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「うっ。ぐうう。うっ…!」
着せられた拘束着は、思った以上に由樹の細い身体を締め付けた。
後ろに重ねられてベルトで固定された腕も痛むし、変な角度を強いられる肩も痛い。
(これで興奮できるのって、そうとうマゾな人間だけじゃないの?)
顔と膝をベッドに付き、尻を高く上げる状態で後ろから突かれ、涙目になって喘ぎながら、由樹は傷みに目を閉じた。
見慣れたリョウの部屋。
洗い立てのシーツに、苦痛の悲鳴で開けっ放しの由樹から垂れ落ちる涎のシミがいくつも出来ている。
「気持ちいい?由樹」
耳元でリョウが囁く。
(痛いよ、リョウ。もうやめて)
でも一言が口をついて出てこない。
彼にとって由樹はお人形だ。
セックスをいろいろ試すことが出来る人形。
ここまでやったら壊れるという判断をするためのデモ機。
もし壊れたり、拒んだりしたら。
翌朝、ゴミ捨て場に置かれるだけだ。
(それでも俺は………)
由樹の目尻に涙が溜まってくる。
(本当に、好きだったのになあ……)
あれはたしか、同じ学部の先輩に振られた夜。
研究室の別の女性との二股が発覚して、責めた由樹に向かって、その男は言った。
「え。男に本気で、とか、有り得る?」
つまり“浮気”でもなく“二股”でもなく、“遊び”だったのだ。
飲み方もわからないくせに、コンビニで強いウイスキーを買った。
某映画の主人公のように、それを口に流すように入れながら、あてもなく歩いた。
気づけば白く大きな建物の前についていた。
(どこだここ……)
見上げていると、中から、白衣を着た、若い男女が出てきた。
(なんだ、病院か)
話しかけられると面倒なので、由樹はまた右へ左へ揺れながらその場を去ろうとした。
「だいじょーぶ?お兄さん」
爽やかな若い男性の声がした。
振り返ると、その声に相応しい、少女漫画から飛び出してきた王子様のような男が立っていた。
「大丈夫れす。お医者さんに診てもらうようなころは何もないろれ」
呂律の回らない口で言うと、その青年はフハと笑った。
「俺がお医者さん?相当アルコール入ってるみたいだね」
言いながら軽い足取りで距離を詰めてくる。
ポケットから手を出して、由樹の頬を包む。
ひんやりとして気持ちいいその感触と端正な顔に、由樹はしばし息をするのを忘れた。
「……お医者さんじゃないけど、介抱くらいできるよ?」
そう言って彼は微笑んだ。
『また拾い食いー』
『似非天使』
『はい、お持ち帰りー』
彼の後ろから聞こえる笑い声は、その時の由樹には聞こえなかった。
リョウのセックスは、初めは優しかった。
まるで女の子のように大事にされた夜を忘れられず、その快楽にまた触れたいと願い、由樹はリョウと頻繁に連絡を取り合うようになった。
彼に複数のセックスフレンドがいることにはすぐに気が付いたが、その優しい眼差しと、向けてくれる笑顔と、抱きしめてくれる腕があれば、べつにいいと思った。
彼が少し変わり始めたのは、知り合ってひと月も経たないうちだった。
看護学科の校門で待っていた由樹に、リョウはあからさまに嫌な顔をした。
その彼の隣には、また頭の軽そうな女の子がもたれ掛かっていた。
そもそも同じ土俵ではないのだからと、自分を言い聞かせ、その女性にも笑顔を向けてみる。
と、金色に近いプリン頭を形だけ撒いた女は、その瞬間、あろうことか由樹に恋をしてしまった。
リョウから連絡先を聞いたというその女から頻繁に連絡が入ってくるようになると、彼はたちまち不機嫌になった。
勿論、女に嫉妬していたのではない。由樹に嫉妬していたのだった。
その女の子を中心として、看護学科で、由樹に興味を持つ女が増えてくると、いよいよリョウは面白くなくなり、由樹に辛く当たるようになった。
そしてそれはいつしか、緊縛という名の特殊なプレイに繋がっていった。
結局は、リョウにとって由樹はアクセサリーだったのだ。
日によって気分によって、その日の服装によって、髪型によって、自由に変えるアクセサリーの一つ。
主導権はいつでもリョウでなければいけなかった。
気に入ら無くなったアクセサリーは、捨てられるか、売り飛ばされるか、改造されるか、あるいは……。