「ひ、ひぃぃぃ!! もう嫌だぁぁぁ!!!」
主は船の甲板を逃げ回っていた。
さっきのぬいぐるみ爆発事件のせいで、なぜか船の乗員たちから「謎の強キャラ」として扱われ始めたのだ。
「おい、あの少女、ヤバいぞ……」
「や、ヤバいなんてもんじゃない! 一瞬で敵を爆殺した……!」
「しかも、泣きながら……!」
「泣きながら敵を一掃する戦士」 という謎の称号が生まれ、船内は騒然となっていた。
誤解の連鎖、止まらず
そこへ現れたのは、実力者の一人、「鉄壁のバルド」だった。
「お前が噂の少女か……」
バルドは全身鎧に身を包み、片手に巨大な戦斧を持つ屈強な男だった。彼は主をじっと見つめ、言った。
「気に入った。お前を俺の部下にしてやる。」
「えっ??」
「お前ほどの強者なら、この戦いでも重要な役割を果たせるだろう。」
「えっ?????」
「これから俺の指示に従え。」
「えええええええええええ!!!!??」
主の頭の中は混乱しかなかった。
なぜだ。
ただの巻き込まれ乗客だったのに、
なぜか大物にスカウトされている。
再び試される絵筆の力
そんな主の戸惑いをよそに、バルドは言った。
「お前の”あの力”を見せてもらおう。」
「えっ、ちょ、ちょっと待って、僕、そんな力ないし……」
「謙遜するな。俺は見たぞ。お前が一瞬で巨大な爆発を生み出したのをな。」
(違う違う違う違う!! あれは偶然!! ぬいぐるみがたまたま爆発しただけ!!)
そんなことを言える雰囲気ではない。周りにはすでに船の乗員たちが集まり、主の実力を見ようとワクワクしている。
(うう……しょうがない……適当に何か描いて、やり過ごそう……)
主は仕方なく、絵筆を取り出し、適当に”防御壁”を描いた。
すると――
ボフッ!!
煙が上がり、そこに現れたのは……
「ト、トースト……!?」
主が描いたはずの防御壁は、なぜか山盛りの焼きたてトーストになってしまった。
「……」
「……」
「……うおおおおおおおおおおおお!!!!」
「な、なんだ!? あの少女、食糧を無から生み出せるのか!?」
「食糧問題が解決する……!!」
「救世主だ!!!」
(ちがぁぁぁぁぁぁう!!!!!)
主は全力でツッコミたかったが、もはや止められなかった。完全に「船のカリスマ」になってしまったのだった……。