第46話 猫に話しかける人
すでに辺りが暗くなった公園の入り口近くに立つ彰人と、ベンチ前で向かい合う冬花。
「――古河」
(……え?)
自分以外に生き物の影はなく、冬花の名前を呼ぶ彰人の視線はまっすぐ自分に向いている。
(『私』を……『銀二の姿』の『私』を見て……今、『古河』って……!)
「!」
遅れて理解したと同時に、冬花は走り出していた。
一瞬で加速した動きに反応できない彰人の横をすり抜け、冬花は公園を飛び出していた。
(なんで!? なんで、山城さんが『今』の私を見て名前を――!?)
人通りの少ない道を少し走ると、路肩に停まった乗用車が目に入る。
と同時に、姿勢を低くすると滑り込むように車の下に身を潜めた。
(……つい隠れちゃった)
本当に心から逃げたいなら、全力で走ってもっと遠いところで身を潜めたほうが確実だっただろう。
だが冬花は、そうしなかった。
。。。