Hiromu side .
翌日。
どこに行きたいかと聞かれて俺は即答できるタイプじゃない。相手が楽しめる、なるべく最善の答えを考え尽くすタイプで。水族館、遊園地、動物園…王道のデートスポットは浮かぶもののどれも正解では無い気がする。今は冬だから、あまり寒くない場所の方がいいのかもしれない。近くにご飯屋さんがあったら尚いいかも。なら、あそこしかないか。
『ね、理人。プラネタリウムとかどう?』
既読、早っ…
理人『おぉ』
『気に入らなかったら、もっと考えるよ?』
理人『ううん、考えてくれてありがと。行こうよ、オレ、あんま行ったことないし。』
その後、予定はあれよこれよという間に決まって、次の土曜日に行くことになった。
池袋にあるプラネタリウムは都内でもかなり有名で、周りにだっていくらでもある遊び場所も食事場所もあった。男友達2人で遊びに行くにも適切だな。指定された集合場所に立ちながら街ゆく人をよそ目に俺は緊張する。理人と2人で遊ぶなんか今更なのにプラネタリウムというプランがそうするのか、なんて心臓は少しだけバクバクと動いていた。
理人「やっほー、大夢。なんか嬉しそうだね」
「うわ、びっくりした」
理人「ふふ、そんなに?待たせてごめん」
時間をみると、予定時刻よりも少し早かった。集合もしたし、プラネタリウムに向かおうとしたその時。理人が「あっ。」と声を上げ、自分のカバンをがさがさと漁る。
理人「大夢ってマフラーとかはすんのに耳真っ赤なのずっと気になっててさ。だからこれ着けて。」
もふっと冷たかった耳に温もりを感じ、自分が今イヤーマフをつけられたのだろうと思った。耳にイヤーマフ越しとはいえ、リヒトに抑えられていて反射でそれに触れると外に晒された手は少し冷たくなっていた。それでもその手はポケットの元へ帰ることはなく、イヤーマフの上に居座り続けていた。
理人「大夢、暖かい??」
「暖かいけど、」
理人「やっぱり?良かった。ずっと耳赤いん気になってたからさ。」
人にイヤーマフとか着けさせておいて、自分はマフラーすらつけてないとか。正直何してんのって感じ。少しでも温かくしてほしい。そう思った俺はイヤーマフに添えられた手に自分の手を重ねる。
理人「…へ」
俺の為にわざわざイヤーマフを買ってくれて、自分の手が冷たくなるのをそっちのけに他人の耳を心配するのだから可笑しくてたまらない。まぁ、理人らしいけど。
「イヤーマフ、ありがとね。」
理人「そんな感謝されるような事してないけど、笑」
池袋のプラネタリウムはただ春夏秋冬の星座を映し出されて淡々と説明されていくだけかと思えばどうやら違うらしく、面白そうなコラボや人気声優さんの朗読劇まであるらしい。種類が豊富すぎる中、「世界の星座プランいいやん」と横に立つ彼が声を上げ、それを選んでみた。
実際に椅子に座り、映される夜空を見上げると、瞬く星は本当に綺麗で、飽きもせず様変わりする空はとても楽しかった。そんな中でふと隣で見上げる理人の瞳に写る星を見た時。星空を詰めたらきっとこんな瞳なんだろうなと空想が頭の中を巡り巡った。
理人「ん、大夢?」
まずい。美しいあまり見とれていたのに気づかれただろうか。
「綺麗だな〜って。」
理人「…オレが?」
「…星が。」
こちらを茶化すように笑う理人をいじめてみた。でも嘘じゃない、星だって綺麗なのだから。胸のざわめきを誤魔化したく目をそらす。俺はこの空よりも理人の瞳が一層綺麗だと思ったのは何故だろうか。
40分程の上映は一瞬で終わり場内が明るくなった。幻想的な世界から一気に現実に戻された気分だった。その後、ご飯を食べよう!という話になり、近くにあるカフェへと足を運んだ。そこで2人とも同じオムライスを頼み、料理が来るのを待つ。
「プラネタリウムってこんな楽しいんだ」
