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都内某スタジオ、脱獄鬼ごっこPROの期間限定の新規アバターの撮影が行われようとしている。
「おはようございまーす。カラフルピーチのえとです。よろしくお願いします」
すでに準備に取り掛かっているスタッフさんたちに挨拶をしながら、案内してもらっているメイクルームへと向かって行く。
「おはようございまーす。よろしくお願いします、えとです」
「えとさん! おはようございます。今日もよろしくお願いします」
明るく挨拶を返してくれたのは、前回の撮影でもお世話になったメイクさんだった。はっきりと見知った顔にえとは安心感を覚え、少しだけ緊張が緩まる。
「おー、えとさんおはよう」
「え、うりじゃん。おはよう。早くね? 私ギリギリになっちゃったけど」
荷物を置かせてもらい、メイクさんに促された席に向かうとすでにヘアメイクが完成されたうりが隣に座っている。
「いやぁ、余裕持って行動しようってシェアハウス出たら、乗り継ぎが上手く行きすぎてめっちゃ早く着いてしまったんよ」
実家の遠いうりは、スタジオから近いシェアハウスに泊まったと明日頑張れよという激励グループ通話で聞いていた。
「あー、そうなん?」
「そー、だから、ここで朝飯食べさせてもらいながら、セットもしてもらってって感じで」
「わたしギリギリに来すぎて申し訳ないじゃん」
「いやいや、えとさんもきちんと15分前には来てくれたじゃないですか」
メイクさんにそう言ってもらえて、よかったと照れながら汚れないように前掛けをしてもらう。
「提出課題の追い込みをやってたら起きたのギリギリになっちゃって。昨日の夜くらいしか時間なさそうだったから。歯磨きして、顔洗ってーくらいで家飛び出して来ちゃいました」
「ヘアメイクはこちらでしますから。そういう方もたくさんいますよ」
「よろしくお願いします」
メイクさんのしっとりとした指先が、えとの髪をメイクの邪魔にならないようにクリップで留めていく。
「えとさんのおでこちゃんと見たの初めてかもしれん」
「ちょっ、あんま見ないでもろて。はずいはずい」
「きれいなおでこしてるのにー」
ぱたぱたとしっかりと保湿をしてもらいながら、隣から来る視線を手で遮ろうとするものの、メイクさんから動かないでと言われれば大人しくするしかない。
「ほらー、えとさん大人しくしてー」
「うりが見なければいいだけじゃん!」
「こういうの見てるのって楽しくない?」
「いやまあ、わかるけどさあ。たぶんうりがやってたら見るもんわたし」
「わかるんじゃん」
喉乾いたと辺りを見渡すと水分を近くに用意しておくのを忘れたようで、うりにコンビニの袋からお茶を取ってきてもらうように指示をした。
メイクさんがストローの用意ありますよと渡してくれたのでありがたく使わせてもらう。
「えとさん、お肌白くなりましたね」
「ありがたいことに撮影のお話をもらうようになってから、気をつけるようになりました。事務所の方からの注意もあるんですけど、やっぱ自分で完成見てその度にもっと気をつけなくちゃーって思うんですよね」
「へぇ、女子は大変やね」
「いやいや、男子だってある程度は気をつけなきゃダメでしょ」
「オレ外出んもん」
「それはそうだな」
外出ないから全然日焼けしないといううりにそれもそれでどうなのかと思いつつ、えとは素直に羨ましかった。
「学校あると日中外出ないわけにはいかんからなあ」
「まあ、そうだよなあ」
「ヒロくんも日焼け止めしてるって言ってた」
「のあさんがそんな話してたわ」
「そうそう、男子がどこの何の日焼け止めがいいのかさっぱりわからんって。化粧水もなに? 乳液とクリームはどうしたらって話ね。まじでウケた」
「ねー、男の子だとわからない人の方が多いですよねまだまだ。からぴちにはメイク男子はいないんですか?」
「いないですねー」
「どぬちゃんが、髪長いのでヘアケア知ってるくらいですね」
課題や撮影などの日々の夜ふかしでできたクマを消してもらいながら、使っている物やテクニックなども聞いていく。
