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「尾道には尾道ラーメンっていうのがあって、そいつが美味いねんな。着いたら昼飯がてら食うか。」
「ええなあ。ご当地ラーメンかあ!」
尾道にはご当地醤油ラーメンがあるらしい。なんでも、煮干しと鶏ガラを使った王道のラーメンだとか。今日なんかは日中はちょっと暑いけど、それがかえって美味さを倍増させるんちゃうか?
「まあ、とりあえず出よか。」
車のエンジンは冷めてるからうるさい。俺たちはエンジンをしばらくアイドリングで温めてからまた同じように発進した。
『車中泊はどうやった?』
『いやあ、俺はもうええかな。暑かったし窮屈やし。めちゃくちゃ汗かいて起きたわ。』
『それがええんやろ?』
『お前やっぱ、救いようがない変態や。』
そうや。俺は自他共に認める変態や。趣味も変やし、救いようがないかもしれへん。でも、そうやろ?この後温泉入るんやから、ちょっとぐらい汗かいてた方が気持ちええって。
今津を出て、今度は広島のバイパスを走る。またまたバイパスや。加古川は知っとったけど、ここなんて言うバイパスやろ。ナビを見ると、東広島バイパスと書いてある。なるほど、横に長い広島やからこそ、こういうずっと東西に伸びてる無料区間が必要なんや。
三重も南北に伸びるバイパスがある。そうやって都道府県ごとに地形や気候を把握して、より良い交通網を作り上げとるんやな。
『この後、バイパスを降りて道の駅行こかなって。』
『最高やなあ。道の駅。なんでもあるし、ついでにお土産とかも見てええか。』
『俺もそのつもりやし、もちろん。』
お土産誰に買って帰ろかな。家族にはもちろんやけど。
てか、思ったけど、皆運転マナーがええなあ。大阪だとこうはならん。二車線道路やけど、ほとんどが左側の車線を走ってる。見習ってほしい運転マナーや。まあ無理やろうけど。
「しっかし、思った通りっていうか、みんな運転マナーええわ。」
『車社会やから、大阪とかの人らとは練度が違うわな。』
そこに、岡山ナンバーの車が別の車のところへ進路変更で割り込んでいくのを見た。ウインカーの付け方も知らんのんか?アイツは。
「おお。あれが噂の岡山走りか。おもろいなあ。」
『久々にみたわあ。』
「あの割り込んだ先が藁上の前やったら、お前キレ散らかしてるやろな。」
『もちろんですとも。』
そんな会話もひとしおに俺たちはまたまた2号線に降り立った。2号線好きすぎやろ。
もう1時間も走らせたら、言うてた道の駅やな。
道の駅西条のんたの酒蔵に到着。ああ、駐車場広くてええとこやな。自然も多くて景観良い。おっ、色々なスポーツカーが並んどる。ランエボ集団に、911までおるな。俺たちは車を降りてまたタバコを呑む。今日ですでに3本目や。旅行は面白いけど、こういう出先では本数増えるんが玉に瑕やなあ。
「色々スポーツカーおるなあ。」
「ここはそういうところやな。」
「ほーん。華金の夜中とかここエグいことなりそうやな。それこそ魑魅魍魎って感じで。」
広島にも、こういう集会所っぽいところあるんやな。ええもんいっぱい見れた。さて、ジロジロ見るんも印象良くないしお土産買いに行こか。
お土産コーナーを見てみると、まあご当地のもんがいっぱいあった。牡蠣のしぐれ煮とか、ラーメンのインスタントとか、おせんべいとか。どれ選んでも喜ばれそうやけど、好みを知ってる以上は絶賛されたい。悩みに悩んだ挙句、俺はご当地インスタントラーメンと特産米を使ったおせんべいを買った。自分のもんでも無いのに心がホクホクする。レジの横には藁上の姿が。
「藁上はなんか買わんでええの。」
「おう。俺はええわ。よう通ってるしまた今度で。」
あ、そう。じゃあまた車に戻ろか。俺たちは休憩も終わらせて今度こそ尾道へ向かう。
