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馬車に揺られ続けて3日が経った。
「お嬢様!!王都に着きましたよ」
エマはゆっくりとカーテンを開けて、はしゃいでいた。
恐る恐る、窓を見てみると、これまで住宅が並んでいた景色と一変して、屋台がずらりと並んでいた。シルフィアは一瞬、息を吐くのを忘れた。
「…すごいわね」
王都に入って20分、公爵邸の大門の前で馬車が停車する。
門の前に立っていたのは、1人の男だけだった。
エマはシルフィアにだけ聞こえるように「お嬢様は公爵令嬢ですよ?」と頬を膨らませ、不満を漏らしていた。誰だってそう思うだろう。本来ならば、隣国とはいえ公爵家の娘が嫁いで来るのだから、他の屋敷の人間も迎えるべきだ。
シルフィアは御者に手を借り、馬車から降りた。なんて惨めな令嬢だろう。
「よく来た」
目の前の男は、冷たい声色と無表情をシルフィアに見せる。やはり、歓迎はされていない。
2人の距離には少し間があったか、それでも体裁を守るため男はシルフィアの手をひく。
「私はここの当主、ラファエロ・ヴァンキルシュだ。婚約を決めたのはこっちだが、私はお前と馴れ合うつもりはない」
そういうとラファエロは、部屋の案内もせず階段を登っていく。
ラファエロの姿が見えなくなるのを確認すると、エマがすぐに声あげる。
「なんなんですか!?あの男!」
「噂通り、冷たい人ね。でもエマ、そういうことはもう少し声を小さくしなさい。いつ、誰が、どこで、何を聞いているか分からないわ」
シルフィアはエマを注意すると、まるで不服な声で返事をし、重たい荷物を抱える。
「それより、私の部屋はどこかしら?」
辺りを見渡すと、遠くからこちらに近付いて来る姿が見えた。
「クロックフォード様、お待ちしておりました。侍女長のユリアでございます。お嬢様の部屋をご案内するため伺いました」
ユリアは30代後半であろう少しキツめの顔と、ふくよかな体つきをしていた。
「えぇ、シルフィアです。案内をお願いするわ、ユリア」
シルフィアは、早い足取りで廊下を歩いていくメイド長を置いてかれまいと着いて行った。