大二の夏休み。月影志隠は一人暮らしの祖母宅へ泊まりに来ていた。電車をおり、田舎の綺麗な空気を一気に吸い込む。懐かしい思い出の道を辿り、難なくたどり着く。だが、祖母宅は志隠の記憶とは大きく変わっていた。
「なっ、何だこれ・・・」
昔ながらの木造の家屋の屋根に金属のような物質でできたでかい円盤型の何かがぶっ刺さっていた。 呆けていると玄関がカラカラカラッと開き、穏やかな老婆が出てきた。
「おや、しーちゃんよく来たねぇ。さ、暑いから早く入りな。」
志隠は震える手で指さし
「おい、ばーちゃん、俺の事しーちゃんって呼ぶのやめろっつったろ。それよりあれなんだよ!?」
と問う。すると、祖母は謎の物体を見て
「あー、あれね、大丈夫よ。それより、早う入り。」
と志隠の問をフル無視で家に招き入れる。
「えっいや、あれ」
状況を飲み込めないまま祖母に手を引かれ、家の中へ連れ込まれた。
客間に荷物を置き、用意されたお茶を飲んで気持ちを落ち着かせる。
「ふう、、、いや考えても何も分からん!夢か?俺夢見てたんか?」
いくら考えても分からないと考えることをやめ、スっと立ちあがる。
「よしっ、直接見に行こう。」
勢い良く階段を駆け上がる。廊下の角を曲がると何かにぶつかった。
「きゃっ」
「おっと」
少しよろけてしまった。
「えっ」
志隠がぶつかった何かに目を向けると、そこには倒れて座り込んでしまった女の子がいた。だが、その女の子は見知った人ではなかった。
「大丈夫?」
「あっはい、すみません」
志隠が手を差し伸べると女の子は手を取り立ち上がった。志隠は女の子の美しさに見入ってしまった。
「君は、、」
志隠が話すのを遮り祖母の呼ぶ声が聞こえる。
「しーちゃん、うさちゃん、ご飯だよー。」
女の子の方をちらっと見てまた階段の方に顔を向けて返事をした。
「はーい」
階段の方に進む。後ろに目配せするとうさちゃんと呼ばれる女の子がちょこちょこと後を着いてくる。居間に行くと 食卓には3人分の食事が湯気を立てて待っていた。
「うわ、うまそう!」
と自分の昔ながらの定位置に座る。皆が手を合わせていただきますと言って食べ始める。少しの間、食器と箸の音だけが聞こえる沈黙が続いた。
だが女の子が箸を止め、沈黙を破る。
「あっあの志隠さんですか?」
「えっうん」
いきなり話しかけられた事に驚き、反射的に答えてしまった。すると祖母が割って入る。
「あんた達まだ話してなかったの、やぁだ。ばーちゃんてっきりもう一通り話したのかと思ったよ。一緒におりてくるもんだからさ。」
と志隠の肩をバシバシ叩きながら笑う。
「痛てーよ。というか俺何にもわかってないんだわ。どゆこと?」
「詳しいことはばーちゃんもわからん。」
と首を横にする。 女の子がバッと手を挙げ、大きな声で話し始める。
「はい!説明します!」
「うお」
「あっごめんなさい」
声を普通のトーンに戻す。
「まずは自己紹介から。私はサクと言います。」
ペコッと頭を下げる。そしてスっと顔を上げる。あげた顔は神妙な顔つきをしていた。
「私は月からやってまいりました。」
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