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運命の赤い糸。
自分の運命の相手と繋がっていると言われるこの糸。
見えなくても、相手がどれだけ遠くに離れていたとしても、この糸で結ばれているという。
こんな素敵な話は言ってしまえば実在しないもので、可愛らしい夢を見る小学生や頭がお花畑の恋愛脳くらいしか信じることはないだろう。
実際、自分も曖昧なフィクションの世界は嫌いだ。
赤い糸という割には透明で何も見えないのが事実で、離れてしまえばいつかはその糸も簡単に切れてしまうのもまた事実。
こんな噂を気にもとめないような考えを持っている自分だからこそ驚いてしまった。
運命の赤い糸と呼ばれるそれらしきものを自分が直視できるようになったことに。
「蓮!数学のレポート課題写させて!」
「今日数学一限目だけど。間に合うのか?」
「爆速でやる」
「あっそ」
朝から教室に着いて早々、しょうもないことで焦っているのは俺の親友であり幼馴染の水谷楓という男。
可愛げのある顔立ちに、縁の黒い眼鏡と焦茶色の少し癖っ毛のある髪がよく似合うのが特徴的だ。
今回は数学のレポートを提出ギリギリで終わらせようと試みているようだが、これで毎回間に合わないのがオチだ。
「やっばい全然終わんない!蓮のやつ毎回文章量多すぎだって」
「レポートならこんくらいが普通だろ…てか一言一句一緒なのはやめろよ?俺もなんか言われる羽目になるし」
「『俺も』って、俺が怒られる前提で言ってない??」
「いや普通に考えたら間に合わないだろ…写すにしてもレポートだから相当な労力使うし」
「えぇー 蓮助けてー」
「無理」
楓は地頭は割と良いはずなのに何故か課題を後回しにしては今みたいな状況に毎度置かれている。
理由を聞いてみればゲームのイベントが来てただの新作アニメが始まっていただのと話す。
けれど、そんなことで課題をやり忘れることに頭を悩ませる楓の姿には呆れるのと同時につい笑みが溢れてしまう。
喜怒哀楽の激しい、そんな姿の楓が面白い。
そして何より、俺が楓のことを好きでいるから。
今までのとこれだけを見ると友愛に捉えられそうだが、そうじゃない。
恋愛的な意味で楓のことを想っている。
楓の髪も白い肌も常に触れていたくて、でも簡単に触れないのが焦ったい。小柄な身長が可愛くて、それを気にしている楓自身がもっと可愛くて。
何より、ふと見せる楓の優しい笑顔が愛らしくて仕方がない。
こんなことを常日頃から考えているのを友愛と呼ぶには重すぎる。毎日自身のこの意識を逸らして、楓と話すことがどれほど難しいことか。今でも楓の隣にいるだけで心臓の高鳴りがうるさい程に聞こえてくる。
「もうすぐ朝礼始まんのに全然書けねー!!終わった…」
「どうしようもないなお前って」
「仕方ないだろ!昨日はイベント最終日で忙しかったんだし!」
「またそれかよ笑」
楓のことが好きになっていく。
何処かへ連れ去って独り占めしてしまいたいくらいに好きだ。
でも、そう思うがあまりあの糸の存在がより忌々しく思えてくる。
「蓮?」
「ん?」
「あ、いや…なんか俺の手見てたから…なんか付いてた?」
「いや、なんでも」
「そっか」
「てかお前そんなこと気にする暇ないだろ」
「そうだった…もうやりたくねー」
楓が今気にしていた通り、俺は楓の右手に付いているそれをずっと見ている。
大好きで堪らない人の一部なのにそれだけはどうしても許せなくてどうしようもなく憎らしい。赤い糸。
*
俺が赤い糸らしきものを直視できるようになったのは少し前のこと。
楓と初詣に出かけたあの日からうっすらとそれは見えるようになった。
あの日、楓と詣でたのは、近所でも有名な縁結びの神様がいるという神社。
何をお願いしてみようかだなんて話しながら、ふらりと立ち寄ってみるくらいの感覚で足を運んだ。
楓はお金持ちになりたいだなんて、ベタなこと言ってたっけ。
正直神様も幽霊もオカルトも信じたことなんてなかった。
だから、俺の願いは自分に言い聞かせるようにして、
『いつか楓と結ばれますように』
と。
そっと目を開くと、ほんの一瞬、辺りにいる人達の小指に細く赤い糸が繋がれているのが見えたような気がした。