出来上がっていく顔に、さっそく帰りにでも買いに行きたいとえとは今回も感動した。
「え、それつけま?」
「撮影の光が強いのでナチュラルなんですけど、付けておくと目ヂカラが落ちないので」
撮影の光に負けないようにいつもより、はっきりくっきり強めにメイクしてもらった顔を見るたびにえとは気持ちが上がる。
「おぉ、どこがどうとか言えんけど、なんかすごい」
「わかる。わたしも自分の顔見て、肌きれい、目デッカいっていうのはわかるけど何でこうなったのかはわからない。すごい」
「語彙力ないなー」
「人のこと言えんだろうがっ」
うりとえとのやり取りを微笑ましく見守りながらメイクさんは、えとの髪にアイロンを通していく。
「えとさんの髪はほんと真っ直ぐですね」
「めっちゃすっとんとんなんで、ストレートヘア以外選択肢がむしろ無いみたいな。巻いてもすぐ取れちゃうんですよ」
「羨ましい人もいっぱいいるでしょうけど、たまには違うおしゃれもしてみたいときもありますよね」
「そうなんですよー」
えとは男子にはそういうのないのとうりに振る。
「えー、あーまあ、野郎だとワックスで盛ったりするから多少癖づくくらいのほうがスタイリング楽な気ぃするわ」
「やっぱ男子もそうなんだね」
「ゆあんくんもすっとんとん髪質だからおんなじようなこと言うとったわ」
「うりのそのゆるふわっぽいのは地毛?」
「そうだね」
「へー」
アイロンを通し終わった髪に、艶出しスプレーとアホ毛を抑えるバームを施してもらってヘアメイク完成だ。
「どお?」
「いい感じ。おれは?」
「いい感じ」
「ふふっ、ありがとうございます。撮影頑張ってくださいね」
うりとえとはメイクさんにお礼を言って、衣装に着替えるため迎えに来たスタイリストさんに着いて行く。うりはこのままメイクルームで、えとは別に用意してもらった更衣室で着替えることになった。
「お願いしまーす」
「お願いします」
うりは衣装そのまま、えとは衣装の上にブランケットを羽織ってスタジオに。
プロデューサーから今回のコンセプトを改めて聞いて雰囲気を掴んでいく。前回の初期衣装より、囚人服という衣装のおかげか掴むのは今回の方が容易に感じた。
うりの方から撮影を始めていくらしく、さっそくカメラの前に立たされる。緊張で顔が強張っているが次第に周りのスタッフさんからの「いいよー」「カッコいいね」「雰囲気出てる」などのポジティブな掛け声に世界にのめり込んでいくのがわかる。シャッターを切るたびに表情が出来上がっていくのが明確だった。
(集中したうりって強いんだよなー)
うりの次の撮影は緊張するものの、アイディアのようなものも貰えてこの順番で良かったかもとえとは思う。
「はーい、一旦うりさん終了でーす」
「ありがとうございました」
「休憩しててくださいね」
「ありがとうございます」
区切りのついたうりはまわりの反応から手応えを感じたようで安心したような顔で待機しているえとの方へとやってくる。
「お疲れ。カッコよかったよ」
「ははっ、マジで?よかったよかった」
えとが労いにこぶしを差し出すと、うりも応えてコツンと返した。
「緊張するー」
「それな。初めはやっぱすごい緊張するよな」
「ちょっと筋トレしよ」
「えっ?なぜ急に?」
まだ少し準備にかかりそうなのをみたえとは、するりと羽織っていたブランケットを椅子にかけた。
スタジオにいたメイクさんやスタッフ、うりまでもが小さくどよめく。
今回のえとの衣装は大胆なくらいのノースリーブで、つなぎは腰で結ばれ、タイトなトップスがえとのスレンダーな体のラインにピッタリと表していた。
「えー、えとさんめっちゃ絞った?」
「この衣装に決まったって聞いた時からできるだけ……」
「たしかにからぴちでもえとさん痩せたねって話題になってたけど、このためやったんや」
「や、なんかわたしの衣装、タイトだったりのあさんるなより露出多めなこと多いんよ。だから覚悟してたとはいえここまで出すとは思わんかったから厳しかったー」
「たしかに!えとさん多いかもー、なんか今回の企画とは違うけどお腹出してなかった? そのときもえとさんすごいねってうちらメイクの間でも話題になったんですよー」
