休憩が終わった後も話は続いた。
「先ほどの話だが、ユウの話を聞いて、毎日、里帰りをするのか?」
「ユウ様に向かって、ユウって呼び捨てなの?」
リゥパは恐ろしいものを見たと言わんばかりに少し苦い顔をして、ナジュミネを見つめる。
「いや、本人にそう呼べと言われたのだから仕方あるまい」
「だとしても、私には恐れ多いわね。素直というか生真面目というか……。っと、里への伝え方よね? 私はそこまで間抜けじゃないわ。あの子にやってもらうわ」
リゥパが上空を指し示す。すると、一羽のフクロウが彼女の肩に素早く降り立った。
「白いフクロウ?」
「ルーヴァって言うのよ。森の知者、樹海の賢者とも言われる高位の妖精よ」
そのフクロウの金色の瞳に真っ白無垢な身体は神々しささえ感じさせる。
「ほぅ。鳥をあまりじっくりと眺めたことがなかったが、中々にかわいいな」
「あーら、ありがとう。あんた、意外といい子じゃない?」
ルーヴァは甲高い声でナジュミネの言葉に反応した。ナジュミネは一瞬心臓が跳ねたが、すぐに冷静さを取り戻した。
「おぉ、びっくりした。喋るのか?」
「あーら、ケット様やクー様、アル様も話せるじゃない? あーしのほかにもいるわよ? これから行く世界樹には、お喋りリスのラタがいるわよ」
ルーヴァがじゅるりと涎を垂らす。仲間でなければ捕食対象なのだろう。
「ケット、クー、アルは様付けということは格が違うのだな?」
「あーた……魔人族だから知らないかもだけど、あーしはちょっとだけ偉い妖精、でもね、ケット様は妖精王よ? お・う・さ・ま。あーしなんかはもちろん、人型をしているエルフも妖精の一角に過ぎないのだから、ケット様の下よ? そのケット様の側近というか心から信頼している仲間がクー様とアル様の二匹なの」
「そうなのか」
「そうなのかって、あんた、ケット様は偉いだけじゃなくて、べらぼーに強いのよ? ケット様が本気出したら、今勝てるのはユウ様とムツキ様くらいよ? 見たところ、あんたじゃ勝てる見込み0ね」
ルーヴァは大げさに羽をばたつかせながら、そう言い切った。
「もしかしたら、妾はケットを旦那様と呼ぶこともあったのだろうな」
ナジュミネが冗談めかした言葉を使うと、ルーヴァはケタケタ笑った後に小さく呟いた。
「……それはないわ。ケット様はもう娶らないわ」
ルーヴァのあまりの落差に驚きつつ、ナジュミネはその言葉に引っ掛かる。
「もう?」
「ナジュミネ、……本人のいない所で詮索はやめておいた方がいいわ。ルーヴァもそれ以上は答える必要もないわ」
「そうだな。不躾だった。すまぬ」
「素直なのはいいことね」
リゥパがナジュミネの頭の方に向かって、手を横に振る。撫でている振りのようだ。
「リゥパよ、たまにお姉さんぶるのは癖か?」
「まあ、リゥパはもう数せ」
「【マジックアロー】」
ルーヴァの言葉を遮るように、【マジックアロー】が目の前を掠めていく。ルーヴァは目を真ん丸にして、驚きを隠さない。
「ナジュミネ。今日の昼食は焼き鳥でいいかしら?」
リゥパは次のマジックアローを用意しており、本気でルーヴァを狙っている。
「あはは……。さいならー!」
「お! ルーヴァじゃないか!」
ルーヴァの気配に気付いたムツキが素早く掴み取り、撫でたり頬ずりしたりとやりたい放題してくる。
「あ! しまっ! ムツキ様、そんなお戯れを! ちょっ、ワシャワシャしないで!」
「いや、フクロウもいいよな。この頭のところがモフモフしているのに、翼はつやつやとして、それでいて、飽きがこないし、すごくいいよな!」
ムツキは昨夜からモフモフが足りなかったようで、ルーヴァを気が済むまで撫でようとしてくる。頭の毛がふわりとしていて、逆立てたり直したりと彼の手の休む間がない。その間にも、翼の手入れと言わんばかりにいろいろなところをまさぐってくる。
「ムツキ様、話聞いて! ちょ、どこ触って、いや、助けてぇーっ!」
「うら……」
ナジュミネが思わず本音をこぼしそうになる。
「え?」
「いや、旦那様のモフモフ愛にも困ったものだな」
「んふっ。いいえ、ルーヴァには良い灸になったわ。ところで、ナジュミネ。ムッちゃんには年齢の話をしないように、ね? 年齢は乙女の秘密、だからね?」
「あ、あぁ……」
ナジュミネはもしかしなくとも、今のところ自分がムツキの周りで最年少なのだろうな、と確信した。
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