そこからご存知のように、1ヶ月間翔は部活に来なかった。あの時、どうすれば良かったのだろうとよく考える。傷つかせない方法は他にも沢山あっただろうに。
「紗奈。」
考えていると、瑠璃から話しかけられる。そちらに目をやると、心配そうにこちらを見ていた。
(あ、今部活中だった…。)
瑠璃に心配をかけてしまったことも申し訳ない。
「ごめん、あ、いや、ずっと上の空だったから…。」
瑠璃は紗奈に気を使ってくれている。その事が感じ取れて嬉しい。
「ごめんね、ちょっと考え事してた。」
微笑み、瑠璃を見ると、
「また、後輩のこと?」
と言われた。瑠璃には紗奈の考えなんてお見通しなのだ。
「よくわかったね…。」
「そりゃそうよ!そんな気負いする程でもないよ。部活に来ないのは紗奈のせいじゃないって。」
紗奈の背中にそっと触れ、撫でてくれた。
「大丈夫だよ。またすぐ来るって。」
「…うん、ありがとう。瑠璃。」
家に帰り、メールを開く。1ヶ月前に送ったメール以来、翔とはやり取りをしていない。
(やっぱり、私のせいだ。こんなタイミングで部活に来ないなんて普通ないし…。)
ドキドキして、翔のアイコンをタップする。送るべきか、それとも瑠璃の言う通り、紗奈のせいでは無いから放っておくのが1番か。
(ああ、もう。ネガティブになるのやめよっ!)
トトトッ
タッタッ
トトトッ
メールを消してまた書いての繰り返しである。
「ふうっ、よしっ。」
【お願い。会えませんか?】送信。
もしかしたら返事は返ってこないかもしれない。相手の気持ちを考えて放っておくべきかもしれない。そもそも紗奈が考えた結果なのだから、深く考えないでも良いかもしれない。
色々な考えが頭に浮かび、そして消えていく。ただ、ひとつ確かなことがある。
(これはきっと、私のせいだ…。)
3日後。待ち続けた甲斐はあった。
【分かりました。会いましょう。ただし、第2理科室で会えたら、です。】
(第2理科室…?)
紗奈は少し驚く。紗奈の学校では前に実験中小さな爆発事故が起こり、何となく生徒が近寄らないという理由で立ち入り禁止となっているのだ。そんな場所で会うなど、何故かと考えない方がおかしい。
【第2理科室じゃなきゃダメですか?】送信。
しばらく待つ。だが、既読はついてるはずなのに帰ってこない。これがメールでやり取りできる最後の会話かもしれない。そう焦った紗奈はすぐ打った。
【分かった。いいよ。】送信。
考えても不安しかないが、会うに越したことはない。ちゃんと話して、蹴りをつけよう。お互いモヤモヤもしてられない。
【じゃあ、明日、金曜の5時半に会いましょう。】
スマホを握りしめ、下唇を噛む。
(良くない結果に転ぶかもしれないけど、言おう。私の気持ちとか、思っていること全部。)
気持ちが混合して訳が分からなくなるから、紗奈はやはり、虚無感が好きなのだ。
(無理だよ。全部一人で抱え込むなんて。)
本棚から〝吾輩は猫である〟を取りだして、数ページ読む。
(やっぱり、好きなんだよな…この世界観。)
この世界に入りたいという欲求、そして入り込めないという現実。全てに疲れ、紗奈はホロリと涙が出た。
(なーにやってんだろ、私。)
そのまま膝を抱え込むようにして紗奈は眠りについた。
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