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え、泣ける...😭💕 いや、もう最高っすね...、!👍🏻 ́-
えわぁぁぁ(((は?)))こっちまで泣けてくる🥹
音もなく開いたドア。
微かに聞こえる呼吸音。
「…ッ赤崎…ッ…!」
意味もなく私は彼の名前を呼んでいた。
__彼の顔は
辛くもなく、
苦しそうでもなく、
泣きそうでもなかった。
“無表情”という言葉がぴったりの
生きる気力がなさそうな顔だった。
私は無意識に聞く。
「…だ、大丈夫、?」
絶対大丈夫じゃないのに何故聞くのだろう。
「…あぁ、大丈夫。」
わざわざ言わせる私は何者なのだろう。
…好き
早くそう言いたいのに。言えない。
言えないんじゃない。言う勇気がないだけ。
何で私はこう弱いのか。
土壇場で勇気が出せないのか。
嗚呼、嗚呼もう、
__駄目だ。
何も言っていないのにもう泣きそうだ。
泣いたら意味がない。
せめて、伝えたい。
君に。伝えたいことがあるんだ。
「…ッ」
私が口を開きかけた瞬間__
「…橙川さん、」
彼が私を呼んだ。
「な、なに…?」
生返事をする私の目を
__彼は逸らさなかった。
今にも消えそうな声で言った。
「…、ごめん」
__嗚呼
私は本当に何者なのだろうか。
「…あの時急に呼び出して、ごめん」
__彼に”ごめん”と言わせて、
「……無理矢理血を吸おうとして、ごめん」
__彼に全部謝らせて、
「……屋上まで走らせて、ごめん」
__彼に全部背負わせて、
「…女たらしで、ごめん」
自分のことなんて考えてなくて。
「……裏切り者で、ごめん」
本当に__本当に私は、
「…俺が運命の人で、ごめん」
__何者なのだろうか。
「…全部、全部ごめん、」
「…ごめんしか言ってなくてごめん、笑」
「…こんな俺でも許して、笑」
その笑顔は苦しかった。
__私はこんな笑顔を見たかったのか?
__私はこんな言葉を聞きたかったのか?
いいや、違う。
私は彼を笑顔にさせにきた。
彼に”大好き”と聞かせにきた。
そんな苦笑いなんていらない。
ごめんなんていらない。
「……笑」
きまりが悪そうに彼は立ち上がる。
もう…ッ、もう…ッッ!
「ッ…やめてよっ…!!」
自分でも驚くぐらいの声を出した。
彼は驚愕の表情を見せる。
「…もうッ…やめてっ…!」
__私はなんて理不尽で、
「…ごめんって言わないで…っ」
__私はいつも自分勝手で、
「…謝りたいのは私の方なの…っ」
__私はいつも相手のことなんて考えてなくて、
「…ッ赤崎が伝えたいのはそんなこと…?」
__私は優しい彼を打ちのめして、
目の奥がじんとする。
同時に赤くなっていることも自覚する。
「…ッ…ポタッ」
__自分が情けなくて
__惨めで
__しょうもなくて
「…ッ…ポロッ……ポロポロッ(泣」
自分がこれほど残念な生き物なのだということを改めて思う。
視界がぼやけて目の前が見えない。
彼がどんな顔かは分からない。
傷ついていたら、ごめん。
傷つけていたら、ごめん。
辛くさせてたら、ごめん。
哀しませてたら、ごめん。
全てに謝りたい。
1からやり直したい。
けれどそんなことは出来ないから。
そんなことが出来たら私みたいな人間は存在しないから。
__もう
何が本当で
何が正しくて
何が理想かなんて
__誰にも分からない。
私は所詮何も知らない生き物なんだから。
だけど一つだけ分かることがある。
確実である事実がある。
「……うッわあぁぁっ…ぁあぅ…ッっあ…ッ」
__私は声を出して泣いていた。
伝えた。俺のできることはやった。
だが、彼女は涙目になる。
俺に感情的な暴論とも言えるそれを飛ばす。
「…やめてよっ…!」
体力は限界だろうにまだ口を開こうとする。
どうせ無駄。
所詮人間の言うことだ。
俺には響かない。
聞いても仕方がないこと。
どうしようもないこと____
「…ッ赤崎が伝えたいのは”そんなこと”…?」
「…」
「…っごめんしか言えない機械なの…ッ?」
「…ッ」
「…っ…ねぇ…ッ…ねぇっ…!」
「…」
「…ッ答えてよ…ッ!!」
「……!」
その言葉はパンッと弾けた。
そして俺の心臓を貫いた。
俺が伝えたかったのはそんなこと?
