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アバロンオブラグナロク城、壮麗を誇っていたこの場所も、今では荒れ果てた廃墟のように見えた。城の周りには、魔物の襲撃による傷跡が残り、残った石壁の中に、栄光の面影をわずかに感じるだけだった。だが、その一角には、誰もが一目で気づくほどの威厳を放つ人物が立っていた。
その名は萌香。17歳の若き貴族嫁であり、アバロンオブラグナロク城の貴族の家に嫁いだばかりの女性だ。あまりにも華奢で、あまりにも可憐に見えるその姿は、荒れ果てた環境とは対照的だった。
「こんな場所で魔物と戦うなんて、ほんと最悪……。」
萌香はふわふわした声で呟きながらも、手に持っている短剣を構える。今日はまた、貴族嫁として魔物討伐に駆り出されたのだ。
萌香は、転生前の記憶がまだはっきりと残っている。高校生活を送っていたが、いじめっ子に階段で後ろから押され、頭から落ちたことで転生してしまった。前の世界では、負けず嫌いの性格に反して流されがちで、強さを見せることができずにいた。それが転生後、どうしてこうなったのか。誰にも言えない苦悩を抱えたまま、彼女はこの王国の中で生きることを強いられていた。
「はぁ~、でも、今日は絶対に魔物を倒さなきゃいけないんだから!」
萌香は自分に言い聞かせるように、細身の剣を振るった。
「お前たち、こっちだ!」
彼女の前に現れたのは、魔物ではなく、城の兵士たちだ。彼らは意気揚々と、魔物の動向をつかんでいると言うが、萌香はそれに対して冷ややかな視線を送った。彼女にとって、もはやこんな仕事は義務であり、好きでもなんでもない。
「おい、こんなところで何してる?」
兵士の一人が彼女に声をかける。
「仕事です。だって私、あなたたちに命じられてるんですから。」
「仕事なんて……気をつけろよ。お前が無事でいてくれれば、俺たちも楽なんだからな。」
萌香は、無理に笑顔を作った。
「うん、ありがとう。でも、別に心配しなくてもいいわよ。」
その笑顔の裏に隠された苦悩を兵士たちは知らない。それでも、萌香は内心でこう思っていた。
「魔物なんか、もう何度も戦ってきた。勝つのは私だ。」
アバロンオブラグナロク城の中で、萌香はただひたすらに強くなろうと努力してきた。周りから見れば、ただの貴族の嫁であり、守られるべき存在。しかし、彼女はそれを受け入れることができなかった。
魔物が現れ、戦闘が始まる。萌香の剣が舞い、魔物を切り裂く。その姿は、まるで高貴な戦士のように見えるが、彼女の心の中には不安と恐れが渦巻いていた。
「死なない……絶対に死なない。」
彼女は、自分を奮い立たせながら剣を振り続ける。周囲の兵士たちはその姿に驚き、少しだけ感心する。しかし、萌香はその賞賛に答えることなく、ただひたすらに剣を振り続けた。
戦闘が終わり、魔物たちは退けられた。城の前には血で汚れた戦場が広がり、萌香は深いため息をつきながら剣を納める。
「……疲れた。」
兵士たちが集まってくるが、彼女はそれに気づかないふりをして一歩引いて歩き始めた。彼女の心の中で、再びいじめられていた頃の記憶が蘇る。
あの頃、弱さを見せればすぐに攻撃され、誰も助けてくれなかった。今、ここで戦う理由はただ一つ――強さを証明したいからだ。
「でも、これでまた少しだけ強くなれた気がする。」
萌香は振り返り、血に染まった剣を見つめた。
「アバロン・オブ・ラグナロク城で生きていくために、私はどこまでも戦う。負けたくない。」
その言葉を胸に、萌香は再び歩き出した。彼女が選んだ道は、もはや後戻りできない戦いの連続だ。だが、それでも彼女は迷わず進んでいく。それが、彼女に与えられた役目なのだから。