おかしいがおかしいをしてたので2くらいから書き直しました!
※モブ出ます。地の文ではモブ呼びです。
題名つばきおちつと読みます。
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逢魔が時。細い道を歩くのは相談所を営んでいるという男。 黄昏時とは厄介なものでそこらにかしこで妖怪に遭遇する時間。人の顔の分別がつかなくなり、うっかり妖怪と邂逅でもしてしまったらあら大変。面倒事にまっしぐらだ。
さて、それはともかく今年の春は花冷えが続く。まだまだ寒さが残る中で少し足を速めた。
「ただいま戻りましたー」
ともに相談所を開いている雇い主の男に自室の前から声を掛ける。
また1階に降りたと同時にチャイムが鳴った。
*
「さて、本日はどのようなご要件で?」
長身の男に案内された空調の効いた部屋は異世界とも言うべき程に相談者──赤には馴染みが無いものだった。
部屋の真ん中にあるのはアンティーク調の白いテーブルと椅子。テーブルにはこれまた白いアンティーク調のティーカップとソーサーが3組。壁は左右共に多数の本が壁を埋めつくしている。正面には一面の窓。窓の前にはシンプルな猫足の書斎机と椅子が1つ。前庭だろうそこには大ぶりで紅白の牡丹が咲きこぼれている。
背筋をスっと伸ばし、手を膝に置いて口と目を細めながら話しかける男と横で足を組み背もたれにふんぞり返りながら紅茶を啜っている男。
赤が言い詰まってるのは2人の格好からだろうか。
1人は牡丹色の共衿に金色の線がのびた黒い着流しに躑躅色の羽織。足元には着物に似合わぬスリッパ。そしてこれまた着物に合わない黒手袋だが、妙に調和している。
1人は黒いシャツに瑠璃紺色のベストと紺青のジャケットとズボン。ネクタイは嫌いなのか着けておらず首元が大きく空いている。
2人のチグハグで、でもどこか合っている格好に違和感とも言えない感情が出てくる。ここが異世界のように感じたのは2人の格好からも来ているかもしれない。
年齢も赤と近いように見え、21~24程だろうか。とてもじゃないが相談業、元い探偵業を営んでいるようには見えない。
「えっと…まずここって探偵?相談所的な場所で合ってますよね…?」
「あぁ、申し遅れました。私、ないこと申します。聞いての通り偽名ですが、そこは無視してもらえると。こちらは助手のいふですね。こちらもお察しの通りこちらも偽名です。それから世話人も兼ねてもらっています。」
スっと差し出した名刺には彼の羽織と同じ色を背に黒で書かれた「雉ス螯匁相談所 ないこ」との文字。
恐らく社名が書かれているであろう文字は文字化けしていて読めない。理解はできるが、然し音となると記憶が飛んだような不安定になったような、頭が覚束無い感覚に陥る。
青と紹介された男は、桃と色違いの白手袋を着けており、助手と云うより執事のようだ。
「本業は相談所ですが、先程仰られた通り、少しですが探偵業も営んでおります。本日はどちらですか?」
手を組み直し、口と目を同時に細め、胡散臭い笑みを浮かべた。
*
「えっと…まず、大神裏卜です。今日はどちらとも言えないんですが……」
ここ2ヶ月の内に、赤の仲のいい友人が2人いなくなってしまったのだ。1人は転落事故。1人は行方不明からの首吊りだとか。
「で、ここからが本題なのですが、」
2人が亡くなったあと、黒という友人が2人に似ているように見えた。瓜二つなんてものではないが、目元や鼻筋、雰囲気が似ていた。
「1人目をA、2人目をBとさせていただきますね。
亡くなる2、3日前からAが亡くなったらAみたいになり、Bが亡くなるとBみたいになって。あに…悠佑とは互いに一番の友人なんです。それこそ親友的な。けどやっぱりこういう事があってから気味悪くなって…」
「成程。それはそれは災難でしたね。
Aさんはどこからの転落か分かりますか?」
災難でしたね。はただの社交辞令のように哀れみのアの字も無い朗らかで平坦な声色で話を進めていく。然らば社交辞令など無かった方がまだマシだと思う程に。
「……山からの転落死です。滑った跡以外特に何も無かったしA以外の足跡も見つからなかったので事故だろうと。」
「ではどちらから落ちたなどは分かりますか?途中向きが変わることもありますが足からなら滑ったことになりますからね。」
「いや、そこまでは……結構ボロボロになってたみたいで、首とかも折れてたらしくて…遺体は見せて貰えなかったんですよ。」
「それは惜しい」と紅茶を啜りながら青にメモを取らせている。だがこの御仁にメモなど要らぬも同然と思うのははたてして勘違いだろうか。
「でも俺は転落死とかじゃないと思ってて。
山登る癖に高所恐怖症なので崖付近に行くことなんて全くなかったんです。それが崖からの転落っておかしいと思わない方がおかしくないですか?」
「まぁ、そう熱くならずに。」
と、いつの間にか指示された青が空になったカップに紅茶を入れてきた。
なぜだろう。うるせぇからそれ飲んで黙れと言われている気がする。
「Bさんはどこでお亡くなりに?気になったところとかありませんでした?
