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久しぶりに外へ出た
正確には、久しぶりに大学と自宅以外の外出をした、というところだ
毎日卒論、課題、卒論、課題、たまに就職準備
自宅と大学の往復を繰り返しているうちに、外は急激に涼しくなった
「秋かぁ…」
来年の春、私は社会人になる
やりたいことがあって大学に入学し、忙しないながらも充実した日々だった
今も卒論で必死だけれど、積み重ねてきた学びの集大成が形になるのは嬉しい
それでも、たまーに突き刺さるような教授や院生の先輩方からの助言に泣きたくなることもある
今日は思考が落ち着かない
なんとなく近隣のカフェで紅茶を買って、公園に足を伸ばしたのに
ついていない日は、とことんついていない
「…このワンピース、お気に入りだったのにな」
ベンチに座って口をつけた瞬間、蓋が緩くてこぼれた紅茶
シミになるから早く帰って洗うべきだとは思う
でも、足は動かない
ぼうっと、まだ紅葉前の木々を眺めていたら、目の前に藍色のハンカチが差し出された
「火傷はしていませんか?」
「あ…ごめんなさい…あの…?」
「すみません、気になったものですから…どうぞ」
にこりと微笑む紳士は、「狐」と名乗り、私の横に座った
「あの…ありがとうございます」
「いいえ、せっかくの紅茶、災難でしたね」
ここで拒むのも気が引けて、お借りしたハンカチでシミを拭く
藍色のハンカチはきちんとアイロンがかけられていて、几帳面な性格が感じられた
「本日は、お散歩ですか?」
涼しくなりましたもんね、と続ける狐紳士の穏やかな口調につられて、なんだか心が温まる
それから他愛もない会話をして、寒くなってきたので解散することになった
ハンカチを返却するため、連絡先を交換して
「次は暖かい場所でお会いしましょうか、老夫婦の営む素敵な紅茶のお店があるんです」
「はい、ぜひ!あの、ありがとうございました」
「いいえ、お気をつけて… ◯◯さん」
…?
名前、どうして…?と返せば、先程交換したSNSのプロフィール画面をトントンと指さされた
なるほど、名乗りもせず申し訳なかったなと思いつつ
少しの違和感と、スマートな紳士との出会いに心を弾ませながら帰宅したのであった
「◯◯さん…ああ…ようやく…」
スマホの画面にそっと口づけながら呟いた彼の言葉と、なぜ私が飲んでいるものが紅茶だと知っていたのか、気づかないまま