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帰り道、一人の男が行方と二宮を止めた。
「ヨォ、待ってたぜ」
「三嶋先輩……」
うろたえる二宮に、内容が分かっていると言わんばかりの変わらない行方の表情。
「三嶋、聞いてたんだろ。教室の僕たちの会話」
「そうだ。俺は光の異能、光が出てる間は空を浮遊していることだってできる。光になることもな」
「学校内で加害を加えない異能の使用は許されている。それで、今お前が校門から足を出しているのは、盗み聞きをしたせめてもの償い、男らしい礼儀のつもりなのか」
ふふっ、と三嶋は笑った。
「ホント、あの事件の時から思ってたけど、行方さんってなんでも分かんのかよ! おもしれーな!」
そして、空に向けて零す。
「こりゃ、No.2も敵わねぇわけだ……」
そして、改めて顔を向き直し、三嶋は頭を下げた。
「自分勝手なのは分かってる……! でも昴をなんとかしてやりてぇ……! 探偵局の力を貸してくれ……!!」
「八百万昴の実の姉が警察長官だろ。親しいみたいだし、別にそっちに頼ってもいいんじゃないのか?」
「それじゃダメなんだ……。昴は幼い頃から神子さんのことを慕ってる。『自分もこんな強くて人を守れる人になりたい』って……。だから迷惑掛けてる話なんて本人から直接言われたんじゃ……アイツどうなっちまうか……」
「ねえ……三嶋先輩、こんなに頭を下げてるんだよ!? それに……檻口先生もなんか怪しかったし……探偵局の出番じゃないの……!?」
しかし、行方は依然として、表情を変えない。
「探偵局は動けない。この件に、まだ明らかな法律に関わる事件性の証拠がないからだ」
三嶋と二宮は、現実の前にただ黙り込んでしまう。
「僕の実習期間も残り二週間だ……」
そして、二人の顔を見遣る。
「それまでは、見習いでもお前たちの “先生” だからな」
「行方くん……!」
「行方 “先生”」
「行方先生……」
その後、三嶋の案内で着いてきて欲しいと言われた場所まで案内された。
「あ? 実習生じゃねぇか」
「なんでそんな奴連れてきたんスか、三嶋さん」
三嶋が束ねている逸れ者たちのアジトだった。
と言っても、取り壊し予定ではあれども、県が先送りにしている工事未定の二階建ての小さな建造物。
窓は古くに割られ、吹き曝しの瓦礫跡だった。
「タバコの類はないみたいだな。エロ本は……年頃だし許容してやるか。買った物ではなさそうだしな」
数多の不良たちからメンチを切られている中、行方は何も変わらない姿勢で辺りを見物した。
「あぁ、逸れ者集団って呼ばれてるけど、俺たちはタバコや喧嘩、サツに迷惑かけることはしねぇんだ。ただ放課後に集まって、馬鹿やって……それだけなんだよ」
そして、一人の女性の姿に二宮は目を丸くする。
「九恩さん!?」
「あ!? アタシが居たら悪ぃかよ!!」
「いや……九恩さん、孤高の人って感じがして、三嶋先輩とも相入れなさそうな雰囲気だったから……」
異能教学園が平穏を保たれていたのは、確かにNo.4、No.8率いる生徒会の圧力が大きい。
ただ、影の立役者がNo.3、三嶋光希と、ここに居たNo.9、九恩櫛と言う、二宮と同じ2年生の唯一の女生徒ヤンキーだった。
No.3 三嶋もNo.9 九恩も、名の知れた不良二人は、こぞって悪事を働いたりはしなかった。
その為、力が敵わないと判断した不良たちもまた、二人の影の圧力によって抑制されていた。
しかし、九恩は孤高であり、三嶋のチャラけた性格を良しとしない堅気な性格で、相反して壁が隔たれていた。
そんな九恩が、この三嶋グループに居たのだ。
「他校の男どもと喧嘩になっちまって……別にアタシが負けることなんてねぇのに、コイツが仲裁しやがって……」
「はぁ!? 女のお前が男数人に勝てる訳ねぇだろ!」
と、三嶋グループの不良の一人が割って笑い出す。
「あぁ!? アンタ、シメられたいのか!!」
そして、九恩も声を荒げて反発した。
しかし、その顔はあまり嫌そうではなかった。
「それで、今回、実習生の行方先生を連れてきた訳なんだけど……この中に副会長にシメられた奴いるか?」
そして、二人の男が前に出てきた。
「二年の森、一年の小林だな。把握している」
行方が姿を見ただけで答えると、二人は目を丸くする。
「それで、副会長から何をされたんだ?」
「実害を受けたことはないんだ……。ただ、ちょっと前に三嶋さんに拾われる前、ヤンチャしてた頃の暴行の記録を提示されて……」
「脅しをかけられた……違うか?」
「そうです……内申に響く……親にも迷惑かかる事態になるって……」
「確かに俺たちは喧嘩もしてたけど、三嶋さんに拾われてから、こんな俺でも変われるかもって……」
「そうか……」
ふぅ……と、辺りは静かな空間が広がった。
周りの不良たちも、実習生の行方がここへ来た理由が飲み込めたようだった。
その場にいる誰しもがこう思っていた。
“逸れ者を統括してる三嶋の方が人を助けられている”
しかし、行方だけは違った。
「お前たちが悪いな」
「そんな……」
「記録が現在提示されている通り、事実として、お前たちは他者を害することをした。それは取り消すことが出来ないし、自分たちが反省しましたと言ったところで、変わることのない事実だ。実際、そんなことをしなければ、今こんな事態になることはなかっただろ」
「そんなの……流石に言い過ぎだよ……」
行方の容赦のない物言いに、二宮も言葉を零す。
「僕は別に、記録の話を責めているわけじゃない。決して揺るがないのは、お前たちの “記録” ではなく、受けた被害者たちの “記憶” だ」
そこに、九恩は割って入る。
「ハハっ、“記録じゃなくて記憶” か。三嶋がコイツを連れて来た理由が分かったよ。実習生が伝えたいのは、アタシたち逸れ者がどんなに反省して変わりましたって訴えたところで、受けた被害者の傷は癒えない。そんなものは自己満足でしかない。だからコイツはここまで強く言ってるんだ。“被害者側の傷と向き合え” ってな」
「それでも、君たちは僕の言い分に対して、決して反発をしなかった。それはしっかり理解し、受け止める覚悟が出来ている証明だ。僕は間違いを非難した。だが、人間は必ず過ちを犯す。間違えて、成長する。だから君たちは胸を張って歩いて行けばいい」
「行方さん……!」
その場の全員が、行方に敬意の眼差しを示していた。
そうして、行方は三嶋と向かい合う。
「そして、今度は八百万昴が間違えた番だ。それを責め立てるのは違うのは分かっているな。お前たち全員に、彼の過ちを受け止められる覚悟はあるか?」
三嶋は、全員の顔をじっくりと眺めると、再び行方と目を合わせ、グッと強く胸に拳を当てた。
「漢、三嶋光希! 行方先生に、この場にいる全員を代表して誓います!!」
少し微笑むと、行方はそのまま去ってしまった。
「ちょ、ちょっと待ってよ! 行方くん!」
それに続く二宮。
「お前、ホント面白い奴連れて来たな。こんな逸れ者共が全員、言葉で納得させられた。こんな光景見たのは初めてだぜ」
「そうだろ? 初めて会った時にビビッと来たんだ。あの人は、相当な修羅場を潜ってきてる……!」
そう言うと、三嶋は九恩にニカっと笑った。