コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
ジャムおじさんの作るパン工場には、犬がいた。名前はチーズ。
みんなに愛され、行動を共にする、賢くて可愛いマスコット――だった。
だが、正体を知る者は誰もいない。
ジャムおじさんが工場を開くより前。彼は、ある奇妙な研究をしていた。
それは、「生物改造技術」 の実験だった。
その被験体となったのが、チーズだった。チーズは、普通の犬だった。
目的は、「監視役」 だった。彼は薬を投与され、知能を発達させていった。
やがてチーズは、思考を持つようになった。しかし――チーズは喋ることはなかった。
それは、ジャムおじさんによる 「制御プログラム」 の影響だった。
「知能を発達させるため、声帯に人工脳を投下した影響で声帯が十分に使えなくなる」
そんな風に改造されていた。彼は 知っていた。
ジャムおじさんの実験、アンパンマンの真実、ばいきんまんが「作られた存在」であること――すべてを知っていた。
しかし、チーズは 決して話せない。
ただ 「ワン!」 と吠えることしか許されなかった。
ジャムおじさんの命令に逆らうことはできない。
逆らえば、「制御装置」 によって強制的に服従させられる。
彼は、 監視者の役割を与えられていた。
「アンパンマンが余計なことを考えないように」
「ばいきんまんが、真実を知ろうとしないように」
彼は、すべてを見守っていた。
ワン!
それは話せない悲しみの叫びだった。
ある日、アンパンマンが秘密に気づきかけた。
地下に足を踏み入れたアンパンマンを、止めなければならなかった。吠えた。
「ワン!!ワン!!」しかし、アンパンマンは無視して進む。
「……チーズ、なんで必死なんだ?」
アンパンマンは振り返り、初めて気づいた。
チーズに、涙が浮かんでいることに。
「……チーズ、お前――」
ドンッ!!
次の瞬間、チーズは アンパンマンを突き飛ばした。
そして、扉を閉め、身体を扉の前に置いた。
「……ワン。」
チーズは微笑んでいた。
アンパンマンが 真実に近づかないように。
彼は、自分で、番犬である道を選んだのだ。
「ワン。」
それはメッセージだった。
「知らなくていいんだよ。」