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タイトル:実らなかった想い
桐生くんから「相談がある」と声をかけられたのは、放課後の教室だった。窓の外は薄暗く、夕焼けが雲に隠れていて、少し雨の匂いがしていた。私たちのクラスは掃除当番で、他の人たちはみんな帰りかけていたけど、私は教室の隅でスマホをいじっていたところだった。
「姫奈、ちょっといい?」
声をかけられて振り向くと、桐生くんが少し照れたような顔で立っていた。こんなふうに話しかけられるのは珍しくて、ドキッとした。
「何?」
「恋愛相談、してもいいかな。」
一瞬、心臓が止まりそうになった。恋愛相談…?うえー。頭の中が真っ白になる。でも、なんとか平静を装って「いいよ」と答えた。桐生くんのことがずっと好きだった。でも彼の口から「恋愛相談」という言葉を聞いて、胸が少し痛んだ。…絶対に私じゃない。
「俺、好きな子がいるんだ。」
その瞬間、胸にナイフが走った。私が知りたいのは、桐生くんがどんな子がタイプなのかとか、私に少しでも興味があるのかどうか、そういうことだった。でも、彼はすでに「好きな子」がいると言った。
「そうなんだ。で、その子って…誰なの?」
一歩引いて聞いたけど、声が震えそうだった。
「愛衣。」
その名前を聞いた瞬間、世界がぐらっと揺れた気がした。愛衣。クラスの中心で、明るくて誰にでも優しい女の子。私も仲が悪いわけじゃないけど、比べるまでもなく彼女は輝いている。
「そうなんだ…。」
必死に笑顔を作ったけど、自分でもぎこちないとわかった。
「どうやったら気持ち、伝えられるかな。」
桐生くんの目は真剣だった。彼の想いを応援するべきだと頭ではわかっていた。でも、胸の奥が痛くて、何も言えなかった。
「…告れば。」
それが精一杯だった。本当は「やめて、成功しないで。」と言いたかった。でも、そんなこと言えるわけがない。
「ありがとう、姫奈。お前、頼りになる。」
桐生くんはそう言って笑った。その笑顔が、こんなにも痛いなんて。
「いやいや、全然。いつも誰かの失敗を願ってるだけの人だから、!」
事実。
雨が降り始めたのは、私が学校を出た後だった。傘は持っていなかったけど、どうでもよかった。濡れてもいいから、ただ一人でいたかった。
「姫奈!」
後ろから聞こえた声に振り返ると、桐生くんが走ってきていた。
「なんで…追ってくるの?」
「お前、なんか変だと思ったから。」
その言葉に涙が溢れそうになった。優しいところも全部、好きだった。でも、それが今は苦しいだけだった。
「私、桐生の相談なんてのりたくなかった」
思わず叫んでしまった。雨に紛れて泣いているのがバレなければいいと思ったけど、声は震えていた。
桐生くんは驚いた顔をしていたけど、私が涙を拭うと「なんでもない」と言った。
「…愛衣と仲良しこよししときなさいよ。」
桐生くんが何か言おうとしたけど、その言葉を遮るように私は走り出した。雨の冷たさが、私の涙と混ざっていく。
その日以来、私は桐生くんと少し距離を取った。桐生くんは何度か話しかけてきたけど、私は曖昧な笑顔で流してしまった。
彼の想いが愛衣に届くのかどうか、知りたくない。てゆーか多分もう届いてる。知ってしまったら、もっと胸が痛む気がするから。
でも、それでも――私は桐生くんを好きなままだった。彼の恋の行方が私に向いていなくても。