痛いとこが…?」
「ナ、ナイ……ナンデモ、ナイ…」
じゃあ、なんで目ぇ逸らすの。
なんでそんな悲しそうな顔してるの。
「みどり、話して」
「……」
「…みどり」
「…蹴ラ、レタ」
“蹴られた”
それを聞いた途端、頭に血が上った。
怒りで目の前が真っ赤に染まったような気さえした。
「…誰、みどり」
「…」
「…誰にやられた」
「…東区ノ、背…高イ、刺青ノ人……達…」
複数人。
東区は俺がまだ信用するに至らない人物が住まう地区。
いつやられた…どこで……
ダボっとしたパーカーの裾を捲ると、細い体にいくつもの青痣ができていた。
まだ真新しい痕跡があることから考えても、二、三日前なんて話じゃないことは確かだった。
「…昨日の、祭り」
「…ウン……偶々、出会ッチャッテ」
あの俺が知らない一時間の間に、みどりはこんなに傷付けられていた。
俺はその間も、のほほんと空を眺めて…
「…ナンデ、ラダオクンガ泣イテンノ」
「悔し、かったから…かもね……スンッ」
みどりを横向きに抱えながらゆっくり階段を降りて行く。
コレは笑って許せる案件じゃない。
「…刺青男、ね……」
気を失ったみどりの寝顔を一瞬見つめて、東区の方を見やる。
まだ祭りの空気が抜け切らずに騒いでる奴がちらほら。
その中に、特徴的なデザインの刺青をした男を見つけた。
「…みーっけた」
…まずはじっくりお話を聞かないとね。
◇
コメント
2件
こ、この後どうなるのか……、特に刺青男がどんな仕打ちを受けるのか…、 これはもう気になりすぎて眠れないッ…!!