◆◆◆◆
数時間前――
「谷原先生……俺……あ!!」
ドアが閉まった瞬間、ぐいと腕を引かれ、ベッドに押し倒された。
「……約束が違うじゃないか」
谷原が奥歯をギリギリと噛みながら、それでもボリュームは抑えようと押し殺しながら、地底を這うような低い声で言う。
「お前、この数日間で何をした……?」
漣は震えながら谷原の充血した目を見上げた。
「3件の客を断ったんだぞ……?」
「すみません……。でも体調が悪くて……」
「なんだ、体調って!」
「その、酷いヤラれ方をして、後ろを負傷して……」
言葉の途中で頬を殴られた。
「!!」
痛さに眩暈がする。
目の前の地獄に吐き気がする。
「それはお前が遅れたからだろうがあ!」
囁きながら叫ばれたのは、生まれて初めてだった。
「後ろを負傷だと?見せてみろ!」
言いながら谷原が瑞野のベルトをぐいと引く。
「いやだ……!」
無駄だと思っても身体がくねる。
自宅のベッドでなんか嫌だ。
二部屋離れた自室に楓がいるのに。
今にも母親がお茶を持って階段を上がってくるかもしれないのに。
「……抵抗していいと思ってるの?漣君」
つい数日前、豚3号から言われたのと同じ言葉を吐かれる。
「…………」
力を抜いた漣の白シャツのボタンが外される。
「これはすごいな……」
白い体に残された男たちがつけた痕を、谷原は一つ一つ舐めていった。
「……ッ」
嫌悪感で吐き気が昇ってくる。
下ろされたズボンに手が這い、漣の先ほど弄ったものを掴んだ。
「なかなか硬くならないな……。もしかしてどこかで抜いてきたか?」
谷原が眉間に皺を寄せる。
「……このクソビッチが!抜く元気があるなら客とヤレよ!」
漣はキッと谷原を睨んだ。
(全部………あんたがそうしたんだろ……!)
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
あれは2年前の夏だった。
高校1年生だった漣は、絵画教室で通ってくる谷原と仲良くなった。
「身体の線がきれいだね、漣君」
谷原は漣に言った。
「そう?」
「うん。姿勢がいいし、手足のバランスも良くて、モデル向きだよ」
「へえ」
背が同級生と比べて低いことがコンプレックスだった当時、身体を褒めてもらうことなんてなかったため、素直に嬉しかった。
「僕の絵画教室で人物デッサン会やってるんだ。知ってる?」
「えー、知らない」
「いつも一日何万とお金を払ってモデルを雇ってたんだけど、漣君。バイト代わりにやってみない?」
その言葉がきっかけだった。
一日で何万も貰えるなら。
軽い気持ちだった。
しかし蓋を開けてみると、それは……。
ヌードモデルだった。
(いっか。別に減るもんじゃないし)
そう思うことにして漣は谷原が言うままにポーズを取った。
デッサンが始まった。
生徒たち数人の目つきがおかしいと感じたのは、開始10分を過ぎた頃からだった。
明らかに漣を見る目が見開き、口がだらしなく開き、息が上がっている。
視線だけでその股間を見ると、服の上からでも十分わかるほどに勃起していた。
デッサンが終わると、谷原は漣を別室に案内した。
「お疲れ様」
確かそれはオレンジジュースだったと思う。
冷房は効いていたが、同じ姿勢で何時間も静止しているのは意外と大変だった。漣はそのジュースを一気に飲み干した。
目が覚めると、自分は作業台の上に寝かされていて、周りには三人の男たちがいた。
「………?」
慌てて起き上がろうとしたが、ひどい頭痛で身体が動かない。
視線だけで自分の身体を見ると、シャツのボタンは外され、インナーはたくし上げられ、履いていたはずの短パンは脱がされ、かろうじて残っていたボクサーパンツに、一人の男の手が触れていた。
「な……な……!」
「あ、起きた?」
谷原が視界に入ってきた。
「漣君、聞いて?」
谷原が話す間も、三人の男たちの手は漣の身体の上をなぞり続ける。
「この絵画教室、そろそろ閉鎖しようかと思ってるんだ」
「……?」
言われている意味が分からなかった。
しかし首を這う男の舌が熱いのと、胸の突起をつねる男の指が気持ち悪くて、漣は動かない身体を痙攣させた。
「絵画教室の賃貸料で、君のお母さんにいくら払ってるか知ってる?」
「あッ……」
パンツの上からソレを掴まれ、強めに上下される。
「月12万円」
「うっ……」
胸の突起を舐められ吸われる。
勝手に下半身が硬くなっていく。
「一方絵画教室での利益は月5000円×30人で15万円」
硬くなって扱きやすくなったのか、下半身を攻める手が早くなる。
「……あ……ああ!」
「僕はもうやめてもいいんだけど」
男がボクサーパンツに手をかけ、それを一気に膝まで下げると、硬くなったそれを口の中に入れた。
「や……やめ……ああッ」
「やめちゃったら、君の家は、君のお母さんは、弟は、困るだろうね?」
谷原が三人の所業に全く気付いていないような声で話し続ける。
漣のモノを咥えた口が思い切り吸い取る。
音を立てながら上下にピストンする。
「どうする?漣君。僕はどうしたらいいだろう」
「は……!ああッ!」
胸の突起を左右から舐められ、下半身を吸われながら漣は、涙目で谷原を見上げた。
「漣君次第なんだけど」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
それから月に多い時で10回以上、客という形で絵画教室の生徒たちに抱かれることになった。
彼らが谷原にいくら払っているかはわからない。
しかし、才と収入がそれなりにある谷原からしたら、こんな山奥のアトリエに週4回も通い、趣味に毛が生えた程度の生徒たちに絵を教えて収益が3万円とは、何とも理に合わない話ではあった。
谷原はその客たちからの収益で、絵画教室を続けていた。
そして時たまサボろうとしたり、嫌がったりする漣をその都度捕まえ、このようにお灸をすえるのだ。
「漣君のお母さんが介護職でいくらもらってるか知ってる?」
自分に跨った谷原は漣に言い落した。
「手取りで21万円だよ。夜勤もあるのに、シビアな世界だよな」
下半身の衣服を剥ぎ取ると、その中心を乱暴に握る。
「絵画教室の収入は12万円。それでやっと貯まった金は300万円。漣君の大学費用だ」
「……ッ」
上下される痛さに顔を歪める。
「楓君の分がまだ貯まってないんだよ、わかるか?」
乱暴に指が漣の治りきっていない後ろに挿し入れられる。
「……あああ」
痛みと恐怖で、口の端から声が漏れる。
「ここでやめてもいいけど?」
谷原の指の動きが止まる。
「俺は……大学なんか……!」
「行く気ない?でもお母さんは納得しないと思うよ?二人を大学出すのが夢だって前に話してたもん。そうしたらお母さん、自分の身体を売るかもね?」
「!!」
漣は谷原を睨んだ。
「そんなことさせたら……絶対に許さない……!」
「はは。勘違いするなよ。僕がさせるんじゃなくて、自らそういう道を選ぶかもしれないってこと。いくら僕でもおばさん専門の男を探すのは難しいからさ。自分で何とかするんじゃない?」
「……!」
「そんなことになったら、嫌でしょ」
谷原は笑った。
「続けるか、辞めるか、今ここで自分で選択するんだ」
「……………」
「どうする?漣君」
漣は小さく息を吐くと、枕に頭を沈めた。
そしてゆっくりと、両足を左右に開いた。
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