コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
異形と化した鹿島が、猛然と庵歌姫たちに襲いかかる。
「くっ……!」
庵歌姫が呪具を構える間もなく、鹿島の拳が地面を抉った。衝撃で建物が軋む。
「コイツ……本当に鹿島なのか!?」
楽巌寺嘉伸が驚愕する。
「いや、もはや別物だ」
夜蛾正道が冷静に分析する。
「鹿島の術式の痕跡は残っているが、完全に”呪骸”と化している。……これは、不知火の術か?」
不知火陣が口元を歪めた。
「ふふ……”術”ねぇ……」
「……?」
夜蛾は違和感を覚えた。
(こいつ、”呪力”の流れがほとんど感じられない……?)
だが、そんな疑念を抱く暇もなく、鹿島改が突進してきた。
「おらぁぁぁ!!」
凄まじい速度で襲いかかる拳を、庵歌姫がギリギリで躱す。
「……これ以上、こいつに暴れさせるわけにはいかないわね」
庵歌姫が静かに呪具を構える。
「”月影絶刃”……!」
瞬間、廃寺の中に月光のような刃が閃いた。
鹿島改の腕が切断される。
「ぐ、あ……!」
異形の鹿島がのけぞるが、すぐに再生し始める。
「……厄介ね」
「ならば、一気に畳みかける!」
楽巌寺が三味線を鳴らすと、音撃が鹿島改の体を打ち砕いた。
「ぐおおお!!!」
その隙を逃さず、夜蛾が駆け出す。
「”呪骸・猛虎”!」
彼の傍らに現れた巨大な虎型の呪骸が、鹿島改を押し潰した。
「ぐ……ぉ……!」
鹿島改の体が崩れ、完全に動きを止める。
「やった……!」
庵歌姫が息をつく。
だが――
「……お前たち、いいチームだな」
不知火陣が静かに呟いた。
「だが、俺はまだ”諦めて”ないぜ?」
その瞬間、夜蛾は気付いた。
「……こいつ、本当に呪力を持っていない……!?」
「その通りだよ、夜蛾」
不知火はニヤリと笑った。
「俺には”呪力”がない」
庵歌姫が驚愕する。
「じゃあ……どうやってあんなことを!?」
「簡単な話さ」
不知火は懐から小瓶を取り出し、開く。
「”術式を保存する技術”……鹿島が研究していたものを応用した」
瓶の中から、微かに呪力の粒子が溢れ出す。
「術式というのは、”呪力を持つ者”にしか使えないと思ってるだろう?」
不知火が笑う。
「だが、それを”外付け”すればどうだ?」
「……!」
夜蛾が理解する。
「お前……他人の術式を”データ”として使っていたのか……!?」
「ご名答」
不知火がゆっくりと掌を開く。
「俺自身に呪力はないが、”術式を操作する手段”を持っていた。それだけの話さ」
庵歌姫が呆然と呟く。
「そんな……あり得るの?」
「あり得るさ。だから俺はお前たち術師とは違う”進化した存在”だったんだ」
「……だった?」
夜蛾が問いかける。
不知火は笑いながら、足元を見た。
そこには、深々と突き刺さった庵歌姫の呪具があった。
「はは……」
不知火が口から血を零しながら呟く。
「”俺には呪力がない”……だから、こうして”防御”もできねぇんだよな」
彼の足元に、血だまりが広がる。
「……もう、お前の”進化論”は終わりだ」
夜蛾が静かに言った。
「フッ……そうらしいな」
不知火は笑みを浮かべながら、ぼそりと呟いた。
「……だがな、夜蛾……お前たちの時代は、まだ”終わって”ないんだよ」
庵歌姫が眉をひそめる。
「どういう意味?」
不知火の目が細められる。
「”伏黒甚禰”って……知ってるか?」
その名前を聞いた瞬間、夜蛾の目が見開かれた。
「伏黒……甚禰……?」
「ふふ……覚えとけ……そいつが”次の時代”を作るかもしれねぇぜ……」
それが、不知火陣の最後の言葉だった。
夜明けが近づいていた。
廃寺の中で、庵歌姫が静かに呟く。
「……伏黒甚禰って、一体誰なの?」
夜蛾は考え込むように目を伏せた。
「……分からない。だが、”伏黒”の姓がついているということは……」
「”禪院家”の人間、ってことか……」
楽巌寺が腕を組む。
「これは……厄介なことになるかもしれんな」
夜蛾は、静かに空を見上げた。
新たな戦いの予感を胸に――。