「あぁ、あのときも結構頑張りました」
メイクさんやスタイリストさんはえとのボディメイクに興味津々のようで、どうやったの何したのとぽんぽん問いかけている。
「とりあえず、飲み物をお茶か水に限定して。ベジタブルファーストとサラダチキン、食べすぎないように炭水化物はグラム計っておにぎりで、汁物も絶対。お菓子は禁止。プランクやって。タクシーは本当に夜道を歩く時以外禁止で一駅分歩くっていうのを。あと浮腫まないように昨日の夜は怖くて塩分断ちみたいな感じですかね。とりあえず、とりあえず人様の前に出られるくらいにはって」
「すげぇ……。確かにしばらく絶対ウーバーしとらんかったもんな」
「撮影中とかにみんなで頼み始める流れまじで、しんどかった。うちのメンバーお菓子好きだし。だからあえてシェアハウス行かないようにしてたよね」
「それが理由?」
「そうそう」
「メンバーの中でもえとさん最近来んよねって話しとったのよ」
「だって行っちゃうと絶対食べちゃうもんー」
「えらーい!」
準備が整ったことを撮影スタッフさんたちに伝えられたえとはメイクさんに髪などを少しだけ整えてもらいカメラの前に立ったのだった。
「こんにちはー、いつもお世話になっておりますー」
「こんにちは、おじゃまします」
「おっ、じゃぱさん!のあさん!どうしたの!?」
えとソロの撮影終盤、じゃぱぱとのあが差し入れを持ってやってきた。
じゃぱぱはリーダーらしく、プロデューサーに挨拶をして差し入れを渡すと休憩しながらえとの見学をしていたうりの元へ。
「今日、事務所行く用事があって割と近いから見学にでも行こうかってのあさんと。今日うりとえとさんだよねってなったら、のあさんがぽと見たい!ぽと見たい!って聞かないから」
「ぽと見たい」
「まあ、のあさんはそうやろうね。すごいよ」
えとはフラッシュやシャッター音、スタッフさんたちの声でまだじゃぱぱたちが来たことに気がついていないようで、しっかりと被写体としての顔をしている。
「えっ、あれがえとさんの衣装? すげぇー」
「だからダイエット頑張ってたんですね。全然遊んでくれないから」
「みんなに会っちゃうとお菓子食べちゃうからって言ってたよ。私露出多い衣装だしって」
「あー、確かにえとさんって一番お姉さんっぽい衣装多いかも。のあさんの方がお姉さんなのにね」
「え、なんですかケンカ売ってます?じゃぱぱさん」
「撮影前も、軽く筋トレしとったわ」
「えぇ、すごっ」
撮影スタッフから、えとのソロ撮影が終了した声が上がる。そちらを見ればえとがぺこりぺこりとスタッフさんたちに頭を下げているのが見えた。
「あっつぅー……」
「照明って熱いよね。えとさんはロングヘアだから尚更かも。本当にお疲れ様でした。一旦ゆっくり休んでくださいね」
「ちょこちょこ直してくださってありがとうございました」
「いえいえ、お仕事ですから」
「いや、ホント汗やばい。衣装さんに申し訳ないわ」
手でパタパタとうちわのように自分を仰ぎながら戻ってくるえとは、じゃぱぱとのあを見つけると見事にびっくりした顔をする。
「えー、のあさん!? じゃっぴ!? どうしたのー」
「ぽとが見たかったから」
「えぇ?わざわざ?」
「今日、事務所行く用事あったから、こっから近いんよね」
「あぁー、それで?」
「差し入れ持ってきてくれたって」
「差し入れ! うれしい!」
「えとさんチョコ好きだから、食べやすいかなと思ってチョココロネ買ってきた。確かこの現場お弁当出るから、おやつにでもなればと思って」
「うーわ、めっちゃ食べたいー。早く撮影終わらんかな。なんて」
「少しくらい食べても良くない? 水分は取っててもなんも摘んどらんよね」
「持ってきたプチトマトは食べてる」
「えぇ!えとさんお菓子なにも食べてないんですか」
「お昼はふらつかない程度に食べようと思ってるけど。とにかくこの服タイトだからお腹出るのやだし、お味噌汁とおかずちょこっとと、ご飯少し食べようかなて。終われば食べられるし」
「すげぇな」
「今一番何食べたい?」
「んー、ラーメン。からのタピオカかスタバ」
「いこうね。えとさん一緒に行こうね」
のあは涙ぐましいえとの努力に手を取って伝える。