その時はまだ気のせいだと思っている段階で、けれど日を追うごとにその糸ははっきりと鮮明に見えてくるようになった。
赤い糸がはっきりと見えるようになってから分かったことがある。
赤い糸は噂通り、運命の相手同士で繋がっているらしい。
運命と言っても、人によってはそれを容易く変えられてしまうようで、想い人が変わってしまったり相手が自分に好意を寄せなくなってしまえばその糸はするりと解けてしまう。
そして別に恋仲ができればその相手とまた赤い糸で結ばれる。
一方で、一途に思いを抱き続けるほど赤い糸は固く結ばれることとなる。
いずれにせよ、赤い糸が結ばれるには相手と両思いの関係を築けているのが絶対条件だが。
もちろん赤い糸が付いていない人だってザラにいる。
俺の指にも糸は繋がれていなかった。
楓が俺に何の意識もしていないことは何となく分かっていた。
なので特にがっかりすることもなかった。
じっくりゆっくり俺と楓の仲を深めていけばいつかは結ばれると、当時の俺は間抜けで呑気なことを考えていた。
その年の冬休みが明けて楓の姿を目にした瞬間、壮大な絶望感を味わった。
楓の白く細い小指にあの糸が繋がれていた。
もちろん相手は俺じゃない。
その糸の先にいたのは、最近転校してきたばかりの男だった。
楓と話しているところはたまに見かけていたがまさか赤い糸で繋がれる程の関係だなんて思いもしなかった。
残酷にも、糸は両方とも固く結ばれていた。
その後よく観察してみると、確かにあいつと話す時の楓はほのかに頬を赤くしている。
失敗した。
もっと注意深く楓と関わる人物を見ておくべきだった。
もし仮に、楓とあいつが本当に付き合い始めでもしたら…。
…楓が俺以外と結ばれる?
ありえない。
楓のことを一番好きでいるのは俺なのに。
こんな糸早く切れてしまえばいい。
*
「あと5分で授業始まんだけど! これ間に合うのか?」
「無理だな、諦めろ」
「そんな…」
過去のことを振り返ったとして何になる?
あの時の絶望をまた思い出してしまうだけだ。
俺がこれからするべきことは楓に結ばれているこの糸を解いていくことだ。
時間をかけてでもいい。
そうしたらきっと楓もいつか俺のことを見てくれる。
それでも解けなかったら?
それでも解けなかったらどうすればいいのだろう。
どうすれば、
どうすれば楓は俺のことを見てくれる?
「水谷くん、何してるの?」
「あ、白鷺くん。実はレポート課題終わってなくて今めっちゃ焦ってんだよねー」
「そうなの?じゃあ僕の見せてあげるよ、如月くんのより見やすいと思うよ」
「え!ほんと!?」
「うん、ほら」
「うわ神じゃん。てかすごこのレポート!蓮も見てほら!色分けとかポイントとか分かりやすくまとめてあるし。量も少ないしこれだけなら5分で終わるかも」
「…よかったな楓」
「うん!ほんと助かった!ありがと白鷺くん」
「水谷くんの役に立てたみたいでよかった」
白鷺千歳。楓と赤い糸で結ばれている相手だ。
本当ならば急に割って入ってきたこの男を楓から遠ざけたい。が、この2人の幸せそうな様子を見ると気が引けてしまう。
俺が白鷺に楓から離れろだなんて言ってしまえば楓に悲しそうな顔をさせてしまうのではないかと考えてしまう。
楓に結ばれている赤い糸を解かなければだなんて任命感を一丁前に背負っておきながら、楓と白鷺がお似合いだとどこかで感じていて気が引けてしまっている臆病な自分がいる。
「僕水谷くんの幸せそうな笑顔結構好きなんだよね笑。役に立って本当よかった」
「俺そんな幸せそうな笑顔してるの?」
「うん、よく如月くんとかにしてるよね。ね、如月くん?」
「…まぁ」
「え、蓮にもしてんのか。自分のことなのに全然気が付かなかったな」
「まぁでも最近は僕にもよく微笑んでくれるから嬉しいな」
「…」
「へー」
悪趣味だ。
意識もされていないくせにいつまでも楓の隣にいるなと嘲笑われているかのような陰の潜んだ言い方に虫唾が走る。
そんなことは分かっている。
運命の相手は白鷺だということも、楓が俺に振り向いてくれる確率がほんの僅かしかないことも。
でも、ここまで黒く濁って重くなってしまったこの愛をどうしろというんだ。
