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やはり……これはマズイ。
「ほら、手が止まってるぞ? マスター」
「はいはい、やりますよ」
「なんだ? その態度は。殺《や》られたいのか?」
「すみませんでした」
俺が何をしているのかって? それは……。
「体を洗ってほしい……だと?」
「できないのか? それともなんだ? マスターは幼女の体に欲情するロリコンなのか?」
「俺はロリコンじゃない! それより、どうしてそんな内容なんだ?」
「知らないのか? モンスターチルドレンが他人に自分の体を洗わせるということは、そいつを未来の夫として認めたことになるんだぜ?」
「……何それ、初耳なんですけど……」
「あたしの初めてをくれてやるって言ってんだ。ありがたく思えよ? マスター」
「その言い方はよしてくれよ……。分かったよ、俺はお前の初めてを受け入れる」
「マスターも、その言い方はおかしいんじゃないか?」
「……さ、さぁ! 行くぞ! やるなら、さっさと済ませたほうがいいからな!」
「はいはい。それじゃあ、優しく頼むぜ?」
「だから、そういう言い方はよしてくれよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
*
……ということで、今に至る。俺は明らかに何者かが作ったであろう【石のいす】に座っているカオリ(ゾンビ)の背中を両手で洗っている真っ最中なのだが。
「マスター、背中はもういいから前を洗ってくれよ」
「えっ? いやそれは流石《さすが》に……」
「やらないと、殺《や》るぞ?」
「ミ、ミノリたちも岩陰《いわかげ》から見てるからやりにくいのだが」
「あいつらは、もう体を洗い終わってるからな。羨《うらや》ましいんだろう」
「そ、そうなのか?」
「マスターに体を洗ってもらえるなんてことは、あたしらにとっては特別なことだからな」
「そうなのか。というか、俺がお前を襲《おそ》わない保証はないのだが……」
「マスターはそういうことをするほどバカじゃないし、そんな度胸もねえだろ?」
「そ、それはまあ、そうだけど……」
「なあ、マスター。あんたが幼女に好かれる理由を知りたくないか?」
「え? 俺のお袋《ふくろ》が身長『百三十センチ』の幼女体型だからじゃないのか?」
「マスター、あんたは自分が何者か分かっているのか?」
「……俺は俺だ。両親が少し変わっていて、高校時代が少し特殊だってこと以外は、ごくごく普通の人間だ」
「……名取《あいつ》の言う通り、何も覚えていないんだな。あんたのもう一人の家族のことも……」
「ん? なんか言ったか? カオリ」
「……なんでもねえよ。それより早く洗ってくれないか? こっちはもう我慢できそうにないんだが?」
「そ、そんなこと言われても。て、手で直接洗うのはちょっと気が引けるというか、なんというか」
「ごちゃごちゃ言わずに、さっさとしろ!」
「は、はい!」
まさか俺が幼女の体(前側)を洗う日が来るなんてな。
お袋と洗いっこしてた時期とはわけが違う。いや、今はカオリ(ゾンビ)も家族だから、セーフかな? いや、でも血は繋《つな》がっていないわけだから、アウトかな?
