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3.ちゃんと目を見て向き合って。
「潔を諦めてほしい。」
黒名蘭世と名乗る小柄な男が突然呼び出してそう告げた。
「…は?」
話によるとブルーロックプロジェクトに参加後、俺と別れて黒名の家に行ったらしい。
「どこまで知ってんだお前。」
「凛が知ってるところまでは大体わかる。」
「馴れ馴れしいガキだな。」
「馴れ馴れしいのはどっちだよ」
嘲笑うように黒名が鼻で笑うと同時に店員が黒名の前に注文品を置いた。
「お待たせいたしました、ごゆっくりお楽しみ下さい。」
「ありがとうございます!!!」
目を輝かせてもう俺のことなんか眼中にないかのように目の前に置かれたどでかいパンケーキを大きな口で頬張る黒名。
「潔はどこだって言ってんだよ。会わせろ。」
俺の声に黒名は反応せずただ黙々と食べ進めている。
流石にイラッとしてテーブルに置かれてあるフォークを手に取ると1番上の苺を突き刺した。
「待て、早まるな凛。」
「じゃあ聞け。お前は潔に頼まれて言いに来たのか。わざわざ兄貴にまで連絡しやがって。」
俺からフォークを取り上げようと引っ張ってくる黒名。
不貞腐れた顔をしながらフォークを離さないわりには答えてくれるようだ。
「別に。俺がしたくてやってるだけだ」
「…お前、潔のなんなんだよ。」
「じゃあ教えてやろうか、今潔がどこにいるか。誰もいるかもな。」
黒名の目線がフォークから外れて俺の目を真っ直ぐに突き通した。
「…上等だ、三つ編み野郎。」
「んで、凛と何があった。」
「冴、興味あるのか?」
「バカにしてんのかよ。凛が夜な夜な愚痴LINEばっかしてくんだよ。あいつと違って暇じゃねぇからお前が止めろ。」
冴はコーヒーに口をつけながら頬杖をつく。
今日、このカフェに俺を誘ったのもそれが目的だろう。
冴は凛と同じ扱いなのかもしれない。
糸師凛の兄、プロサッカー選手の糸師冴は俺の”初恋の人”なのだ。
凛と出会ってから冴を知った。
初めはヘタクソだと罵られ、教えてもらっていたことが唯一の接点だった。
徐々に凛とは違った優しさを感じてしまい俺にとって今考えればあれは恋だったかもしれない。
だけどその時の俺には自覚なんてなかった。
冴のサッカーを邪魔したくなかったし、何より凛に追いつかないといけない焦りを感じていたから。
凛を好きになったのはきっと冴の面影を感じたことも一理あるのも事実だ。
「何とかしろって…まぁ取り敢えず話すよ。 」
冴は相変わらず素っ気なく無視する。
そんな冴に向かって俺は凛について話す。
あの日、なんで俺が泣きながら振ったのか。
あの日、凛は何故怒っていたのか。
あの日、俺と凛に何があったのか。
もう戻ることのない日々を一つずつ思い返して凛の名前を何度も口に出した。
珍しく冴と目が合うことが多く、でもすぐに逸らしてしまう。
「……それって。」
「…?」
「…まぁいい。一つ言っておいてやろうか。近いうちに凛と会え。もう一度話すんだ。」
冴は立ち上がり飲み終わったコーヒーのカップを中央に寄せると椅子にかけていたコートに腕を通した。
慌てて俺も立ち上がり、マフラーを巻くと冴の背中についていく。
「今から会うか。」
「何言ってんだよ、急すぎだし準備が!」
「もう遅ぇ。話はついてんだよ。」
カフェを出て少し歩いた先にイルミネーションが飾られてある。
本当なら噴水があった場所が取り壊され、今ではカップルの集まる地と可したこの場所。
凛と最後にデートした場所でもある。
「寒…ッ、ってもうクリスマスか。」
「どーせ1人だろ。凛と別れてんだから」
「黒名と過ごすよ、あいつも1人だし」
「男となんて気の毒に。」
冴の相変わらずの毒舌に手が出そうになる。
だが何も言い返せないのも悔しい。
やっぱり俺は糸師には勝てないのだと改めて実感してしまう。
一足早い12月10日。イルミネーションの前のベンチに冴と並んで腰をかけているとイルミネーションの反対側から見覚えのある顔が見えた。
「黒名…ッ…凛…。」
「ほんとに…潔か…?」
冴は黒名の顔を見ると「遅い、わざわざ協力してやってんだから待たせんなチビ。」と暴言を吐く。
黒名は手を合わせて「謝罪、謝罪。凛が中々信じてくれなかった」と呟いた。
「潔世一、どうするかはお前次第だ。突き放そうとより戻そうと俺らは部外者。決めるのはお前らだぞ。」
「潔、逃げてもいいけど胸は貸さないよ。そんくらいの覚悟で言いたいこと全部言ってこい。」
冴と黒名の目を交互に見るとどちらもよく似た熱く強い思いを感じられる。
「…凛、話そう。ちゃんと。」
「……。」
俺は今、ちゃんと向き合わないといけないんだと認識する。
最初から黒名の目的はこの為だったのか?
数日前からこそこそと電話していた相手は冴で凛とは見た感じ今日打ちあけて連れてきた。
凛が黒か白かわからない。
でも向き合わないと。もう逃げないよ、凛。
「分かった、潔。」
凛の目を真っ直ぐに見つめ返す。
冴と黒名の姿はいつのまにか見えなくなっていた。