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髪を切ってから数日が経った。
あれ以来、おびただしい数の視線を向けられるようになり。
学校での俺のポジションが随分変わったように思う。
例えば、クラスで全然話したことのない人に話しかけられたり。
それこそ学年も違うのに声をかけられたりと、劇的に状況が変わった。
そのせいかおかげか、外に出るだけでかなり疲れるようになってしまった。
やはり俺は前の方が性に合っていたのかもしれない。
なんてことを考えながら自動販売機で飲み物を買う。
するといかにもキラキラした女子生徒三人組が近づいてきた。
全員スカートが短く、制服をかなり着崩している。
「ねぇ、君って九条くんだよね? 二年生の」
「あぁ、はい。そうですけど」
「やっぱり! ……うん、写真で見るより実物の方がカッコイイね!」
なんで写真で見てるんだ。
もしかして俺の写真、出回ってるんだろうか。
「わかる~! ってかあたしら、体育祭のときも見ててさ!」
「最下位から全員抜いたとき、ちょ~カッコいいなって思ったんだよね~!」
「……ありがとうございます」
なんて答えればいいのかわからず、そう答える。
すると女子生徒がグッと俺の方に踏み込んできた。
香水の甘い香りがふわりと舞う。
「それで、さ? 私たち結構君のこといいなって思ってるんだけど……」
「放課後、時間あったりしない?」
「あたしら三人と“イイこと”しようよ」
そう言いながら、ちらりと谷間を見せてくる。
赤い派手な下着がわずかに顔をのぞかせていた。
「えっと……」
「何なら昼休みとかでもいいよ? 私、いい場所知ってるんだぁ?」
「ってか別に“今から”でもいいし」
「結構“そっち”には自信あるからさ? ね、しようよ」
「ふふっ、絶対君を気持ちよくさせてあげるっ♡」
さらに三人が距離を縮めてくる。
どうしようかと困惑していると、俺の背後から足音が聞こえてきた。
「ちょっと、離れてくれる?」
俺と女子生徒の間に割り込み、一ノ瀬がキリっと三人を睨みつける。
相変わらず放つ圧は凄まじい。
「まったく、良介に色仕掛けとはいい度胸ね。私という女の子が近くにいながら」
「っ!」
三人が顔をしかめる。
「残念ながら良介はすでに“予約済み”よ。別の男を当たりなさい」
「……い、行こ」
「う、うん」
三人が悔しそうに立ち去る。
一ノ瀬は完全に姿が見えなくなるまで見届けてから、くるりと俺の方を向いた。
まるで褒めろと言わんばかりの顔をしている。
「ありがとう、一ノ瀬」
「いいわよ、別に。でも、迫られてもちゃんと断れるようにしなさい? 女っていうのはね、ずるい生き物なんだから。わかった?」
「わ、わかった」
「絶対わかってないわね……」
一ノ瀬がため息をつく。
「ま、良介がそんな感じならこっちから捕まえておくだけだけどっ」
「うおっ!」
一ノ瀬が俺の腕にしがみつく。
そして顔を俺の腕にこすりつけた。
「……はぁ♡ いい匂い。これよこれ……今のうちにマーキングしないと……ふふっ♡ これで誰も近づけないわ……ふふふっ♡」
「えっと、一ノ瀬?」
「良介は気にしなくていいわ。私が勝手にやっておくから。すぅー、はぁー……ぐへへ♡」
「あはは……」
一ノ瀬に吸われたり嗅がれたり、擦りつけられたりするのを黙って見る。
正確には、黙って見る“しか”なかった。
……あの、この場合はどうするのが正解なんでしょうか。
一ノ瀬と廊下を歩く。
「見て見て! 九条くんだ!」
「カッコいい……」
「一ノ瀬さんと歩いてるよ!」
「やっぱり付き合ってるのかな……」
「でも花野井とも仲良くね?」
「葉月さんとだって一緒にいるじゃん!」
「ってか俺、最近九条が綺麗なお姉さんと歩いてるところ見て……」
「人気すぎだろ」
「やっぱりカッコよすぎるよなぁ」
「体育祭のこともあるしな」
注目を一手に集めながら進んでいく。
俺は気まずくなって、ふと見つけたポスターに視線を逃がした。
「そういえば、そろそろ全国統一模試だな」
「確か日本で一番受験者数が多いのよね」
「へぇ、そうなのか」
「そういえば九条くん、一年生に受けたときはどうだったの?」
「えっと、確か……」
言いかけたところで、ふと前の方を歩く男子生徒に気が付く。
歩き方が少しおおざっぱで、彼らしくなかった。
それに雰囲気も、以前とは少し違う。
それは周りも感じているようで……。
「ねぇ、あれ須藤くんじゃない?」
「ほんとだ! でもなんか様子おかしくない?」
「最近、須藤くん変なんだよ」
「嫌なことでもあったのかな?」
「須藤ってもう少しオーラあったくね?」
「今はなんかイマイチって感じだな」
「どうしたんだろうな」
「あ! ってかそんなことより九条くんだよ!」
「ほんとだ! やば、何度見てもカッコいいんだけど……!」
「一ノ瀬さんと一緒だ!」
「超お似合いの美男美女って感じだね……!!!」
やっぱり周りも、須藤の異変に気が付いてるみたいだな。
俺からすれば、裏の顔が少しずつ見えてきてるというか……。
「むふふふっ♡」
「一ノ瀬?」
「ううん、なんでもないわ」
「そ、そうか」
なんでもないにしてはあまりに頬が緩んでる気がするが……。
ま、本人がなんでもないと言うなら、これ以上追求するのはやめておこう。
♦ ♦ ♦
※須藤北斗視点
絶対九条に恥かかせてやる……。
俺が一番じゃなきゃダメなんだ。
なのにここ数日で俺の人気まで持っていきやがって……!!!
絶対に許さねェ。
……今に見てろ。
調子乗ってるみてェだけどな、今度こそ俺がお前に“大恥”かかせてやるよ……!!!
クックックッ……。