ぐぅ〜。
配信終わり、もうすぐ寝ようかと思っていたおき、お腹が頭の意思とは真逆に声を出す。
コンビニの暖かい何かが食べたい。
謎に思うのはこれが初めてでは無かった。
「お会計2500円です」
夜のコンビニに響くは、眠くも痒くもなさそうなガタイのいい大学生の男。よく日焼けた肌はすぐさまアウトドアの人だとわかる。
最後の一本の唐揚げ棒だけで2500になったわけじゃない。結論を言うと、別のものも買った。
おにぎりも買ったし、飲み物も買った。最近無くしたヘアピンに、今後の企画で使う小物たち。それら全てで2500円になった。
「えーちょうどですね。こちらレシートなります、またお越しくださいませ」
ぺこり、と一礼。
最後まで笑顔が絶えない人だったなあと思い出す。ヒーローとして見習おう。
----ガシ。
「っ!?」
「暴れるな。そのままこっちに着いてこい」
ゴト。衝撃でコンビニ袋が落ちた。
何者かわからないが、声や背中から感じる男感。口も手で塞がれて変身しようにも言葉が言えない。
なす術なく、慎重に不審者と共にコンビニ裏へ歩く。ゆっくり、ゆっくりと。
「よし。とりあえずお前がこの辺のヒーローだってことは知ってる。このネックレスが鍵だな?」
ネックレス兼、香水が不審者の爪で動く。
否定も肯定もせず、ただ黙った。
「……今回は殺すために来たわけじゃない。お前には試作品で1週間引き篭もってもらうぜ」
「…、試作品?」
「喋るな。ただこの薬を飲め。」
そう言われ差し出されたのは、明らかに怪しい薬。色はピンクと黒を混ぜたような…どうも飲み込みたくはない外見。
「……」
「飲め。ネックレスがどうなってもいいのか」
いつの間にやら用意していたのか。
ポケットから自然と出てきたナイフにはもう驚かない。こういう人ほど、普通に持ってあるものだ。…慣れた自分も、相当おかしい人間である。
「全部飲めばええんか」
「ああ。じゃなきゃ効果が半減する。」
「………。」
嘘か、真実か。
わざわざ効果が半減すると言った意味はなんだ。単純に半分飲んでも効果はありますよというパターンか。それともカマかけたのか。
………。
「3、2………」
「…………っ」
「1……………」
グビ。思いっきり全てを飲んだ。
瞬間、不審者はニヤリと気持ち悪く笑う。
「アハハァッ!!!全部飲みやがった!!バカめ!!!せいぜい助けたくとも助けられない気持ちを抱えながら羞恥心で死ぬんだなヒーローよ!!!!!!!!」
夜の街に響く大きな声だった。
何を言っているかはわからない。だがきっと、明日自分はいう通りになる。
ヒーローとして、不審者の言いなりになってしまったのは恥。どうにか、明日は自分の意思で行動するしかない。意思が勝てるのならば。
「…………。」
夜の街を明るく照らしていたコンビニの電気は消えていた。
そして翌日、謎の店員服がレジ前に落ちていたのだとか。
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場面は変わり、次の日の朝。
昨日の夜のことがあり中々寝付けなかったマナは、いつもより早めに目を覚ます。
二度寝も出来なかったため、いつものように顔を洗おうと洗面所に向かった。
…なんとそこで、思わぬ光景を目にする。
「…………は????」
ピク、ピク、と動く耳。
ふわん、ふわん。不安な気持ちでいっぱいの自分を表しているかのように大きく揺れる尻尾。
「………は、はぁぁぁ!?!?!?!?」
不審者の薬の効果が今、ようやくわかった。
「…ねこ、ねこ……???俺が、ねこぉ??」
変な具合に猫化した。これも薬の量が関係あるのだろうか。
とりあえず1日のルーティーンを始めた。
まずはジャーっと流れる水を手に取り…
「っにゃ!!!」
否、取れない。
「……うそ…やろ…………」
勘違いだと思いたい。もう一度水に触れる。
「っう…!」
