コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
翌日、二宮は行方と駅前で待ち合わせをしていた。
「遅いぞ、二宮」
「時間通りでしょ!」
「だからだ。五分前行動」
「はいはい……」
「はい、は一回」
「は!! い!!」
と、騒々しい駅前、朝七時の通勤ラッシュに揉まれた直後の二宮は、行方の相変わらずの真面目振りに多少のイライラを見せていた。
そして、二宮にとって更に嫌なことが……。
「では、奉仕作業を始めとする。誰かを助けられたらレポートに記載し、まとめて提出すること」
先日の補習のもう一つの課題、奉仕作業だった。
貴重な土日という休日を使い、誰かに声を掛け人助けをし、どんなことをしたか、どんな言葉掛けが出来たかなどをまとめるレポートが残されていた。
少し人見知りの二宮にとっては、億劫な課題だった。
「じゃあ行くぞ。二宮も異能探偵局員だ。こんなもの、サクッと終わらせてみせろ」
行方は書類とペンを片手に歩いて行く。
二宮も項垂れながらもそれに続いた。
人が少なくなってきた頃、行方はピタッと立ち止まる。
「二宮、あれを見てみろ」
行方の視界の先には、大きな荷物を携え、今まさに歩道橋を渡ろうと階段の一歩目を踏み出すお婆ちゃんがいた。
「早速困ってる人だ。さあ、行け」
しかし、二宮は額に汗を滲ませていた。
「い、行くわよ……行く……大丈夫……」
しかし、二宮にとって、その一歩は大きかった。
失敗したらどうしよう、迷惑だったらどうしよう。
ヒーローになると謳いながら、悪人に対しては容赦なく飛び込める二宮だが、それは一種のアドレナリンによるものが大きかった。
「やれやれ……早く行くぞ……」
行方が二宮の手を強引に掴み、近付いた瞬間。
「おいおい、婆ちゃん大丈夫か?」
「げ……」
颯爽と現れ、老人に話し掛けたのは、三嶋光希。
行方たちが先を越され呆然と立ち尽くす中、三嶋はお婆さんと談笑混じりに渡り終えてしまった。
「昨日からなんなのよ、あの人は! なんでどこにでも出没するの!? 猿なの!?」
「いや、アイツの行動パターン的にあり得なくはない。昨日アジトへ訪れた際、彼らが全く買わなさそうなお菓子の類が少し散らばっていた。恐らく三嶋は、普段から街を闊歩しては治安維持に動いているのかも知れない」
すると、三嶋は立ち尽くす二人に気付き、早足で駆け寄って来た。
「よぉー! 今日も会ったな!」
「はぁ……」
「な、なんだよ二宮。随分怪訝そうにするな……」
「今、二宮は補習の課題中なんだ。本来であれば、先程お前が助けた老人に声を掛け、手伝い、それで課題は終了だったんだ」
「あ、悪いな……俺、困ってる人見過ごせなくてさ……。声掛けるのが遅れて怪我されても嫌だろ?」
二宮は色んな意味で再び項垂れた。
「三嶋のこういうところを見習わないとな」
「分かってるわよ……」
「で、三嶋はどうしてここに居るんだ? 暇な休日に街を闊歩するのは分かるが、それにしても朝が早いな」
すると三嶋は、頬を掻いてヘラッと笑った。
「実は、人には言ってないんだけど、毎朝トレーニングを日課にしてんだ。アイツらに負けたくないからさ」
「三嶋の強さはそこから来ているのだろう。光の豪胆な異能力とは違い、地道な努力が、更に三嶋の可能性を引き上げている。事件の時もそう、相手の異能に合わせて咄嗟の判断が出来たのも、普段の行いの賜物だろう」
「そこまで褒められると照れるな……」
三嶋はまた、ヘラヘラと頬を掻いた。
「そんじゃ、俺まだジョグ中だから! 頑張れよ、二宮! じゃな!」
そう告げると、三嶋は小走りで去って行った。
三嶋の背を、行方はじっと見遣っていた。
「どうかしたの?」
「アイツに着いて行くぞ」
