コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
《前編》
京都の静かな街角に、イギリス人観光客が立っていた。名前はチャールズ、真面目な顔をしているが、どこかギラギラした目をしていた。彼は何かを探している様子で、風景には興味を示さず、ただただある一点を凝視していた。
その視線の先には、門をくぐる前に立つ一人の男性がいた。彼の名は田中、京都出身のサラリーマンだ。背筋をピンと伸ばし、ポケットからスマホを取り出して、何かを確認している。
チャールズは田中に近づき、声をかけた。
「Excuse me, sir! Do you know where the nearest tea house is?」(すみません、最寄りの茶屋はどこですか?)
田中は少し顔をしかめ、ゆっくりと振り返る。「お茶屋?お前さん、それ、京都ではちょっと気をつけたほうがいいよ。」
チャールズは目を大きく開けて、興味津々で答える。「Why?」(なぜ?)
田中はにやりと笑い、「京都のお茶屋には“いろんな意味”でおもてなしがあるからな。」と、意図的に謎めいた表情を浮かべた。
チャールズはその言葉に少し戸惑いながらも、「I’m not sure I understand…」(よくわからないけど…)と首をかしげた。
田中は一歩近づき、声を低くして言った。「まぁ、あんまり気をつけなきゃ、イギリス人は逆に『お茶』のことをとんでもない目にあうかもしれんぞ。」
「What do you mean?」(どういう意味ですか?)
田中は真顔で語り始める。「京都には“お茶”の扱いが、かなり特殊なルールがあるんだ。特に外国人には難しい。」と言いながら、静かに茶道の作法を見せつけるように手のひらを広げた。
その時、田中の後ろで、突如として一人の若い女性が現れ、英語で話しかけてきた。「お手伝いできることはありますか?」
田中はその女性を一瞥して、「まぁ、今は俺が説明してる最中だ。」と、無言で冷たくあしらった。すると、女性が少しびっくりした顔をし、すぐに後退しながら「ごめんなさい」と一言。チャールズはその光景を見て、少し動揺しながらも、
「You’re very polite…」(とても礼儀正しいですね)と言った。
田中は苦笑いを浮かべて言う。「礼儀正しい、って言うか、表に出さないだけだ。心では何を考えてるか分からんからな。」
その瞬間、田中は後ろに下がり、自分のスマホを取り出して調べ始めた。チャールズは不安げに目を泳がせ、何かを探し始めた。
田中がぽつりとつぶやく。「実はな、京都の本当の“おもてなし”は、イギリス人にはちょっと刺激的過ぎるかもしれんぞ。」
チャールズは眉をひそめ、「What do you mean by that?」(それ、どういう意味ですか?)
田中はスマホを戻し、ニヤリと笑った。「京都の茶屋で味わうのは、『本物の』お茶だけじゃないんだ。『変わった』お茶もある。」
チャールズは困惑し、「I think I’ll just go to Starbucks…」(スターバックスに行くことにします)と、身を引こうとした。
田中はそのまま歩きながら、軽く振り返って言った。「あ、気をつけろよ。スターバックスに行くと、今度は『アメリカの』お茶も試さなきゃいけないぞ。」
《後編》
田中が歩いていると、前方からチャールズが歩いてくるのが見えた。チャールズの顔には得意げな表情が浮かんでいる。手には何かを持っているようだ。
「Hey!Mr.TANAKA!」(田中さん!)と、チャールズは大きな声で呼びかけ、得意気に近づいてきた。
田中は少し驚きつつも、冷静に応じた。「ああ、また会ったな。何か用か?」
チャールズは満面の笑みを浮かべ、
「Actually, I misunderstood a bit what you said earlier. The secret of Kyoto’s teahouses, I figured it out.」
(実はね、さっきの話を少し誤解してたんだ。京都のお茶屋の秘密、わかったよ!)
と言って、手に持っていた袋を田中に見せた。袋には「Starbucks」のロゴが光っている。
田中は目を見開き、少し笑いながら言った。「お前、それが『秘密』だと思ってるのか?」
チャールズはニヤリと笑いながら、「No, this is Kyoto’s “real hospitality. Starbucks Frappuccinos are the best!」(いや、これが京都の『本当のおもてなし』さ。スターバックスのフラペチーノ、最高に美味しいぞ。)
田中は肩をすくめ、「フラペチーノか…やっぱりイギリス人って、お茶の本質を理解できないんだな。」と冷ややかに言った。
しかし、チャールズは一歩も引かずに言った。
「Yeah, but you know what, Tanaka? Actually, this is not the only way. The British have another way to enjoy Kyoto.」
(ああ、でもな、田中。実はこれだけじゃない。イギリス人には『別の意味』の京都の楽しみ方があるんだ。)
田中は眉をひそめた。「お前、何かしでかす気か?」
チャールズは自信たっぷりに、英語で言った。
「You think you know everything about Kyoto, but there’s a special place I’ve found that’ll change your perspective. The English way.」
(お前が京都のことを知ってると思ってるだろうが、俺が見つけた特別な場所が、お前の考えを変えるんだ。イギリス流に。)
田中はその言葉に興味を示さず、「ふうん、どこだ?」と聞き返す。
チャールズはにやりと笑って、どこからか小道を指差した。「There it is. The British Garden.」(あそこだよ。『英国式庭園』だ。)
田中は少し驚き、そして無表情に言った。「それが京都流の仕返しか。」
チャールズは楽しそうに言った。「Yes, indeed! It’s time for you to experience it. You’ll see what I mean.」
(そうだ、君にそれを体験してもらう時が来たんだ。わかるだろう。)
二人は歩きながら、その庭園に到着した。田中が少し期待を抱きつつ庭園内を見渡すと、特別なものはなかった。そこには普通の日本庭園が広がっていた。しかし、よく見ると、典型的な『英国風』の看板と、むしろ奇妙な英語が書かれている標識。
「Gardens open at 9 AM to 5 PM」
(庭園は9時から17時まで開園)
田中は苦笑しながら言った。「いや、これただの日本の庭園だろ。『英国風』ってなんだ?」
チャールズは声をひそめ、嬉しそうに
「It’s not just the garden, my friend. It’s the approach.」(庭園だけじゃないんだ、友よ。それがポイントさ。)
田中はさらに不安げに周囲を見回したが、特に目立つものはなかった。その時、チャールズが声を張り上げて言った。
「Welcome to the true British Experience!」(本当の英国体験へようこそ!)
そして、その瞬間、庭園の全方向から、青いスーツを着たスタッフたちが現れ、アフタヌーンティーのセットを提供し始めた。それは予想外の光景だった。サンドイッチと紅茶、スコーンまで完璧に揃っている。
田中は目を見開いて言った。「お前、これ、京都のどこでやってんだ?」
チャールズは真剣な顔をして、「This is the real culture that the English brought to Kyoto. What better way to enjoy a cup of tea with scones while also enjoying the Japanese garden?」
(これはイギリス人が京都に持ち込んだ本物の文化だ。日本庭園も楽しみながら、スコーンでお茶を飲めるなんて最高だろ?)
田中はしばらく黙って、その光景を見つめた。やがて、深いため息をつきながら、「仕返しってのは、こういうことか…」とつぶやいた。
チャールズはにっこり笑って、最後に一言。「The British way is always the best, my friend.」
(イギリス流が一番だろ、友よ。)
END