呪いみたいな恋心で、楓と結ばれるまで一生解けやしない気がする。
楓のことをただ純粋に想いたいだけなのに。
*
「楓、今日お前の好きな漫画の新刊出てるらしいけど、放課後書店寄ってくか?」
「行きたい!けど今日は用事があるんだよなーごめん蓮」
「…あっそ」
「また空いてる時に行こーぜ」
「そうだな」
こんな会話を続けて早2週間くらいになる。
楓と白鷺はもともとそこそこの仲だったのがあの数学のレポートをきっかけによく話すようになった。
休み時間も放課後も、毎時間楓の隣にいたのは俺だったのに、今はそこに白鷺がいる。
楓が白鷺と仲良くなっていくのに比例して赤い糸も固くしっかりと結ばれていく。
もう、俺がどうこうしようと、もう解けないくらいの結ばれようで、俺はそれを見る度に毎度思う、
切れてしまえばいいのに、と。
*
「楓、今日も用事あんの?」
「うん、今日も千歳と家でゲームしよって話してて」
「それ断って」
「え」
「いいから、早く断ってこい」
「でも」
「断れないなら俺が断る」
「え、蓮?どうしたの?」
「…今日だけでいいから」
「えっと…じゃあ…わかった」
戸惑う楓にほんの少しの罪悪感を抱きつつも、自分の真っ直ぐな思いに従ってもうこうするしかないと決めた。
会話が徐々に少なくなってちょっとした世間話くらいしか出来なくなってしまったのも、楓が俺に何も頼らなくなってしまったのも、寂しくて憎くて、でもどうしようもなくて。
自分でも意味がわからないほど楓への愛が膨らんで、それと同様に喪失感も大きくなっていった。
楓を取られてしまった。
今すぐ取り返さないと。
楓は俺を見てくれない。
ぐるぐる、ぐるぐる、負の感情が渦巻く。
こんな感情を抱いたまま優しくて明るい楓と話してしまうのは良くないと分かっている。
でも、今日だけはどうしても楓と一緒にいなくてはいけない日だから。
*
「なぁ蓮、新作の漫画買うなら本屋とは逆方向だけど…」
「公園に行くんだよ、昔よく遊んだろ」
「え、でもこの後雨降ってくるらしいし、今のうちに蓮の家とか行った方がいいんじゃないのか?」
「傘あるし大丈夫だろ」
「でもなんもすることないじゃん…」
「普通に話せばいい」
「まぁそっか…」
楓には白鷺との約束を無理に断るよう言ってしまったし、最近あまり話せていなかったせいもあって楓の口数が露骨に少なくなっている。
「楓」
「えっ、な、何?」
「…楓は、最近楽しいか?」
「まあまあかな。あ、でも千歳と一緒の時は楽しい」
「随分仲良くなったんだな、もう名前で呼び合ってんのか」
「うん、千歳って頭めっちゃ良くて、意外と面白いんだよな!フレンドリーだからすぐ仲良くなれたし」
白鷺のことを話題にすると、随分と慣れ親しんでいるのか、先ほどの様子とは打って変わって喋り始めた。
楓が白鷺のことで頬を赤く染めて、少し俯いた顔で話すそれは恋の真っ只中のようで、横目で見る俺はどんな表情をして、どんな相槌を打てばいいのだろう。
話をするのに夢中な楓は俺の気も何もかも知らないまま話し続ける。
「あ、やっぱり雨降ってきたな。そういえばこの前千歳が傘忘れて慌ててたなぁ。あの時の千歳めっちゃ面白くてさ…」
今楓が笑顔を向けている相手は俺なのに、楓の目には白鷺しか映っていない。嫌悪感と嫉妬でどうにかなってしまいそうだ。
「あ、ここだよな昔遊んだ公園」
「ああ…」
「話すにしても雨の音がうるさいし、やっぱ場所変えた方がいいんじゃないか?」
雨が激しくなっていく。
雨音で楓の声が聞こえにくくなっていくのは楓が遠のいていくのに息苦しさを感じる今の現状とどこか似ている。
もっと楓の声が聞きたい。俺のことを一番に思ってくれる楓の声が。
「蓮?」
首をそんなに可愛らしく傾げて、どこまで俺のことを困らせたら気が済むんだろう。
「…楓に、渡したいものがあるんだ」
「え、渡したいもの?」
「誕生日、おめでとう」
そう告げた後、俺は綺麗にラッピングをしたプレゼントを楓へと差し出す。
今日は楓の誕生日だったから。
どうしても楓の為だと思うと祝いたくて、これだけは外せないと前々から考えていた特別な日。
そして、途端に楓は驚いたような嬉しそうな顔をして俺に迫る。
「お、覚えてたのか!?ありがとう蓮!!」
は?
