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テラーノベルの小説コンテスト 第4回テノコン 2025年1月10日〜3月31日まで
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「レイ様、アラン様が到着されました」


執事が扉の外で静かに告げる。

レイは執務机の前でペンを走らせていたが、その手を止める気配はない。

俺はその横に立ちながら、ちらりとレイの横顔を伺う。


「……アランが来たか」


レイが短く息を吐く。

普段感情をあまり表に出さないレイが、わかりやすく不機嫌な気配を見せた。

いつもの彼なら、冷静に受け流すところだが……今日はそうもいかないらしい。


「……やっぱり、あまり会いたくない感じ?」


俺が尋ねると、レイは軽く眉を寄せる。


「用がなければ顔も合わせたくない相手だ」

「あー……察した」


俺は少し肩をすくめた。

レイがここまで嫌がるってことは、相当厄介なやつなんだろう。

今日、ここにやってくる人物はアラン=エヴァンス。あのアルベルトの息子だ。

つまり、レイとは従兄弟に当たる。

俺は昔からここに出入りしているけれど、その従兄弟とやらには会ったことがなかった。

扉が静かに開き、黒のロングコートを羽織った青年がゆっくりと入ってきた。

その立ち姿は凛としており、王都の貴族らしい品の良さを漂わせている。

俺は一目でそれがアランだとわかった。

なぜならその面立ちは、レイと似ていたからだ。


「久しぶりだね、レイ兄さん」


アランは柔らかく微笑みながら歩み寄ってくる。

けれど、その微笑みの奥にはどこか冷ややかなものが隠れていた。


「ああ、久しいな」


レイが短く応じるが、目線は冷たい。


「今日は何の用だ?」


レイが言葉を投げかけると、アランは肩をすくめる。


「父がいなくなってから、領内の様子を見に来たんだよ。エヴァンス家の人間としてね」

「アルベルトは正当に裁かれた。もうお前がフランベルクに出入りする理由はないはずだ」

「……相変わらず手厳しいね」


アランは軽く笑うが、その視線がすぐに俺へと移る。

値踏みするような鋭い目つきだった。


「君が……カイルだね?」

「……お初にお目にかかります」


俺は少しだけ身構えながら答える。


「レイ兄さんの伴侶になったと聞いたよ。まさかエルステッド家の次男がね……驚いたよ」

「別におかしくはない。エルステッド家とならばつり合いが取れているだろう」


レイが冷ややかに言い放つが、アランはどこ吹く風だ。


「いや、そういう意味じゃないよ。ただ──」


アランが俺に近づき、わざとらしく顔を覗き込んでくる。


「エヴァンス家の血を引く者が、レイ兄さんに仕える側になるとはね……。皮肉なものだよ」

「……」


俺は少しだけ眉をひそめる。

アランは知っているのだ。俺の母がエヴァンス家の血を引くことも、レイと親戚関係にあたることも。

俺の母であるレイラ=エルステッドはレイの母上であるセリア様の妹に当たる。

二人の姉妹はエヴァンス家の遠縁であり、レイと俺はそこそこ血の濃さがあったりもするのだ。

……なんだろうな。この男の考え方としては**「伴侶=仕える存在」**って発想なんだろうか。

だとすれば、だいぶ失礼な話だ。


(……むしろレイの方が俺を溺愛して尽くしてくれてるんですけどね⁈)


心の中でつっこむが、口には出さない。

それを言ったらこの場がややこしくなりそうだし。


「確かに君はふさわしい。だけど……僕から見れば、それが余計に面白くないんだよ」


アランは静かに呟く。


「面白くない?」


俺が尋ねると、アランは目を細める。


「僕だってエヴァンス家の血を引いている。けれど、フランベルクを継ぐことはできなかった。……レイ兄さんが当主だからね」

「それは当然だろう。エヴァンス家は基本的に長子相続なのだから」


レイがきっぱりと返す。


「それもあるけれど、兄さんが有能だからだよ。そこは認めているさ。だけど──もし君がいなければ、状況は変わっていたかもしれないな」


アランの言葉に、背筋がゾクリとした。

こいつ、俺をレイの弱点として見てる……?


「カイルは俺の伴侶だ。それは揺るがない」

「はは、そういうところが兄さんらしいね」


アランは軽く笑ってみせるが、その視線には得体の知れないものが滲んでいた。


「でも、貴族社会では何が起こるかわからないものさ。正当な血筋の者が、突然心変わりすることもある」

「俺がカイルから他のもの心変わりか。なかなか面白い冗談だな?アラン」


レイが厳しい声で落とすと、アランは少しだけ目を見開いた後、愉しげに微笑んだ。


「いや、そういうわけじゃないさ。ただ、少しだけ……レイ兄さんの隣に立つ君がどんな人物か、気になっただけだ」

「気を引こうとしても無駄だ」


レイがピシャリと遮る。


「そうかな? 兄さんは大丈夫でも……彼はどうかな?」


アランが挑発するように囁くと、レイが一瞬で隣に立っていた俺の身体を引き寄せた。


「カイルはお前の手の届くところにはいない」


レイの手が俺の腰に回る。

それを見たアランは笑みを歪んだものに変えた。


「……そろそろ失礼するよ。兄さんの愛情は十分理解できたからね」


アランはそう言い残して、軽く一礼し、部屋を後にした。

去り際、俺に向かって小さく手を振る姿が、どこか不気味だった。

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