「え、課題すぐに終わらせないの!?」
「明日もある。それよりも優先事項が出来た」
そう言うと、行方は三嶋の後を追ってしまった。
「昼食はジャンクフードか。健康に悪いな」
「ねぇ……ちょっと……。これじゃストーカーじゃないのよ!!」
行方と二宮は、三嶋に気取られないように尾行していた。
昼食も済むと、三嶋は昨日のアジトにいた数名と合流、ゲーセンへ行ったり、休日を満喫していた。
「ねえ……いつまで続けるつもり……? こんなんじゃ課題も何も終わらないんだけど……」
「尾行中に困ってる人がいるかと思ったが、意外にもそんな素振りの人は居なかったな。本当に明日になりそうだ」
明日も朝七時集合を考えると、一層顔が暗くなった。
更に尾行を続けると、三嶋たちは河原へ訪れた。
橋の下へ行くと、何やら辺りを注視しながら周囲を囲んでゴソゴソと何かをしている。
「何をしてるんだ……?」
「ねえ、もう夕方になるよ? 何が目的なのよ……」
「いや、待て。来たみたいだ」
その視界の先には、三嶋たちの人数を遥かに上回る人数の、有名な不良高校の生徒たちが訪れていた。
「行ってくる。異能は使用させない。従って二宮も異能は使えない。お前は仮に、僕が負傷した時の為にここで待機していつでも警察へ連絡できるようにしてくれ」
そう言うと、行方は駆け足で行ってしまった。
「はぁ……なんなのよ……。なんで不良たちが攻めてくるって分かったんだろう……。探偵か……私にはまだまだ見えてる世界が違うのかなぁー」
どうせ助けが必要な瞬間などない。
行方は三嶋たちに一切の手を出させず、一人でボックスを使い次から次へ拘束していた。
待機中の二宮の視界には、ゴロンと困った顔を浮かべて寝転がっている少年の姿が見えた。
「どうせ緊急事態なんてないし、私は課題でも終わらせるか……」
そして、何気なく少年に近付く。
辺りは既に、夕陽で赤く照らされていた。
一日、行方と共に尾行に付き合っていたせいか、疲労感から躊躇っていたその言葉はスッと出てきた。
「ねぇ、貴方、どうかしたの?」
「あ?」
すると、少年は気怠そうに二宮を見遣る。
そして、急に飛び上がった。
「お前……炎の女……!!」
少年の周囲には、黒いオーラがゾッと立ち上り、少年を包むように纏わりついていた。
「何……コイツの禍々しいオーラ……。アンタ、何者なのよ! 急に何!?」
「探偵局の奴じゃなくてもいい……強い奴……凄い奴ならいいんだ……。お前、炎の女! 俺と戦え!!」
声を荒げると、少年は勢い良く飛び掛かってきた。
速度は常人の比ではない。異能によるものだった。
しかし、二宮は行方に異能使用厳禁と言われている。
「失礼……! 炎の女じゃないわよ! 私にも二宮二乃って名前があるのよ!!」
そう言いながら、二宮は咄嗟の反射神経で避けた。
「なんで炎を出さない……?」
「アンタ……法律を知らないの? 私欲の為の異能行使は立派な犯罪になるのよ!」
「んなモン、聞いたことねぇよ!!」
そして、更に速度を上げ、高速で襲い掛かる。
流石の二宮も炎で一気に後退し、ギリギリで避けた。
「出したな……炎の異能だ……すげぇ……!!」
「何よ……アンタも凄い異能じゃないの……!」
「じゃあ、それを倒したら俺はもっと強ぇってことだ」
そう告げた途端、二宮の眼前に現れた。
「さっきより早く!? まだ抑えてたの!?」
しかし、眼前から急にいなくなり、少年は二宮の背後に移り、『避ける』という手段を失くしていた。
「これで逃げ道はねぇ!!」
この状況、相手を無傷で自分も最低限守れる最善手。
二宮は、なんとなくこの少年が悪人には見えなかった。
ボォン!!
二宮は高火力で爆破。
砂煙が立ち上る中、二宮は自分に爆発を放っていた。
少年は、目を丸くして砂煙を見遣っていた。