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◇
おねぇちゃんとお別れしてから数日。俺はラダオクンの召集命令によって朝から会議室の椅子に座り、他の皆んなが来るのを待っていた。
「あれ、一番じゃなかった〜!」
「コンチャン…!」
おはよぉ〜、とゆるい挨拶に同じくゆるい言葉を返してしばらく談笑していると、レウさんが飲み物なんかを乗せたワゴンを押しながらやって来た。
「準備してたら遅くなっちゃった、おはよ」
「オハヨーン」
「まだ五分前だから大丈夫だよ」
飲み物の準備を手伝いながら待っていると、ドタバタと慌ただしい二つの足音が近付いて、バンッと勢いよく扉が開かれた。
「っしゃあ!俺の勝ちぃ〜!」
「くっそ!負けたぁー!!」
「ラダオクン雑魚」
競争でもしていたのか、きょーさんと競うようにして会議室に飛び込んできたラダオクン。
残念ながらきょーさんの方が少しだけ早かったらしい……知らんけど。
「ラダオクン、召集ノ理由ッテ……」
「あ、そうそう!国一つ潰しにいくよー?」
物騒な発言をゆる〜い話し方で誤魔化したラダオクンはモニターに接続済みのPCをいじくりつつ言葉を続けた。
「ココ、今回みどりを虐めて俺に薬ぶち込んだ奴の国」
「ほほーん…?」
切り替わっていく敵国の内部写真を目で追いながら話を客観的に聞いて考える。
俺はまだ運営じゃあ新人もいいところだからね。口出しする権利なんてないってわけ。
まぁ、これは俺が勝手に思ってるだけ。
多分ラダオクン達はそんなこと思ってないハズ。
「人体実験も盛んらしいね、結構な大国だけど……全面戦争?それとも内部から瓦解させてく?」
「…内部から瓦解させてく方がええやろ」
「うん、俺もそー思ってる」
……内部から敵国を瓦解させるとなると、間諜が必要になってくる。
今回は誰が行くんだろう……刺青男がこっちに捕まってるから、敵国の警戒も天井知らずって感じになってそうだけど…
「あ、今回の潜入は俺が担当するから」
相次ぐ爆弾発言に皆んなが皆んなあんぐりと口を開けて驚き、固まっている。
そりゃそうだ。
なんでわざわざラダオクンが行かなきゃ行けないのさ。
ラダオクンは王様なんだぞ!
なんか……その…自覚はないのか!自覚は!!
「俺ハ…反対、シタイ……」
おずおずと意見を述べると、それみたことかと皆んなが大きく頷いた。
王様は普通こんなことしないのだから。
「じゃあ他に誰が適任だってのさぁー」
「そもそもなんでお前って案を出したんや」
「元々、ココのトップが“俺を連れて来い”って命令したんだって」
「じゃあ抵抗虚しく捕まった王様のフリをするってこと?何が起こるかわからないのに?」
レウさんの辛辣な正論にラダオクンがヴっと胸元を抑えた。
心なしか涙が浮かんでいるような……
自業自得だから心配はしてあげないけどね。
「そもそもあの刺青男が素直に言うこと聞くとも思えないしねぇ〜…」
コンちゃんの困ったような顔にラダオクンはますます小さくなった。
刺青の男…ラダオクンの威圧じゃ演技だってバレちゃう。
かと言って、敵国の目的と違う人が捕まる役になっても……
「ネェ、俺ガ囮役ヤロウカ?」
「ダメ」
食い気味に放たれた“ダメ”の一言で確信した。
「ラダオクン、刺青男ノ狙イニ“俺自身”モ含マレテタデショ…」
「…」
ムッとした顔でそっぽ向いちゃう所は可愛いけど、今回ばかりは俺も引いてあげない。
俺なんかでも役に立てることがあるんだ。
この機会を逃したりしたら、次役に立てるチャンスがいつになるか分からない。
「ラダオクン、俺ハ大丈夫ダヨ」
そっと席を立って、両手の指先を合わせてそっと目を閉じる。
ふわりと風に靡いた髪は腰の辺りにまで伸びて、心なしが節々が丸くなった気がする。
膨らんだ胸元は知らんふりをしてラダオクン達の方を向くと、何故かみんなして複雑そうな顔をしていた。
「…上手ク出来タト思ッタンダケド……変?」
男ではなく、女の姿に扮した俺はその場でクルリと回ってみせた。
「あー…すごいかわいいんだよ?でも、えー…何と言うか、えっと…過程、かな……」
「カテ、イ…?」
すごくもどかしそうに両手をモゾモゾさせながら悔しさの滲む顔でそうじゃないんだよ…と言葉にするレウさん。
「なんて言うのかな…えぇっと…その……」
「過程が生々しすぎてグロい、やろ?」
「そう、そうなの!それなの!」
「指さすな」
きょーさんの補足に強く頷いたレウさん。
身振り手振りで話している姿はなんだか普段の母の心が一変、少年のような心を垣間見ることが出来てすごくほのぼのした。
その証拠に、さっきまで会議室の中は……主に俺とラダオクンが……一触即発の雰囲気だったのに、気が付けば冷静さを取り戻してお互いにお茶を啜っていた。
「でね…って、みどりくん聴いてる…!?ここスッゴイ大事なんだよ…!?」
「ウンウンウンウン、聞イテル聞イテル」
ガタガタと音がしたと思ったら、裏切り者達がどんどんと会議室から出ていくところだった。
「ェ、チョ……!?」
「みどりが間諜なんて…はぁ、心配すぎる……」
「じゃあ、どりみー後は任せた」
「よろしくねぇ〜」
「ウ、ウラギリモノォ〜ッ…!」
虚しく閉じられた会議室の扉と、すっかり自分の世界に入り込んでしまった暴走機関車レウ・クラウド。
「もう一回!」
「ンンンーッ」
「あ!そこダメ、もう一回!」
「ンヴヴヴヴ……」
さて…レウレウオリジナル変身訓練も、もうかれこれ三十分なんだけど…いつになったらレウさんの暴走タイムが終わるのだろう……
「もう一回!」
「ンヴヴヴ……モウ、ヤダァァァ……」
この後コンちゃんがご飯に呼びに来てくれるまで特訓は続いた……
◇