「あとでスタバギフト送るわ」
「オレも」
「マジ? やったぁー!」
ソロ撮影は問題なかったようで、改めてスタッフさんから昼休憩を伝えられる。じゃぱぱはプロデューサーさんにこのまま最後まで見学してもいいかを確認していた。そのままいても良いそうなので、じゃぱぱ、のあ、えと、うりでお昼を過ごすことに。
「お昼ある?」
「さっきコンビニで買ってきた。居残るつもりはなかったけどお昼くらいは一緒できるかなって」
「お弁当なんでしょうね」
うりとえとは衣装を汚さないよう、上着を羽織ってそれぞれ好きなケータリングを受け取った。
「痩せたとは思ってたけどえとさん何キロになったの?」
「おーい、どさくさに紛れて何聞いてんだよ」
「ちぇっ、引っ掛からなかったか」
「もう!乙女の最重要事項をそんな簡単にいうわけないでしょ!」
「まあまあ、んで実際何キロ痩せたの?」
「んーと、確か4キロちょい」
「うえっ、すげえな。そもそもえとさん痩せてる方だよね」
「そう、かな。まあ、太ってる方ではないかもだけど」
「わたしも、ぽとみたいにダイエット頑張ります!」
「ははっ、のあさん無理そうー」
「えとさん何したんだっけ? のあさんに教えてあげなよ」
によによと笑いながらいううりにえとは苦笑いしつつ、のあにダイエットメニューを伝えると次第に表情が固まっていく。
「お菓子、禁止……」
「のあさんは適度に糖分とった方がいいと思うよ。動画の準備で大変だし」
「そうだよ、のあさんだって痩せてるじゃんか」
「衣装もえとさんほど露出があるわけでもないんでしょ」
「くっ、甘やかさないでください!私も頑張りますから!」
「帰りのラーメンはどうすんの?のあさん」
「それはぽとのお疲れ様会なので食べますよ。それはそれこれはこれ」
のあさんらしい言葉に休憩室は笑いに包まれた。
最後にうりとえとのセット撮影が行われていく。
「あの二人って結構セット多いですよね」
「色味的に似てるからじゃない?」
「二人ともクールなイメージがあるから、囚人服コンセプトにぴったりですね」
「なんなら本当に脱獄してそうよな」
なんてじゃぱぱとのあが感想をこぼしながら。
「はいっ、うりさん、えとさんオールアップです!お疲れ様でした!」
「ありがとうございました」
「お疲れ様でした。ありがとうございます」
「あっちー」
「やっぱ照明すごい熱。うなじのとこ汗だくだよ」
「オレも頭のなか汗だく」
メイクさんの渡してくれたペーパーで汗を抑えながら控え室に帰って行く二人。
「うりさん、えとさんお疲れさまです」
「おつかれー!二人のオフショットもバッチリ取れたよ」
「ありがとう」
「ここでも仕事してんのじゃぱさん」
「もうYouTuberとしての宿命よ」
じゃぱぱとのあは外で待つことにして、うりとえとはそれぞれ帰り支度をする。
「あれ、えとさんその顔で帰んの」
「うりは落としたんだ」
「オレ、化粧とかしねえから早く落としたくて服脱いだらソッコーで落とさせてもらった」
「せっかくプロの人にやってもらったからわたしはこのまま帰る」
「つけまとかいいんか?」
「消耗品だからさすがに使い回ししないでしょ」
「そういうもんなん?」
うりとえとはスタッフさんに挨拶をしてスタジオを後にした。
目の前にはアッツアツの湯気滴るラーメン。
えとの希望で近くにあった家系ラーメン屋に寄った。
それぞれ食券を買ってカウンターに腰掛ける。
「ご希望は?」
「硬め、背脂多めで」
「ガッツリいくねー」
「今日ガッツリいかないでいつガッツリにいくのっていうやつでしょこれ」
「それな」
「ぽと、のあさんの煮卵半分あげますね」
「いいのー!ありがとうのあさん!」
そんなやりとりがあってえと念願のラーメンが目の前に置かれ、すぅっと湯気を吸い込む。
じゃぱぱはすかさずカメラを構えてラーメンとえとを撮る。
「えとさん、食べて食べて!」
「いただきまーす!」
えとがずるりと頬張ると、ギンッと目が見開かれた。じゃぱぱは吹き出しつつもシャッターを切るのは忘れない。
「めっちゃ目ぇキマっとるやん!」
「やばいやばいやばい!うますぎる!久々のラーメンやばい。もうホント、キマる」