首吊りでしたら遺体も綺麗だろうし見れたのでは。」
あまりの淡々さに言葉がでなくなる。
話し始めてから気づいたがこの人他人に興味が無さすぎではないだろうか。
一目見た時に受けた桜の大木のような暖かさはどこへやらだ。
「……墓地です。ここの近くに墓地があるでしょ。そこです。」
「遺体に何かおかしい所は?」
「えっと、炎症…ですかね。手首から肘を全体的に。」
「ふむ…その辺りに椿は生えていましたか?Aさんの方も。」
「あ、はい!生えてました。山の方も墓地の方も椿が群生してるとこで。」
「山は兎も角墓地にもですか。椿の群生地とはいえ、管理者は中々いい性格をしてらっしゃる。」
椿はその花がポトリと丸ごと落ちる様子から首が落ちるように見え、昔から忌み物とされてきたようだ。
確かにそう言われると椿が多く群生してる地とは言え、墓地に椿はNGでは無いだろうか。
ふと、赤の頭に友人が運営している旅館が浮かぶ。確かあの旅館にも椿が溢れかえっていた。
「おや、何かありそうな顔ですね。」
「ああ、いえ。実は友人が旅館を経営していて。その旅館は椿が家紋でして、椿の話してたら思い出しちゃうなーって。」
「その旅館を経営しているという方は?」
「有栖初兎です。お兄さんと一緒に、っていうか殆どお兄さん旅館経営してて。」
「そうですか。ではご友人達と一緒にその旅館へ泊まりに行ってください。
あちこち回って話を聞きに行くのはめんど……大変なので。」
面倒臭いって聞こえたぞ。面倒臭いって。
本当になぜこんな人が探偵業なるものを営んでいるんだろうか。
*
「さて、ではまた1週間後に。」
「はい。」
旅館への日時を決め、やっとこさ帰路に着く赤。
今日はなんだか狐に摘まれ、神隠しにでもあったような気分だった。
10分だけ居たような気もするし1時間2時間と居た気もする。日没後の空は赤や橙と染まっていて季節外れの紅葉のようだ。
*
1週間後。白の旅館近くに赴き、桃と青を探す。旅館が少し複雑なところにある為、案内をすると集合場所を決めて置いたのだが、一向に来る気配がない。時間は既に10分を超えていた。
近場で友人宅というのもあり、観光するところもないので黄昏時前にとの約束だった。春になり暖かくもなったが時間も時間。薄ら寒く、少し丸くなる。
と、漸く影が見え始める。青自慢──かは知らないが──藍色のローバーミニだ。
「すみません、遅れてしまって。
例の墓地に参じておりまして。」
これまた何とも思っていないような表情で謝る桃。青は我関せずと車を走らせている。いやそれより墓地に行った話を……
と。
「にゃあ」
猫。猫…猫……?
