様々な競技のアスリートが集まり「あるある話」を披露する賑やかなトーク番組の収録は予定時刻を大幅に超えてして終了し、駐車場へ降りるエレベーターに乗り込んだのは、22時をとうに過ぎた時間だった。
1時間以上待たせてるな…
早く行ってやれ、そう頭の隅で騒ぐ声には聞こえなかった振りをして、殊更ゆっくりとエレベーターのドアをくぐる。
無機質な灰色で統一された地下駐車場は、点在する蛍光灯の冷たい光の中で、より陰気に、より寂しい場所に見える。
華やかなテレビ局の舞台裏というか、見てはいけない所を覗いてしまったような、そわそわとした居心地の悪さを感じた。
コンクリートの四角い空間に反響する自分の靴音を聞きながら、壁沿いに停めた愛車に近寄ると、助手席の人物が弾かれたように顔を上げた。
「藍、」
車まではまだ数メートルの距離があり、ドアも閉まっている。
それでもどういうわけか俺の声を正確に拾ったらしい藍は、 心細そうな表情から一転して、安堵と喜びを大きな瞳に浮かべた。
「悪い、遅くなった。」
後部座席に荷物を放りながら謝罪の言葉を口にすれば、一瞬驚いたように固まったあと、顔を逸らして何やらごにょごにょと唇を尖らせた。
軽く文句のひとつでも言ってやろう、そう思っていたくせに、俺に素直に謝られただけでいっぺんに調子を狂わせてしまう。
そんなこいつが無性に可愛く思えて、俯いたままの頬に手を伸ばそうとしたその時、先刻まで同じ収録に参加していた他競技の選手が2人、談笑しながら車に近づいてきた。
車内の俺たちに気付くと目を丸くして、そしてにこやかに手を振ってくれる。
俺も笑顔で手を振り返しながら、空いているもう片方の手で、緊張気味に膝の上で拳を握っている藍の手の甲をそっと撫でた。
「祐希、さん、」
「外からは見えねぇって。」
反射的に引っ込めようとする手を捕まえ、指を絡ませて握り込む。爪で擽るように手の甲に浮いた骨の形をなぞれば、観念したのか遠慮がちに握り返してくる。
横目でちらりと表情を盗み見れば、遠ざかってゆく2人に気取られないよう張り付けたぎこちない笑みの中に、 バレたらどうしよう、でも離して欲しくない、恥ずかしい、でも嬉しい…と、様々な感情がごちゃ混ぜに浮かべている。
そしてそこへ微かに滲む、欲情の色。
ほんの少し触られただけでスイッチ入っちゃって。
俺の一挙手一投足に全身全霊で振り回される藍に僅かな憐れみさえ感じながら、まぁ俺も人のことは言えないよなと、体の奥で確実に燻り始めた熱を吐き出すべく、地上へと車を発進させた。
コメント
5件
続きも楽しみにしております。
え、好きです。 続きとかあるのでしょうか‥?
最高すぎます・・・🥲