「おいしいねおいしいねぇ、えとさん!」
「えー、やばい最高なんだけどまじで!」
キマるようにラーメンを食べるえとを見届けて、えと以外も食べ始める。
「ラーメンうめえ!」
「いやいや、4キロ痩せてからのラーメンが一番うめえから」
「それはそうなんよ」
「だって昨日ほぼ一日、水と野菜と胸肉しか食べてないから」
「えとさんストイック」
「だって怖いじゃーん」
なんて会話をしながら、最後にスープが少しだけ残った丼とえとの写真を取ってラーメン屋を出た。
「ぽとこの後どうする?疲れた?帰る?」
「いや、今日は元々シェアハウスに泊まって帰ろうかなって。課題も終わらせたし遊ぶだけ」
「だから昨日夜ふかししながら終わらせたの?」
「そんな夜ふかしじゃないよ」
「えとさん来るならオレもシェアハウス行こうかな」
「編集大丈夫なん?」
「まあ、なんとか30分だけなら」
「絶対無理なやつやん」
「ねぇー、来るなら来るって言っておいてよー」
「ごめーんじゃっぴー」
「とりあえず、スタバには寄らないとですね」
「いえい!スタバ!」
「まだ入るの?すげくね?」
「さすがに生クリームは外すわ」
「何頼むの?」
「今のやつなんだっけ。それが良さそうならそれで、そうじゃなきゃダークモカフラペチーノ」
「よしっ、今日はお兄さんが買ってあげよう」
「えっ!うりマジ!?やったぁー!」
「じゃあ、オレはスタバギフト送っとくね」
「のあさんは今度お出かけした時になんかご馳走します」
「やたー!頑張ってよかったあー!」
歩く習慣のできたえとに合わせてのんびりと喋りながらみんなでシェアハウスまで帰ってきた。
久しぶりのチョコ味にまたまたキマり気味のえとにみんなで笑って、この間の撮影の楽しかったシーンや編集で改めて面白かったこと、オフで面白かったことなど話題には尽きない。
「じゃあ、名残惜しいけど仕事夜に回しちゃったから帰るわ」
シェアハウスのマンションエントランスまできてそういうじゃぱぱに三人は驚いてしまう。てっきり、顔だけは出していくのだと思っていたからだ。
「えっ、じゃっぴ本当に帰るの?」
「さすがに中まで入っちゃうと帰れなさそうだからさ。えとさんとうりも頑張ってくれたことだし刺激もらって作業頑張るわ。ゆあんにはここまできてたこと言わないでね。さすがに心揺らぐから」
「そっかー、いつもお疲れ様。なんか手伝えることあれば良かったんだけど」
「いやいや、いつもフッ軽で撮影参加してくれてるのめっちゃ助かってるから。今日の実写撮影もめちゃくちゃ頑張ってくれたわけだし。えとさんこそゆっくり休んでね、うりも。今日はお疲れ様」
「ありがとうじゃぱさん。チョココロネまじ美味かったし、来てくれたのも励みになったわ」
「こっちこそ!じゃあ、おやすみー」
「おやすみじゃっぴ!」
「おやすみなさい、じゃぱぱさん」
「気をつけてねー」
三人はじゃぱぱが見えなくなるまで見送ってからエレベーターに乗り込んだ。
「ただいまー」
誰も配信していなさそうなのを確認して、ただいまをすると誰かの足音が聞こえてくる。
「おかえりー!あれっ、えとさんじゃん!久しぶりー」
「おぉっ、どぬちゃん。久しぶりー」
「えとさんおんの?めぇっちゃ久しぶりやない?ちょお待って、ゆあんくん呼んでくる」
「たっつんさん一人で喋って一人でどっか行っちゃいましたね」
「わたしそんな久しぶりだったかなあ。撮影とかはちょこちょこ参加してたはずなんだけど」
「中の人として会うのが久しぶりだからじゃない?」
「あー、まあ撮影決まってからだったからそれなりにか」
三人はとりあえず中に入って手洗いうがいを済ませてリビングに向かう。軽く荷物を整理してから、えとはのあの部屋に向かいお泊りの準備だ。
さすがに顔が疲れてきたので、化粧を落としたいとお風呂に向かう準備をしてのあの部屋に置かせてもらっている部屋着に着替えようと肌着姿にまでなると「ぽと!」と呼ばれて腰回りを掴まれた。
「な、なに?びっくりした」
「細い!細いよ!ご飯ちゃんと食べて」
「さっきガッツリ一緒にラーメン食べたよ?」