「……俺が、俺が覚えてないとでも思ってたのか…?楓の誕生日を?」
俺に対して誕生日すらも覚えてくれていないだろうと思うくらい…楓は、そんなに俺のことを遠い存在だと思っていた?
もう親友だとすらも思ってくれていなかったのか?
「いやだって、最近は俺千歳との方が仲良いし。蓮も新しい友達できてるだろうなって思ってたから…」
楓は、もう本当に俺のことを見てくれてなんていなかった。
うるさい。
楓はもう俺なんかどうでもいいんだ。
うるさい。
なんで、
うるさい。
なんで…
「…なんで、そんなこと平気で言えんだよ……」
「だって本当のことじゃ、」
「違う…違う違う…本当なんかじゃない」
「蓮…?」
思い出してみれば、こんな絶望感を味わうようになったのはあの赤い糸が見えるようになってからだ。
この糸のせいで俺の気はこんなにもめちゃくちゃにされた、狂わされてしまった。
狂ってる…?俺、狂ってるのか?
ただの一途な恋心なんかじゃなかったのか?
…もうどうでもいい。
「この糸さえ切れてしまえば…無くなってしまえば…」
「糸…?何言って、って蓮!?」
切れるかもしれない。
どうして今まで運命には抗えないと決めつけて試してこなかったのだろう。
赤い糸だってただの糸に過ぎないんだ。
俺は鞄から鋏を取り出してこの憎くて堪らない糸の切断を試みる。
けれど赤い糸は何度鋏で切ろうとしても上手く切れない。それに加えて雨水のせいで手が滑る。
容易く運命など変えられない。
「くそっ…くそっ!」
「蓮!!鋏なんか取り出してどうしたんだよ!?」
楓のことが幼い頃から好きだった。
大人になれば楓を幸せにしてあの可愛い笑顔を楓の一番近くで一生見ていられるのだと信じて疑わなかった。
もし楓に好きな人ができても、どんな方法を使ってでも楓と結ばれて楓の一番になりたいと、それだけを考えていた。
例え楓を何処かへ連れ去って閉じ込めてしまうことになったとしても、2人で幸せになりたかった。
「…切れるかもしれない」
「お前、さっきから何言って…!!」
ただ単に切ろうとしても糸は切れない。
けれど、鋸みたいにして鋏を何度も引きずりながら扱ってみると、少しずつ糸が細く削れていく。
楓は俺のことを止めようと必死で、俺に声をかけてくれる。
でも雨音がうるさい。
何を言ってるかだなんて聞けたもんじゃないくらいに。
今の楓は震えた声を精一杯に出して俺のことを止めているのかもしれない。
笑顔とは対になる、不安がっている表情を向けているのかもしれない。
けれど、不思議と悪い気はしなかった。
楓が、楓が俺のことを見てくれている。
その事実だけで口角が上がる。
嬉しい、嬉しい嬉しいうれしいうれしいうれしいうれしいうれしい。
今の楓は俺だけしか見ていないんだ。
「おい!蓮!蓮ってば!!」
そして、楓の手が俺の肩に触れた瞬間、赤い糸はやっと途切れて、消えてなくなった。
「…やった、やったやった…やったよ楓」
「え、は?蓮?何が起こって…」
「あ、ははは…ごめん楓…でも嬉しくて」
「何が嬉しいんだか…蓮どういうことだよ?」
「楓…」
雨で濡れた楓の髪をひと撫ですると、楓は戸惑ったような顔をして、言葉が出せなくなっている。
俺が楓を撫でているうちに先程の不安が消え、 緊張が解けたのか、楓は頬を染めて少し微笑んだ。
俺はその楓の小さな笑みが可愛くてただただじっと見つめていた。
*
あの日から楓と白鷺は元のように少し会話をする程度の関係に戻った。
一方で俺は楓とまた親友という関係を取り戻し、以前と同じように 話している。
そんな日々を送り続けてひと月が経った頃の話だ。
朝目覚めて自身の変化に気がついた。
