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翌朝。
京志は無言のまま、粗末な昨日の残りを無造作にかきこむ。テーブルに置かれた新聞はスポーツ欄だけが開かれていた。1人きりの食卓には箸の音しか響かん。
京志が家を出て一中の門をくぐったとき、昨日とは違う空気を感じた。視線は集まるものの誰も近づいてこない。
──完全に“値踏み”されてる。
教室に入ると、春也は席に座ったまま軽く目だけを動かしてきた。
取り巻きの連中も昨日より距離を取っている。
授業が始まり、時間が流れる。京志は一切無駄な動きも、会話もしない。けど、明らかにクラスの緊張感だけは昨日より高まっていた。
──昼休み。
パンを買おうと廊下に出た瞬間、京志の前に立ちはだかる巨体。
「加賀谷」
見るからにでかい男。身長180いやもっとか、がっちりしたラグビー体型。坊主頭に近い短髪で、表情は無機質やけど、どこか知性がある。
「間柴や。」
間柴が転校生に声をかけただけで廊下を歩いてた他のやつらが少しだけ動揺する。それだけで1中内での間柴のポジションがなんとなく把握できた。
「昨日、春也とやりあったんやってな。噂になっとんぞ。」
京志は無言で間柴の目を見据える。
「その目や、その目が春也を苛立たせるんやろな。」
間柴は腕を組んで、じっと京志を見下ろす。その目に、敬意もなければ敵意もない。ただ、冷静な“査定”。
間柴は更に口を開いた
「……勘違いすんなよ。」
「……?」
「お前が強いかどうかなんて、俺にはどうでもええ。」
「なら、なんの用や。」
「一中で生きてくつもりなら、知っといたほうがええと思ってな。」
「何を。」
間柴が一歩前に出る。
「ここでは、“仲間”の中にいない奴は、獲物にされる。」
京志は微動だにせず、そのまま間柴の目を見返す。
「……俺に、仲間はいらん。」
間柴はしばらく黙っていたが、ふっと鼻で笑った。
「そうか。まあ、好きにしたらええ。」
その口調には、「別に興味ないけど」みたいな、突き放すような温度感。
「ただ──覚えとけ。」
「……」
「春也はまだお前を“敵”とも“味方”とも思ってへん。でも、こっちの判断は、わりと早いで。」
「……」
「そんだけや。」
間柴はそれだけ言って、踵を返す。まるで「これ以上関わるつもりはない」と言わんばかりの背中。
京志はその場に立ったまま、誰にも属さない自分の足音だけを聴きながら、下校の道を歩き出した。