尾道は海沿いにある観光地。その景観もさることながら、観光客がそれはもう多い。こん中をうるさい車で走らせて、視線を釘付けにするのもまた一興。
『めちゃめちゃロードスターのこと見てるぞ。』
『外国人とか、意外と車好き多いしな。だから日本に来る人もおるくらいやし。』
『はっは。正直、結構気持ちええな。』
『ちょっと空ぶかしでもかましたろう。』
ブォンブォン。あー、音も良い。IQが下がってるわ。
そこら辺の有料駐車場に車を停めて、俺たちは尾道ラーメンを喰らいに凱旋する。しばらく歩くと、ある程度の行列の出来てるラーメン屋を見っけた。壱番館本店って書いてある。尾道ラーメンの代表っぽいなあ。
「ここにしようや。」
「おうええよ。」
行列加わってから10分、20分経った頃だろうか。ついに俺たちの番回ってくる。
「お先注文だけ伺いますね。」
「あ、はい。えーどうしよう。」
俺の脳内会議の末、チャーシューメンに決まった。っていうか、なんなら先にメニュー見てちょっとビビっときてた。
「じゃ、チャーシューメン2つで。1つはライスと餃子セット。」
「はい、かしこまりました。」
「どうもー。」
ちょっと狭くて小汚い店に入れば、すかさず着丼。おお…これがあの尾道ラーメンか。チャーシューは豪華にも5枚あって、ちょうどいい分厚さや。人の好みによっちゃ分厚いとか薄いとかありそうやけど、俺はちょうどええと思う。茶色いスープには背脂が浮いていて、一見味濃ゆそうやけど、果たしてどうや。
「ん。そういう感じか。」
見た目とは裏腹に、味は濃ゆくない。むしろちょうどよくて、ライスがあったらススみそう。
「餃子でーす。」
「いただきまーす。」
餃子はいつものように藁上と分けっこや。タレもちゃんと用意しといた。いい匂いに誘われたから、一口先かじってしまおう。野菜の香りと油のいい香りで、知らぬ間にお茶碗に自然と手が伸びてしまってた。危険な香りや。
おっと、肝心のメインディッシュを忘れてた。麺に行こう。
スープのお風呂から出してみると、中細面が出てきた。ほんまに王道の醤油ラーメンっぽいなあ。麺が黄色いところとか。啜ってみると、驚きや。麺が背脂を引き連れて口の中で風味を主張してくる。だから、この太さなんかあ。意外とスープの絡みも良い。特段スープがドロっとしているわけでもないのに、しっかり味を感じる。でもくどいとは思わせない。すごい。すごいわ。
「餃子俺も食べてええか?」
「ん、もちろん。」
藁上も餃子を一口で放り込む。アイツのお眼鏡に適ったのか、飲み込んだあと二つ目に着手していた。あ、そんな勢いで人の餃子を食べちゃうのね。
今度の俺の相手はチャーシュー。一旦スープに浸してから食べてみる。歯ごたえのあるよく火の通ったチャーシューで、噛めば醤油の味が出てくる出てくる。ええなあこれ。
「めっちゃええバランスやわ。」
「せやな。」
俺はこのローテーションで、ガンガン食べ進めてしまった。スープも簡単に全て胃の中に流し込んでしまった。その熱が表れ、流石に額に汗が出る。
「お前汗かいてるやん。」
「店内も暑いし、スープも熱いし。」
スープのあとの冷水が胃の熱を少々中和してくれる。でも、俺の興奮はそんなもんでは冷めやらぬ。
「水おかわりして飲み切ったら、会計行こか。」
「うい。」
速やかに会計を済ませて俺たちはなんの打ち合わせも無しに海岸線まで早歩きした。それは食後の一服だと思うと実にみっともない。
「いやあ。ええ味やった。また来たら食いたい。」
「おお、ほんまに。気に入ってもらえたようで良かった。」
「ここはロケーションがええな。」
古風な建物がいくつか並んどる観光地やけど、そこを割っていけば海岸に着く。海岸にはオシャレなことにベンチと机があり、俺たちはそこでタバコを呑みながら今後の予定についてしばらく談笑していった。こんなふうに海を眺めながらタバコを呑むのも、風情があるなあ。