「猫?!!」
桃の膝上のゲージの中で猫がゆったりと尻尾を振っている。大層眠いのか大きく口を開けて欠伸した。白をベースに茶と黒が程よく混じった三毛猫だ。首には赤い紐に鈴がついている。
「猫ですよ。ペット可の旅館なんて珍しいものでつい。先日相談に来られた際にも居たじゃありませんか。
おや、気付きませんでしたか?」
先日の館には不在だった筈だが。一体何処に隠れていたのだろう。綺麗に整頓された部屋は猫の入る隙等無かったように思えた。猫は液体。ふむ、強ち間違いでも無さそうだ。
「でもなんで連れてきたんですか?」
「長く生きた猫は火車と呼ばれるようになりますからね。」
火車というと悪人を地獄へ送ると云われている妖怪か。まさか死人が出るとも限らないのに。
大方桃の言う通り、ペット可の旅館が珍しく連れてきただけで火車の話しは赤を揶揄っているんだろう。
いやただ猫も気になるが墓地だ。猫話の前サラッととんでもないことを言ったなこの人。
「墓地のことですが、炎症が気になったので行ってみました。」
なるほど、それで遅れたのか。話を聞いて1週間あった筈なのに何故今日行きました?とは聞けなかった。
よし、墓地で何があったかだけ聞こう。
「椿自体に毒はないのですが、チャドクガという毛虫がついてることがあるんです。
毒針毛に触れると2~4時間で痒みや発疹が現れます。腕全体に広がった炎症はピーク時の1~2日目のものですので、死亡時から1~2日は経っていますね。時間までは流石に分かりせんがね。」
死には至らず、1~2週間で終わることも考えると妙に鬱陶しいものだ。
しかしわざわざ椿の枝葉に触れる機会があるものなのか。この辺りはもう分からず終いになりそうだ。
先程言っていた死亡時や炎症の原因は人伝に聞いたものと一致していた。流石探偵。と言うべきだろうが、そんなことを桃に言ったとて正に馬の耳に念仏だろう。
*
ルームミラーから半分だが桃の顔が見えた。適度に失礼な御仁だが、スラッと背筋を伸ばし膝を手に置いた姿は百花の王と言えるだろう。まさに壮麗そのものだ。
しかしルームミラーを凝視していると、こちらは4分の1も入っていないのに青に物凄く凄まれる。
牡丹も似合うがやはり桃は桜のようだと思う。桜には周り植物を阻害するクマリンと云う物質が含まれている。もろ青だろう。
車を走らせていくと曲がり道や分かれ道が多くギリギリ舗装されているような道に着く。例の複雑な道だ。
この辺りは一帯は椿の群生地らしく椿がそこらかしこに自生してある。友人の旅館が椿を家紋にしたのはこの意味もあったはずだ。
「そういえばなんでこんなに急いでるんですか?1週間後に出発って言われて結構大変だったんですけど。」
「そのようですね。実際少し遅れましたし。」
自覚があるなら少しこちらの事情も考えて欲しい。友人3人への連絡、旅館の予約。建前の理由説明など。中々に大変だった。
「さて、疑問にお答えしますと。」
「もうすぐ古椿の季節が終わりますからね。」
と。
*
荒々しいドライブが終わり、旅館が見えてくる。小さな山の上に経つ大きな旅館だ。
大きく椿の紋が描かれている門は2つに分かれている。
ローバーミニから降りると白の兄である水が出迎えてくれた。
そして当たり前のように桃は信玄袋のみ、青が2人分の荷物を抱えていた。
再度思うが本当に助手か?執事でなくて?
「よくいらっしゃいました。旅館つやきへようこそお越しいただきました。」
「りうちゃんは久しぶりだね。急にお客様連れてくるって言われてビックリしたよ。」
深くお辞儀をし、にっこりと朗らかな笑みを浮かべる。
幼い頃見たのとなんら変わっていない明朗な笑顔は車に乗っていた時よりも大層安心する。
「おや、仲居さんですか?失礼ですが女将は?」
「5年ほど前に両親とも他界しておりますので僕が大将を。客も殆ど来ない旅館ですので、従業員も特に雇わず弟と2人で切り盛りしております。」
「それはそれは。ご冥福をお祈りします。」
早速ぶっ込み始めた桃と青を連れて部屋へ歩き出した3人に少し遅れてついて行く。桃は水の挨拶を返したが、青はここでも一言発しない。
「この旅館は椿を至る所に使っていると聞いたのですが。」
「よくご存知で。旅館の木材から備品、小物までできるものは椿で作らせて貰っております。」
襖が続く床も椿で、天然木の質感や温かさがある。椿オイルが塗布されており、木材の色味が美しく引き立たたせている。
中庭には中ぶりの椿が6つ咲き誇っており、鹿威しの音が心地良い。
という説明をされているが桃と青は揃って早々に興味を失くされたようだ。
自分で聞いてたでしょうが。早く興味見つけ出してこい。