理人「んね。楽しかったわ、結構クオリティ高かったよね」
「ね、俺小学生ぶりかも。昔、ドラえもんとコラボしてたプラネタリウム見に行った気がする」
理人「気がする?笑 まぁ小学生だしそんな覚えてないか。」
店員さん「お待たせ致しました〜」
理人「おわ!!きた!!」
俺たちはトマトソースのかかったシンプルなオムライスを頼んだ。よく焼けた薄い卵にスプーンをくぐらせ、中のチキンライスと共にゆっくりと口をすべらせる。目を大きく開けていたのか伝わったらしく、「おいしい?」と面白おかしいものをる様に聞かれた。「おいしい」と一言呟くと、「良かった」なんて言葉を弾けるように笑う笑顔を向けながら言う。何がそんなにおかしいんだろう。
理人は昔から俺に甘い。昔というか、デビューしてからというか。年齢は3つも下というのに、妙に大人っぽくてなんか俺が子供に見えることがある。そんなこともあって、メンバーから「どっちが年上?」と言われるのは日常茶飯事だ。とにかく、いつも甘やかされている気がする。いつだっただろうか。ダンスの練習の休憩時間のときに迅と理人が話しているところを見て、ちょっと盗み聞きしてみようと思って壁に寄りかかった。
迅『りーくんって大夢くんに甘くない?まぁ、可愛いけど…』
理人『…そう?』
迅『え、あれ無意識なの?だとしたら驚くんだけど!!』
理人『んー、まぁ確かに好き好きって言ってるのは大夢が一番多いかも。いじるのも少ない気がするし』
迅『だからそういうことじゃなくて!!いつも大夢くんを目で追って何か困ってないか顔色伺って心配してるのも甘いのも丸わかりなの!!大夢くんも大夢くんでりーくんが見てないときに大概見てんのよ、笑 こっちが恥ずかしくなるから!!』
…え、何それ。俺初耳なんだけど…恥ずかしい、そう思ったのは記憶に残ってる。俺を甘やかす理人の存在に居心地がいいと思ったのはいつから?どこか放っておけない理人と感じたのはいつから?目の前でオムライスを頬張る彼をみて笑みがついこぼれてしまう。
しばらく無言で食べていたけど、先に食べ終わった理人がスプーンを置き、真面目な顔でこちらを見据え口を開いた。
理人「大夢はさ、オレのことどう思ってんの?」
「えっ」
唐突すぎてご飯を吹き出しそうになる。どう思ってる、とは。
理人「好き?好きでしょ、オレのこと。」
「…理人。」
笑顔の圧を彼にかけると、理人はにやっとして笑いを堪えている様子だった。なんだ、ただの遊びか。…理人は俺にとって友達。それ以上でもそれ以下でもなくて、メンバーであり相棒であるだけなはずなのだから、答えとして適した答えが彼に対しての評価を述べればいいだけのこと。それとも、「好き」「嫌い」だの話なのか考えていると俺の予想は的中していて、
理人「好き?」
また真面目な顔をして問いかけて来た。その表情は何故か俺を落ち着かせない。
「突然だね?」
理人「まぁ、笑 少しは好きでしょ?ね?」
「まぁ、そりゃ…」
理人「…そう、だよね。」
ドクンとより強く心臓が動いた気がした。そりゃ少しは好きだ。じゃなきゃ今もオムライスを食べに来ていない。今更好きかなんて感情だけじゃ測れない関係なはずなのに。なんで。なんで、今日に限って”好き”って言われて悲しそうな顔をするの。
「…まぁそりゃ嫌いじゃないけど」
理人「そうだよね!」
にこっと笑ったキミの顔はとても寂しそうで悲しそうで。心臓が急に締め付けられた。今こちらを見つめる彼の目に俺は写っているのだろうか。目はほんとに合ってる?その1回だけ悲しそうに笑った理人はすぐにいつもの笑顔に戻り、その日の遊びも何も無く終わって、最後に手を大きく振り返した。
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