俺の両手がカオリ(ゾンビ)の腹《はら》に触れようとした、その時。
「カオリ! あんたばっかりずるいわよ! あたしたちにもナオトを譲《ゆず》りなさい!」
ちゃんと体にタオルを巻《ま》いたミノリたちが、こちらを見ていた。
ミノリ(吸血鬼)の発言に対し、カオリ(ゾンビ)はミノリの方を見ながら足と腕を組んだ。
「ああん? いつもマスターを独占してるやつがよく言うぜ。あたしらは、お前がマスターとしゃべってる時には心の中では『こいつさえいなければ!』って思ってるんだぜ? なぁ、みんな?」
「そうだとしても、あんたの今回の件を見過ごすわけにはいかないわ! それとあんたもよ! ナオト! 復活仕立てなのは分かってるけど、しっかりしてよね! あんたは、あたしの未来の夫なんだから」
「はぁ? なんでもう夫婦気取りなんだよ。それに今お前、『あたしの』って言ったよな? 一人だけいい思いはさせねえぞ!」
「ご、誤解よ! 今のは言葉の綾《あや》で……」
「どこをどう間違ったらそうなるんだよ! 言ってみろよ! 人殺し!」
「な、なんですって! あんただって、『はじまりのまち』を破壊してたじゃない!」
「まちのやつらがあたしを殺そうとしたんだ! 仕方ねえだろ!」
「あたしだって、育成所でのアレは暴走だったから仕方ないじゃない!」
「んだと、こらぁ! やんのか! おら!」
「やってやるわよ! 返り討ちにしてあげるわ! さあ! どっからでもかかって……」
「二人とも、もうやめたほうがいいよ」
シオリ(白髪ロングの獣人《ネコ》)が不意にそんなことを言いながら、ナオトの方に歩き始めた。
「シオリ! 邪魔しないで!」
「そうだ! 邪魔すんな!」
二人の声が聞こえても、シオリはそれを無視し、頭を抱《かか》えているナオトの近くにしゃがみ込んでから、二人にこう言った。
「ナオ兄は、お姉ちゃんたちがケンカするのを見たくないし、してほしくもないと思う。その証拠《しょうこ》に今のナオ兄はひどく心を痛めて泣いてるよ」
『えっ?』
二人がナオトの方を向くと、ナオトの両目から次々と涙が溢れ出ていた。
彼は歯を食いしばって、泣き声が聞こえないように必死にこらえている。
その様子を目の当たりにした二人が動揺《どうよう》を隠せずにナオトの方に手を伸ばすと、シオリはナオトの頭を優しく撫で始めた後《のち》、二人をにらんだ。
それは、いつもみんなに癒《いや》しをくれるジト目ではなかった。(いつもは『ス○ウスタート』のかむりちゃんのような存在)
例えるなら、自分の大切な存在をフ○ーザに殺されて怒(いか)りを露《あら》わにした『ド○ゴンボール』の孫○空のような目だった。
「ナオ兄を泣かせたお姉ちゃんたちは、ここで始末してもいいよね? あっ、でも、そんなことしたらナオ兄が悲しむよね。どうしようかな?」
「……もう、やめろ」
「どうしたの? ナオ兄。何か言いたいことがあるの?」
「もう、やめろよ! こんな戦争《ケンカ》は! ここで争っても、なんの解決にもならないし、誰も喜ばない! だから、もう、やめろよ!!」
ナオトは、そう言うと急に横になった。どうやら泣き疲れたのと戦闘での疲労で体が限界を迎えてしまったらしい。
二人が近づこうとすると、シオリはキッ! と二人を睨《にら》みつけて。
「反省するまで、お姉ちゃんたちはこの火山で野宿してもらいます。間違ってもアパートに戻ってこないでね?」
「わ、分かったわ」
「あ、ああ、分かったよ」
「マナミお姉ちゃん。ナオ兄の服を持ってくるから固有魔法の準備してて」
「えっ? あっ、うん、分かった。一人で大丈夫?」
「私は平気。少しの間、ナオ兄をお願い」
「うん、分かった。いってらっしゃい」
シオリは名取と一緒にナオトの服を探しに行き、マナミ(茶髪ショートの獣人《ネコ》)は固有魔法の準備を始めた。
____五分くらい経《た》って、シオリが服と名取を見つけて戻ってきた。名取がナオトに服を着せると。
「今日で十一日が終わる。もうすぐ、十五日だってこと分かってるよね? この調子じゃ、ナオ兄が起きるのは十四日あたり。それまでに仲直りと反省を済ませておいてね? そうじゃないとナオ兄に嫌われちゃうよ?」
『………………』
いつのまにかタオルを体に巻いたカオリ(ゾンビ)といつのまにか、いつもの黒と赤が混ざったリボンでツインテールにしたミノリ(吸血鬼)は俯《うつむ》いたまま、首を縦に振った。
「それじゃあ、マナミお姉ちゃん。お願い」
「うん! 任せて!」
マナミは自《みずか》らが出現させた魔法陣に触れながら目を閉じ。
「『|瞬間移動《マジックジャンプ》』!!」
そう言うと、魔法陣の中にいた全員がアパートまで瞬間移動した。
一日一回限定のマナミの固有魔法。
しかし、移動したい場所が目視できなければ発動できないというのが玉に傷《きず》。
温泉に取り残された二人は自分たちが犯《おか》した過《あやま》ちを悔《く》やむと、その場に正座をして反省し始めた。