赤い糸が自分の小指に結ばれているのだ。
それを見た瞬間どれだけ歓喜したことか。
きっとこの赤い糸は楓の元に繋がれているに違いないと信じて止まなかった。
やっと、やっとだ。
何年間も想い焦がれてきた相手とやっと結ばれるんだと思うと自分の中の幸せが満ち溢れてしまいそうになる。
早く楓の元へ行かなければ。
「おはよー蓮ー」
「…」
「蓮?」
繋がってなどいなかった。
俺に結ばれたこの赤い糸は、楓のあの細い小指に結ばれることなく、楓の足元にだらりとなだれ落ちていた。
楓は俺のことを見てくれていてもそれは親友止まりなのか。
気に食わない。
だが、不思議なことに、俺に結ばれたこの糸は誰にも繋がっていないのにまだ消えていなかった。
片想いをしている場合は消えないのだろうか。
いや、諦め切れない片想いなんてザラにあるだろうが、糸が消えないなんてところは一度も見たことがない。
「おーい、蓮?」
「…」
あの時、赤い糸を切ることができた。
もちろん容易に切れなかったのが事実だ。
でも、もし途切れさせることができるのなら、繋げることだって可能なはずだ。
「楓、今日家に泊まりに来ないか?明日土日だろ?」
「はぁ…挨拶もしないでなんだよ…泊まりか、たまにはいいかも。久しぶりだし」
「交渉成立」
「…朝から変だな、蓮は」
「お前が言えたことじゃないぞ」
*
あれから予定通り楓が家まで泊まりに来て、久しぶりに夜中まで起きてゲームやらで遊んだ。
楓は楽しそうにはしゃいで笑っていた。
流石に遊び疲れたのか今はもう寝ているけど。
「楓…」
俺が今日楓を誘ったのは、楓の小指にこの糸を巻きつけるためだ。
これを結んでしまえば楓と結ばれる。
ほんのひと作業で想い人と両思いになれる。
そう思うと高揚感で胸が高鳴る。
ああ早くこの糸で結ばれてしまいたい。
やっと手に入る。
すやすやと眠る楓の顔を横目に、楓の綺麗な手を取り小指に赤い糸を巻き付けていく。
緩んで解けてしまわないように固くきつく結んでおかなければ。
俺だけのものになりますように。
二度とよそ見なんかしないで俺だけを見てくれますように。
そんな風に願いを込めながら、ぐるぐる、ぐるぐる、この細い小指を縛りつけていく。
数えるのが億劫になってしまうくらい巻き付けた後、固く豆結びをして、楓の小指にそっとキスを落とした。
楓side
高校を卒業した後、俺は蓮と付き合うことになり、今は恋人同士として同棲を始めている。
蓮はすごく優しくしてくれるし面白くて一緒にいてとても楽しい。
蓮は顔が良いせいでよくモテるので嫉妬してしまうが、自分の恋人がよく思われていると思うと鼻が高い。
なんだかんだで本当に幸せだ。
「痛っ」
幸せなのに変わりはないけど、最近悩みができた。
自身の右手の小指が痛むのだ。
まるで細い糸できつく縛られているかのような痛みだ。
たまに少し痛くなるくらいなので放っておいているがやはり病院に行くべきだろうか。
「蓮、また痛みが…」
「…じゃあ俺が楓に特製のおまじないを…痛いの痛いの飛んでけー」
「特製って、俺子供じゃないんだけど!」
「はは笑ごめんな笑」
でも、悩みなんてものが吹き飛んでしまうくらい俺は蓮といる時間が幸せだ。
だからちょっとしたことなんて気にせず蓮とこれからも幸せな恋人ライフを送っていこうと思う。
如何でしたか?
初投稿でしたが、シリーズで途切れ途切れにして書くのは性に合わなくて読み切りで長くなってしまいました。
だいぶ前にこういう赤い糸の話をどこかで見た気がするのでそれを基に書いてみました。
遅筆+低浮上の自分なのでいつ次の投稿ができるか分かりませんが、これからも小説の更新をしていこうと思います。
それでは〜