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ある日、平凡な男・田中は、不運にも突然の事故で命を落としてしまった。目を覚ますと、目の前には金ピカのエレベーターがあり、案内板にはこう書かれている。
「天国行きエレベーター」
ボタンは「上」か「下」だけ。
田中は案内係らしきスーツ姿の男に尋ねた。
「これって、僕が天国行けるか地獄行きか決まるやつ?」
スーツの男はにっこり笑いながら言った。
「まぁ、そんなところですね。選択自由ですけど。」
田中は少し考えた。
「どうせなら天国がいいな……」
そう思い、「上」のボタンを押した。
エレベーターは静かに動き出し、爽やかな音楽が流れ始めた。曲はどこか聞き覚えのあるクラシックで、心が癒される。
しかし、次第に音楽が狂い始めた。「癒し」だったはずの旋律が不協和音に変わり、周囲の景色が急激に真っ赤に染まった。
「え、え!? 天国じゃないのか!?」
田中はパニックになったが、スーツの男は相変わらず落ち着いている。
「天国行きのボタンを押しましたよね。でも、天国がどんな場所か、聞いてきませんでしたね。」
エレベーターが止まると、扉の向こうには荒野が広がり、終わりのない仕事をしている人々がいた。みんな無表情で、延々とペンを動かしている。
「ここは……天国?」
「そうですよ、田中さん。」スーツの男は笑顔を崩さず言った。
「天国っていうのは、平和で、争いも刺激もない場所。仕事だけして、何も考えず、永遠に。」
田中は恐る恐る尋ねた。
「じゃあ、地獄ってどんなところなんだ?」
男は少し困った顔をして答えた。
「地獄ですか? あそこはみんな飲んだり歌ったり、騒いだり、喧嘩したりで楽しそうですよ。でも、疲れる人もいるので注意が必要です。」
田中は愕然としながらも反論する。
「だったら僕、地獄行きにすればよかった!」
スーツの男は肩をすくめて言った。
「申し訳ありません、一度ボタンを押したら変更はできませんので。」
田中は絶望的な顔で荒野の中に足を踏み入れた。後ろで扉が閉まる音が響く。
「……次の方、どうぞ。」
エレベーターは何事もなかったかのようにまた元の位置に戻るのだった。