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「紗奈。」
学校の廊下を歩いている時、後ろから呼ばれた。紗奈はゆっくりと振り返り、微笑んだ。
「ユナ!」
境ユナは声をかけられると、小走りで隣に着いた。
「そっちは美術だったの?美術室って結構遠いよね。」
染谷紗奈は、下ろした黒髪を揺らし、覗き込むようにユナに話しかけた。
「そーなんよ〜。でも、紗奈に偶然会えてよかった。」
砕けた口調で話すユナは、中学生の時から一緒であった。それもそのはず。紗奈の通う学校は、大学付属の中高一貫校であり、4クラスしかないのだ。高校二年生になった紗奈達は、クラスこそ別々になってしまったが、仲はとびきり良かった。
「なんていいこと言ってくれんの〜?ユナってば、可愛くなったね〜。」
からかうように笑い、もう互いの教室に着いてしまった。少し立ち止まり、またねと声を掛け合い教室に入る。
「紗奈、おそーい!」
目をやると、お馴染みの3人がそこに居た。仲良しグループのようなものだ。皆、穏やかな雰囲気を漂わせている。そこに駆け寄り、皆の座っている席の机に手をついた。
「皆が早いんだよ〜。すぐ置いてくんだから!」
少し頬を膨らませ、皆に言う。
「ごめんって。だって次、社会の先生だよ〜?」
「たしかに…。私あの先生すぐ怒るから苦手。」
話しかけてきたのはボーイッシュでサッパリ系の瑠璃であった。他にも、ゆるキャラ系の璃音や、頭のいい桜子が居る。同じバスケ部から仲良くなったのだ。
怒られると怖いので、ささっとその場を離れ、直ぐに社会の準備をする。またみんなの元に戻り、会話を続けた。
「そういえば、紗奈、前も1つ下の後輩に告白されてなかった?」
「あー、部活の後輩だよ。普通に仲良かったから、びっくりしちゃった。」
ふーんと相槌を打つ瑠璃達は、何故かニヤついている。
「で?断ったの?」
「…うん。だってまだ仲のいい後輩先輩でいたいもん。」
紗奈は前にあった出来事を思い出す。ひと月前、部活の後、後輩がバスケ部の顧問に怒られているところにばったり出くわしたのだ。なかなか可愛がっていたため、何となく可哀想に思い、自分からどうしたんですかと声をかけた。
「あ?こいつが学校のボールを家に忘れたんだ。今日使うって何度も言ったのに。」
大きくため息をつく顧問に向かって、すみませんと言った。
「私が緊急で私情を共有したからかも知れません。私の責任です。すみません!」
深々と頭を下げ、そろっと顔を見た。
「…次はないぞ。お前に期待してるから言ってるんだ。」
「はいっ!ありがとうございます!!」
再び頭を下げ、後輩の手を引いて素早くその場から離れた。
「先輩…ありがとうございました。」
その言葉に手を離し、貴久翔を見た。
「…紗奈先輩。なんで俺を庇ったんですか?」
思いの外の言葉に、少し驚きつつ、目を細めて笑った。
「だって、大切な後輩だよ。しかもあの顧問、捕まると何十分もお説教してくるし!」
おだけた雰囲気を作ろうと冗談を言ってから、その場を離れようとした。すると、
「今日、一緒に帰りませんか?」
と言われた。もちろん断る理由がない。承諾してから、更衣室へと歩いた。
「お待たせ。」
手を振りながら、後輩の元へ小走りで駆け寄った。
「いえ、…全く。」
微笑み、早速歩き出す。何を話したらいいのか分からず、部活の話に移る。
「そういえば、部活はもう慣れた?先輩たち、怖いでしょ。」
「…少しだけ。」
後輩は高校から入ってきたのだ。中学受験よりかは倍率は低いと思うが、恐らく沢山勉強してきたのだろう。自分で言うのもなんだが、結構頑張って、名の知れた高校に入れたと思う。
「私、当時の3年にすっごい怒られたんだよね。まだ根に持ってるかも…。絶対見返してやるーって沢山勉強したんだ。」
「紗奈先輩って、地頭がいいタイプかと思ってました。努力だったんですね。」
後輩の言葉に少し感動しながら、わいわいと会話は盛り上がった。
「紗奈先輩。」
「え?」
「俺、帰り道こっちなんです。」
貴久翔は、自分の帰り道であるという方を指さして言った。
「そうなんだ。じゃあもうお別れだね。」
少し寂しそうに言うと、翔は言った。
「紗奈先輩…。俺…。」
「…?どうかした?」
後輩の言葉を待ちつつ、何となく翔を見てみる。1年では結構イケメンだと称されている翔は、真っ黒な黒髪でセンター分けにしており、たしかに、という程であった。同じクラスメイトの女子でも告白したという子がいるくらい、人気があると言っても過言では無い。
急に翔は、紗奈の手首を掴んだ。驚いて固まると、ずいっと顔が近づき、
「俺、紗奈先輩のこと、好きです。」
と言った。あまりに突然の事で、訳が分からず、えっえっと困惑するばかりである。