若干の呪詛を込めながら目線を送る。直接物申してもいいが青が流石に怖い。
「お2人はこちらの104号室でございます。どうぞごゆっくりお寛ぎくださいませ。」
小さくぺこりとお辞儀をして襖を閉める。
閉まる直前かろうじて笑みを返し、小さくお辞儀するのが見えた。青は早速荷解きか。
*
夕食を終えた19時。共有スペースで寛いでいると桃が部屋から出たのが見えた。
共有スペースは中庭を挟んだ向こう側に客室がある。共有スペースも客室も中庭側は1面ガラス張りだ。
どうやらいつも侍らせている青は意外なことに不在のようだ。
「りうちゃん何してんの?」
温泉上がりの白が声をかける。まだ少し髪が湿って肩には水滴が落ちる。
「いや初兎ちゃん髪ちゃんと乾かしなよ。」
「じゃありうちゃんが乾かして」
幼い頃からの腐れ縁で、同い年だか弟のように接してきた。髪を乾かしてはお泊まり会で恒例となっていた。
脱衣所に戻り、鏡の前に座らせドライヤーをつける。濡れ兎から丁寧に手入れされた兎になるこの瞬間が案外好きでもあった。
乾かし終わると白が持ってきた椿の香りがするオイルを髪に塗り込む。丁寧に手入れされた兎から手入れされた香り付きの兎になる。
「りうちゃんが他の人連れてくんの珍しいな。」
髪の手入れ中、出し抜けに声を出す。手入れ中白の方から話し始めるのも珍しい。
しかし、はてさて。白に2人を連れてきたことを言っただろうか。一応偶然と居合わせたということになっているのだが。
「何年の仲やと思っとんねん!流石に分かるわ!」
チラチラ見すぎ!と謎のダメ出しをされ笑われた。聞けば桃らとすれ違った時、夕飯の時、先程桃が部屋から出た時などなど。一切の身に覚えが無意識的に追っていたようだ。
「そんなわかりやすい…?w
まぁそうだね。職場で知り合って、ここのこと話したら行きたいって言ってたから。 」
「ふーん。でもなんでそれだけで知人ってこと誤魔化すん?」
先日の建前話では久しぶりに泊まりたいと適当に話し、できるだけ知らないふりをしろと言われたが、ここで誤魔化す方が怪しまれる。
ちなみに案内をしていたら直ぐにバレると思い、水には事前に知らせてある。
しかしやばい。建前に建前を重ねた結果かえって面倒くさくなってしまった。どうしよう、どう切り抜けよう。
「私が黙っててくれと頼んだんですよ。
変に気を使われちゃこちらが悪いですし。」
凛とした声が響く。赤には少し剥がれていたが白の手前、しっかり笑顔の仮面を貼っつけてきたようだ。
気づかなかったが、桃がいつの間にか温泉に入りにきたようだった。少し遅れて青も顔を出す。木製の桶に白く上等そうな手拭いを抱えていた。
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共有スペースに戻った後は置いてある漫画を読み耽る。なんだかんだいって皆がいるスペースにいる方が心地良い。
共有スペースには赤と白、黒に仕事と風呂を終えたらしい水だ。桃と青は案の定来ていない。
と、手洗いにと立ち上がった水を送った5分後。悲鳴が上がったと思った数秒後に顔面蒼白の水が小走りで戻ってきた。息を切らし、全身に汗をかき震え、目尻が光っている。
「くび、首吊って…!」
聞けばトイレに行ったついでにと足りなくなった備品を取りに地下の物置に行ったそうだ。鍵を開けると首を吊ったモブがいたそうだ。
梁から縄が垂れ、輪っかに首が乗っている。首吊りに使ったであろう背もたれ付きの椅子が少し離れた所で前方に倒れていた。
いつの間にか桃も地下室まで着いてきていた。そして初めて会った時と同じように怪しく口を細め目を細め、薄ら笑った。
中庭の椿がひとつ、首からポキリと折れていた。
コメント
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モ、モブーーーーっ!!!!!! なんで死んじゃったんだよお前ぇ.....友人A、Bとモブたちには何か共通点があったり...?猫ちゃんの説明的になにかしら悪事を働いていたのか?それとも黒がコ○ンくんみたいにその場にいるだけで事件が起きちゃう存在だった...?() わからんこといっぱいあるけど和服と洋服という対照的な服装の設定大好物ですありがとうございます!!!文字でもちゃんと想像できたよ!!
題名から変えて書き直しました。ほんとに2くらいから全部変わってます。 青桃の服をかなりかなり拘ったのですがあれより詳しく説明する技術は無いので適当に頭の中で構築してください。絵描けたら良かったのにネ……(諦め) 素人の拙い文ですが、流して楽しく読んでくれたら幸いです。 因みに口を先に目を後に笑うのは自然笑い、同時に動くのは作り笑いらしいですよ。