◇
涙が止まらなかった。
流れ落ちる涙を拭うこともできずにただ顔を覆った。
「……っ、みどり…」
みどりに話したい事、いっぱいあるよ。
どれだけ苦しかったか。
どれだけ悲しかったか。
もう少し早く出逢えていたら、みどりの悲しみを減らしてあげることが出来たかもしれない。
心の穴を埋めてあげられたかもしれない。
「…ゥ……」
小さな呻き声と同時にみどりが僅かにみじろぎした。
目元を擦っていた他のみんなもハッと顔をあげて、みどりに駆け寄った。
「みどり、みどり起きて…」
「…ラ、ダオ……?…生キテル…怪我ハ…」
「みどりの、おねぇさんに助けてもらったんだよ…」
「オネェチャン……?」
何を言っているんだと言わんばかりに首を傾げるみどりの肩に手を置いたきょーさん。
涙の滲む瞳で深緑の瞳を見つめた。
「おるやろ、それ、やめろや…!」
「……」
レウさんがその後ろから泣き出しそうになるのを堪えている顔で声を絞り出した。
「忘れたフリ、よくないよ…!」
「…」
コンちゃんが、みどりの手を取って祈るように自分の額にそっと押し当てた。
「みっどぉの自慢のお姉さんでしょう…!」
「ッ…」
背後から膝をついてみどりをそっと抱きしめた。
みどりの肩は震えていて、涙がじわりと浮かんでいる。
「みどり」
自分のこと、偽らないで。
悲しい時は、悲しいって大きな声出して。
苦しい時は、苦しいって俺達に教えて。
そうじゃなきゃ、心が壊れちゃうよ。
「ッ、ふ、ぅ”……う”ぁ、ぁぁあああ…!」
今まで押さえていた感情を一気に吐き出すかのように大きな声をあげて泣き出したみどり。
泣いてくれたことが嬉しくて、俺達はみどりの様子を見てホッと笑みを見せ合った。
ちぐはぐな状況だったけど、それでもそこは暖かくて、居心地の良い場所だった。
「ヒッ…ふ、ゥ……」
「落ち着いた…?」
「ン…落チ着イッ、タ…!」
まだグズグズと鼻をするりながら、それでも幾分明るくなった表情にホッとする。
おねぇさんも安心できたかな…
月と星が瞬き始めた夜空を見上げてそんなことを考えていると、月の周りに白いモヤが掛かって見えた。
「……?」
目を擦ってみても白い煙のようなものは夜空を揺蕩って月をぼかしていた。
きょーさんがタバコを吸い始めたのかと振り返って確認してみても、そんなこともなく…
「ラダオクン……?」
みどりは夜空の一点を眺め続けている様子を不思議に思ったのか、俺の視線を辿って夜空へと目を向けた。
「……ッ!?」
ひゅるり。
優しい風と共に、空から不透明のカタマリがみどりに向かって舞い降りてきた。
「……オバケ…?」
「…ゴースト、ダ……」
オバケはしばらくみどりの周りを飛び回っていたかと思えばグググ…と身を固くした。
頭の先からニョキニョキ生えてきた植物の蔓に似た何かが編み込まれて、みどりの被っている帽子に良く似たものが乗っかった。
「どりみーの真似っこしとるんか……?」
「みどりくん専用ゴーストだね……!」
「どうなってるんだろ〜……?」
わっと皆んなが盛り上がっている中、俺は何か縁のようなものを感じていた。
みどりと繋がりを絶ったおねぇさんと、今みさに繋がりを得ようとしているオバケ。
この出会いが偶然じゃなかったらいいな、なんて思うのは少し贅沢かもしれない。
「オマエハ、ミドリゴースト…!ヨロシクネ……!!」
一生の中で一度きりかもしれない出逢いが、みどりにとってより良いものであることを願いながら俺達は洋館へ歩いた。
◇
コメント
2件