結構くすぐったいので、手を離してもらいTシャツとハーフパンツに着替えた。確かにハーフパンツのウエストに余裕がでたなあと体型の変化を噛み締める。
「のあさん、まずお風呂使ってもいいかな」
「じゃあ、みんなに声かけましょ」
「そうする」
男子がお風呂を使う分には声がけが徹底されているわけではないが、女子がお風呂に入る際には脱衣所も鍵がかけられるとはいえ事故らないように声をかけるのがシェアハウスのルールとなっている。
リビングまで戻ればみんないてちょうど良かった。
「えとさん!久しぶりじゃんっ、撮影どうだった?ってあれ?なんかすげぇ痩せてね?」
「え、細いゆあんくんから見てもそう見える?やたー!」
「ほんまや。なんか細なってるわ。すげえな」
「いやもうマジ衣装代わってくれ」
「ちょっと待ってなんか化粧もすごくね?つけま?つけてる?」
「つけてるつけてる。せっかくやってもらったからさすぐに落としちゃうのもったいないじゃん」
「うりさんは終わってすぐに落としたみたいですけど」
話題のうりを探すと見当たらないのでゆあんくんに確認すると、すでに寝落ちたようだ。現場入りも早かったし昨日から寝付けていなかったのだろう。
「あー、まあ男はな。しゃーないわそれは、普段せぇへんから変な感じするもん」
「皮膜感やべえよな。女子って良くあれしてられるよな」
「付け心地軽いとかしっかりめとかあるよね、のあさん」
「そうですね。普段使いのものは大体軽いのが多いですかね。撮影用は崩れないようしっかり付くものの場合が多いですけど」
「そうだから今日もうめっちゃ顔疲れてて、早よ顔洗いたい。だからお風呂使うね、よろしくー」
「えとさん湯船浸かったらあかんで!」
「ぽと今日はシャワーの方がいいと思う」
たっつんとのあに同じことを注意されて、えとはわかったとお風呂に向かった。
「ねーねーのあさん。えとさんとうりの撮影のやつとかないの?あったら見たい」
だいたいはじゃぱぱさんが撮ってたけどといいつつ、のあは自分のスマホから今日の撮影動画を探し始める。
パシャっと鳴るシャッター音、カメラマンからの指示とスタッフらの褒め言葉。撮影終盤の二人はすっかり表情を作ることの照れもなさそうに堂々と被写体としての仕事をこなしていく。
「うぉおお、二人ともかっちょえー!」
「どれどれオレも見ーたーいー!」
「オレにも見せろー!」
「ちょちょちょっ!今画面横向きにしますから一旦離れて」
のあは画面に集合してくるどぬくとゆあん、たっつんを押しのけると前のローテーブルにスマホをセットして改めて再生する。
「うり、カッコつけとんな」
「たっつんさんそれはいずれブーメランになりますよ」
「えー!オレこんな上手くできんのかなあっ」
「これ、最後の方?」
「そうそう。もうスタジオついた時にはうりさんは終わってて、ぽとももう終盤ってところだったから。二人セットの撮影は最後の最後だった」
じゃぱぱのなんなら本当に脱獄してそうというコメントに笑いが起こる。
「たっしかに、この二人のビジュアルイカついとこあるよな」
「オレンジの囚人服もハマってる」
「あー!あかんっ、こんなん見たら緊張してきてもうた」
「いやー、私もじゃぱぱさんもはしゃぎつつもやばーいってなっちゃいましたよ」
かちゃりとドアの音の方を見れば、お風呂から上がったえとがいた。集中する視線に驚きつつ首をかしげる。
「どしたん?って、何見てんのー!?はずいはずい」
「めっちゃ良かったやんか」
「そうだよー。かっちょえぇじゃん」
「えっ、そぉ?って」
「結局、まんざらでもないんじゃんか」
「いやさ、そこはホラ。プロの方々の仕事なわけじゃん。うちが否定しすぎるのも違うかなあーって」
実際の撮影の感じはどうだっただの。緊張した?ポーズ、表情の参考はどうしたの?などそれぞれ質問が飛び交う。
それはえとがうとうと船を漕いでしまうまで続いたのだった。
「えとさんおねむやな」
「ぽとがんばってたもん」
「のあさん起こして部屋行った方がいいんじゃない?深く寝ちゃうと運べなくなるよ」
「そうだよね。ぽとーぽとー」
「うーん、」
えとはのあに起こされ、足元おぼつかないままのあの部屋の布団に寝転び、ようやくえとの長い一日が終わったのだった。