体全身が拒否するこの感じ。メンバーに虫を喰わされそうになったときと同じような。
「…顔、洗えへんのか」
さっそく1日のルーティーンは崩れ始めた。
水が苦手となると、風呂掃除も洗濯物も危ないのかもしれない。それら全てをすっ飛ばしてやることといえば、朝食。
「ん?こんなコメってまずいもんやったか…?」
だがしかし、また問題は発生する。
人間用に作られた朝食は、もちろん人間の舌に合わせて作られている。今のマナには、それが不味く思えてしまう。
試しに保管してあった煮干しを食べると、それはそれは口にあった。米の何倍も食べてしまった。
「見た目以外は本格的に猫や。俺こんなに魚食うことないもんなぁ…???」
自分で「食べたい」と思っているはずなのに、どこか「もういらない」の気持ちがぶつかり満腹にならない。
結果全ての煮干しを平らげ、ようやくソファーに寝っ転がろうと思えた。
「……こんなんじゃ生活出来へん…」
自然と体が丸くなっていることにはもう突っ込まない。
換気として開けた窓から入ってくる風を感じながら、昨日の夜出会った不審者を思い出す。確かアイツは、『1週間』という言葉を多く吐いていた。
効果が続く時間だとすると、この部屋は一気に猫仕様になっていく。
汚くなった体は自分で舐めて終わり?
ご飯は自分で捕る?
トイレは…???
「…………。」
このままじゃダメだ。
このまま1人でやっていくのは無理だ。
そう結論を出せば、もう話は早かった。その辺に転がっていたスマホで電話アプリをタッチ。1番上にあった名前を押して、返しを待った。
「ん?もしもーし!」
「あ、いきなりごめんな。ちょっと話したいことがあって…」
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「うわあー!!!ホントに猫ちゃんだぁ!!」
「マナくん可愛い!ちょーかわいい!!!」
「んやテツきもw」
「カゲツくん!?1番言っちゃいけないからそれ!!!」
………思ったより来た。
まだ玄関だというのに騒がしい7人。なぜ暇なのかと思い聞こうとしたが、ろくな返事ないよなとコイツらの性格を改めて考え口を閉じた。
気づけばロウのオトモが体に擦り寄ってきていた。
「あ、ちょオトモ!」
「わ…来てくれたん?嬉しいなぁ。もしかして猫っぽい感じする?」
オトモは返事するように鳴いた。
「…正真正銘の猫じゃんね」
「猫じゃらし買ってきました」
「いらん気遣い!!!!!!」
「猫缶もあるよー!いらなかったらロウのオトモにあげるから安心して!」
リビングに到着するまでの間会話は途切れることがなく、どんだけ猫で盛り上がっているんだと呆れた目を向けた。誰も気づかなかったようだけど。
一番乗りにリビングの扉を開けたのはウェンだった。
「あれ?案外綺麗。爪研ぎとかしてボロッボロ状態想定してたんだけどなー」
「まだ爪は普通…というか、外見はそこまでなんよ。中身が酷くて」
ウェンに爪を見せながら語る。何人かは「中身?」と聞き返す。
「水は触れられんし、味覚は完全に猫。さっき自分で触ってみたんやけど、舌の感じまで猫っぽかったわ」
「マジで?」
隣のリトが呟く。続いて、見てもいいか、と質問される。
「ええよ、んぁ」
べ、とベロを出した。うおーとリトが声を漏らす。見るだけで終わるかと思っていたが、瞬間指のような感触が伝わる。
「んぇ、りぉ…?」
「うっわすご……ガチ猫って感じ」
「ねこなんやて…」
もういいだろう、と勝手に舌を戻す。
「洗ってき」
「はーい」
「キッチン借りるよマナ」
「ん。うまいの作ってな」
「じゃあマナくん!料理が出来る間に俺とカゲツくんが遊んであげるねッ!」
「…俺が頼んだの掃除なんやけど……」
「まあまあ、細かいことはええやろ」
「うんうん!最初は楽しまなきゃ!」
「「じゃーんっ!」」声を合わせて効果音をセルフでお届け。2人の手に握られていたのは猫用おもちゃのメジャーもの、猫じゃらしだった。