そんなわけがないだろう。
しっかりと意思のある決意を伝えに来た。
__君が好きだと。
だがどうだ。
俺は本当にこれで良かったのか。
俺はこれで正しかったのか。
俺はこれが理想だったのか。
__そんなこと誰にも分からない。
俺は所詮何も知らない生き物なんだから。
「…ッ…ポタッ」
その瞬間気がついた。
彼女の涙を見て気がついた。
俺の伝えるべきことが。
思い出した。
俺のしたいこと。やりたいこと。
伝えたいこと。
君のおかげで。思い出せた。
凄く簡単で当たり前のこと。
俺はできてなかった。できなかった。
“ あれ “にも書いたけど。
ちゃんと口で言いたい。
__俺は覚悟を決めて口を開いた。
「…ッ…橙川さん…っ」
彼が私の名を呼ぶ。
なんだ。また謝るのか。
正直、聞きたくない。
「…ギュッ」
「…ッ…!?」
そんな私とは裏腹に彼は私の手を握ってきた。
暖かかった。
一度引っ込んだはずの涙がまた出てきそう。
彼は私の目を真っ直ぐ見た。
__そして口を開いた。
「…ッ…ありがとう」
もう、なんなの。
「あの時誘いに来てくれて、ありがとう」
もう__泣かせないでよ。
「俺のために屋上まで走ってきてくれて、ありがとう」
やめて。もうやめて。
嬉しいじゃん。泣いちゃうじゃん。
「女たらしでも話してくれて、ありがとう」
女たらしでもいいんだよ。
「裏切り者でも関わってくれて、ありがとう
裏切り者でもいいんだよ。
「俺の運命の人で、ありがとう……ッ」
「全部、全部、ありがとう…ッ…」
「…こんな俺に付き合ってくれて、ありがとう…ッ…ポロッ」
屋上の床に1滴の涙が零れ落ちる。
「…ッ…うわぁぁぁぁぁ…っ…っあぅ…ッ」
彼もいつの間にか泣いていた。
その顔は美しかった。
今までの全てを吐き出すように。
大きな声を出して。
彼は泣いていた。
__ありがとう。
こちらこそありがとう。
私を気遣ってくれてありがとう。
ありがとうって言ってくれてありがとう。
あとは言葉にするだけ。
「…ッ」
ありがとう。
その一言が出ない。
涙のせい。
喉がつっかえて上手く声が出ない。
「…ッ…ポタッ…ポタッ」
涙だけが独りでに落ちる。
もう、全てを話せる体力はない。
私は全てを省略して伝えることにした。
これで伝わると思った。
「…ッ…大好き…ニコッ」
私は涙だらけのぐちゃぐちゃの顔で精一杯微笑んだ。
彼は微笑んだ。
私と同じように。
満面の笑みと言える程の笑顔を。
なんと返ってくるのか。
なんと言ってくれるのか。
だが次の一言が放たれることはなかった。
目も合わせることはできなかった。
繋いだはずの手も
いつの間にか離されていた。
夕焼けが情けをかけるように私達を照らす。
「…バタッ…」
彼は屋上の床に倒れていた。