(やべぇ···なんでなんでなんで!!なんでこんなことになってんだ!)
遡ること3時間前、ワースは強力な睡眠魔法によって意識を奪われた。無邪気な淵源が魔法不前者のマッシュ・バーンデットによって倒された。
あの生意気な後輩、ランス・クラウンとドット・バレットは俺の兄、オーター・マドルに弟子入りしたらしい。
で、俺は見てしまった。イーストンの廊下をヨロヨロと歩いている時、遠くにオーター・マドルとその弟子がいた。
オーターは相変わらず表情筋が死んでいるが、どこかしら、何か嬉しそうで楽しそうな顔をしていた。俺はあんな顔を見た事がない。しばらく遠くから眺めていると、オーターは弟子が可愛くて仕方ないんだろう、ランスとドットの頭を撫でていた。
「俺には···あんな事しなかったくせに。」
「俺が今までどんな思いでいたのか···」
「彼奴と父さんに認められたくて頑張ってきたのに···俺の事は見てくれねぇのかよっ···」
目がじわじわと暖かくなっていく。泣きたくないのに、我慢しなきゃ行けないのに、涙が止まらない。
「止まれよっ!泣くんじゃねぇ···!」
涙を止めようと白いローブで目をゴシゴシと強く拭いても、止まる気配はない。
「ぅ···ふぅっ···」
彼奴は俺の事なんて見てくれていない。
そう思えば思うほど、尚更涙は止まらない。
「こんな事考えなければいいのにっ、あそこに彼奴らが居るから、俺がここに居るから考えちまうんだ···。」
俺はこの場から逃げるように走って、走って、走り続けた。
「ア゛」
「どこだよココ」
無我夢中に走り続けていたらイーストンから結構離れた街にたどり着いてしまった。
「仕方ねぇ、しばらくここで暮らすかァ」
と言っても家はない。
ならば人通りの少ない路地裏で寝ることにした。
ずっと走っていたからか、お腹からぐぅ、と音がした。
「食いもん···」
「うぉぉぉ!!何だこれ!見た事ねぇやつだらけじゃねえか!!」
俺は目を輝かせながら市場を回る。
「なァ、おっちゃん」
「コレ買いたいんだけど」
「おぉ。見ない顔じゃのう、ここに来るのは初めてかい?」
「おぅ、ちょっとこの街に迷っちまってよ」
「せっかくだし少しここで過ごそうと思って」
「ほぉう、なら1つおまけじゃわい」
そう言ったおっちゃんは紙袋に高そうなパンを入れてくれた。
「いいのかよ、これ結構高いんじゃねぇの?」
「ほっほぉ、いいんじゃいいんじゃ」
良かった。この街は良い人がいっぱいだ。良かった。
「おー、ありがとよ」
(へへ、こういうとこではちょっとだけ恵まれてんのな。)
少し嬉しくなって今日の野宿場所に向かう。
「やっぱ暗いし人通りも少ないな···」
そう思いながら歩いていると、甘い匂いのする煙が充満し始めていた。
「なんだこれ···っ、くそっ気持ち悪ぃ匂いしてやがる···!」
やばい、得体の知れない煙を吸ってしまった。
「ぁ···?なん···だ、これ」
煙を吸った数十秒後、猛烈な眠気が襲ってきた。
(厄介な魔法だな···)
「おい、本当に此奴があの砂の神覚者の弟で合ってるな?」
「嗚呼、間違いないよ。」
「ひゃははっ!今日は良い収穫ができたよ」
んだ此奴らっ···
「おぃっ!どこ···に、連れてくつもりだ···!」
「この煙を吸ってまだ意識がハッキリしているなんて、流石貴族様だ。鍛えられてる。」
「なら無理やり落とすか?今じゃ抵抗すらできないだろ?」
「そうだな」
その次の瞬間頭に強烈な痛みが走った。
(やべぇ意識飛ぶ···)
その数十分後、変な屋敷に居た。そう、これが俺の今いる状況だ。
「おや?起きたかい無価値のワース・マドル君」
此奴···っ!!
「あ゛ぁ?」
「そんならカッカすんなって!せっかくシェディ様が話しかけてくれているんだ!!」
この大人しめの奴はシェディっつうのか、
いや誰だ
まじ分からん
「お前のオニイサマ、オーター・マドルがくそウザったいから、俺らついお前のこと誘拐しちゃったァ!」
「その通りだよ。」
「僕の兄さんは二本線の優秀な魔法使いだった。だがある日、兄さんは段々と魔法が使えなくなる病にかかったんだ。 僕はどうすることも出来なかった。
その病は直せることもなく、遂に兄さんの綺麗な顔に引かれていた二本の魅力的な線は消え、魔法も使えなくなった。そんな兄さんはオーター・マドルに処刑された。本当、許せない。」
「今となっては魔法不全者は世に出てくる様になり、処刑されることも無くなった。有り得ないだろう?生まれる時代がちがければ兄さんは死なずに済んだのだろうか。まぁそんな事を思っていても意味が無い。」
「その時思ったんだ、オーター・マドルは神覚者だ。手も足も出ないだろう。ならばその弟、ワース・マドルなら、殴っても殺してもバレなければ平気なのではないかとね。」
「チッそんな事ぁ俺に関係ないだろ」
「は〜〜〜〜?無価値君は自分の立場が分かってない様だねェ!!」
「このルーネス様がいっちょ殴ってやろうか?」
どうやらこっちの喧しい方はルーネスと言うらしい
「ルーネス、やめろ」
「すみませんシェディ様♡」
「君には今後実験台として使わせてもらうよ」
「は···いや、どういうことだ『シェディ様にタメ口きいてんじゃねぇよ!』う゛あっ···!!」
ルーネス···に腹を思い切り蹴られた。
そこら辺にいるやつとは違う···
これは鍛え上げられた人間の力。
あのキノコ頭には及ばないが、異次元すぎるパワー。
「ワース君には僕たちの玩具となってもらうよ。死なない程度にね。」
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