「………確かに、ちょっと目がつられる」
「お?もう猫センサー発動してる?」
「そんじゃ、…えいっ」
「うわっ!」
ひょい、がしっ。ぴょ〜ん、がぶ。
ただのフサフサを目から離すことができず、人目も気にしないでそれを追いかけた。たまに噛んだり、思いっきりガードして動かなくしたり。
「かわいいねぇ〜…完全に猫だぁ…」
「マナ、おらこっち」
「うっ、わぁっ、ンナっ」
「…あいつめっちゃ翻弄されてるな」
「猫化、思ったよりすごそう」
遠くから自分を見つめる蛸と狼が言った。気にせず目の前のおもちゃを追いかける。
「ほらほら、次はこっちだよー」
「わっ、んんっ」
「…っ重!引っ張る力つよ!」
隙をつき、手元に収めることができたおもちゃ。思う存分、ガブガブと噛んだり、手で引っ掻いてみる。
「んぁん………ん?」
だがコイツは何も反撃してこなかった。(マナの力が強過ぎて2人は動かすことが出来なかったため)
マナから見れば、それはまるで死んでいるも同然。思えば香りもしないと気づく。
生きてる相手じゃないとわかったら、なんだ面白くないな、とすぐに興味が薄れる。
ポト、口からおもちゃを離して耳をいじった。
「…ん、マナくん??どうしたの?」
2人は床に置かれたおもちゃとマナを見比べながら、頭にクエスチョンマークを浮かべる。
その様子にとある1人が小さく笑う。
「もう飽きられたか」
部屋にテノールの声が響く。
猫が唯一身近にいるロウがそう言うと、イッテツとカゲツは揃って「「飽きた!?!?」」と驚く。声量に怯え一瞬マナの体が飛び跳ねたのには誰も気づいていない。
「こんな早く!?まだ1時間も経ってないやん!」
「猫は気まぐれですから」
「うえーんマナくん自身はすっごく粘着質なのにぃ!」
「本人の前で言う?それ」
すかさず相方はそう言った。
2人の出番が終わったとなれば、次は自分の番だと、ライは足を進める。
こちらに気づいたマナが首を傾げた。
「マナ疲れたでしょ!猫缶あげる」
「…!うまそう……」
マナはキラキラと目を輝かす。まだ開けていない猫缶を嗅いでいるところを見て、ライは西の癒しであるロウのオトモと姿を重ねた。
優しく微笑みかけながら、ライは猫缶を手に取る。
「今開けてあげるね」
「はやく!はやく!」
「はいはい」
そうしてる間に、洗面所とリビングを繋ぐ扉が開かれた。明るい橙色の髪の毛が、窓の外の光を浴びる。
「お、やってる」
「数十分で飽きられたわ」
「wwwまあでも猫ってそんなもんじゃない?w」
「もー!!すっごく落ち込んでるのに!!」
「滑稽だったわ2人」
「オオカミこらぁ!!やるか!?」
独特なポーズで構えながらカゲツが言う。「あーやめてやめてー」棒読みでロウは返した。
部屋の真ん中では美味しそうに猫缶を食べるマナの姿があった。
「おいしい?」
「ん!んん〜♪」
「…でもあと少しでウェンが料理終わるって。この猫缶食べたことは内緒だよ?」
「ないしょ…」マナはライの言葉を繰り返した。ライはその様子に苦笑いしていた。
先程から若干感じてはいたが、もしかしなくとも、マナの猫化は順調に進行しているのだと思う。
人間らしい発言が減って、目の瞳孔が細まっていて。猫の毛繕いのような瞬間が増えていて、言葉の意味を理解するために言葉を繰り返すことが多い。
…今日一日で自分達を呼んでくれてよかった、と思った。
「全員しゅーごー!ご飯出来たよー!!」
安堵し油断しきっていた体は、突然響くウェンの大声に驚く。目の前に座るマナも体が飛び跳ねた。
「出来たって。いこっか」
「ん!」
ひっそりとゴミ箱に猫缶を捨て、リビングテーブルに2人で向かった。
コメント
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めっちゃ好きです‼️応援してます‼️‼️