「お〜っほっほっほ!これはこれはぁ〜、ご立派ですねぇ!」
軽快な声と共に、カラン、と高いヒールの音が響く。
砕けた金属の残骸の上を、何の躊躇もなく、スキップでもするように歩いてくる一人の少女。
胸元に小さな探偵バッジ。腰にはデータパッドと複数のツール。そして手にはおもちゃのようなコンパクトサイズの銃。
ウィスは眉ひとつ動かさず、その子供じみた侵入者を見つめた。
「誰だ。」
「自己紹介タイムいただけますか〜!?あっ、もうしてますね、勝手に!」
ぱっと敬礼のポーズをとる少女。笑顔がまぶしい。というかうざい。
「中層の〜〜っ、人気解決屋ことっ、一毬と申しますっ!」
「……お前が?」
「はいっ!そうですっ!ええ、よく言われます〜『君みたいなのがよくこんな汚れ仕事してるね?』って!でもでもでも〜、一毬の中では“好奇心”が正義ですからぁ!」
クソうるさい。陽キャ全開で語る一毬の周りには、まるで空気すら浮ついているようだった。
「で、あんた何しに来た。」
ウィスは地面に沈んだ魔物の残骸から足を抜きながら訊く。
「うーん、何しに来たかって言われると〜、うーん……暴れてる人を止めてくれって頼まれたので〜、一応ですけど〜、あなた、止めま〜す!」
「……なるほど。つまり、殺されたいんだな。」
「ひぃ〜、怖い発言いただきました〜!記録、記録!“ウィス氏、脅迫まがいの発言あり”っと♪」
カチカチと端末に打ち込む音。その余裕、あるいはイカれっぷりに、ウィスは小さく舌打ちした。
「で、どうやって俺を止めるつもりだ。玩具みたいな銃でか?」
「えぇ、これはハッタリですっ☆ 一毬ちゃん、殴るのも蹴るのもNG派なんでぇ〜、基本的には“誘導”と“錯乱”で〜す♪」
その瞬間。
パンッと音が鳴ったかと思うと、周囲の空間が歪む。ウィスの視界が、一瞬、ぐにゃりと揺れた。
「――!? 何をした」
「ふふん、脳に直接投げる型の視覚バグですよっ!脳って簡単にだまされるんですよね〜。殺傷力はゼロなのでセーフですっ♪」
視界の中で、まるで自分の腕が増殖し、敵が無限にいるような錯覚が襲ってくる。が――
「……くだらねぇ。」
ウィスは、己の太腿を殴りつける。パン、と肉の音。脳に衝撃が走り、錯覚がかき消えた。
「わお!?すっご〜〜い、今の解除できる人、滅多にいないんですよ!?つまり、ウィスさんって推しになれるってことですか!?」
「俺を止めに来たんじゃなかったのか。」
「はいっ☆ でもでもぉ、強い人はやっぱ尊いっていうか〜、観察する価値アリって思っちゃって〜!」
「なら、地面に寝てろ。」
言うが早いか、ウィスが動く。目にも留まらぬ速度で詰め寄り、拳を一毬の頬に叩き込む――直前で、
「にょわあああ!!」
一毬の姿が消える。瞬間移動か? いや、違う。
「なるほどですっ♪」
後ろだ。
ウィスが振り向くと、そこにはまたしてもニコニコ笑う一毬がいた。
「実はわたし、物理干渉用のダミーボディをばらまいてて〜、本体はちょっと離れたとこにいるんですよねっ!」
「……ガチの逃げ腰か。」
「う〜ん、逃げ腰っていうより、賢者の戦術って感じでお願いしますぅ!」
ウィスの拳が、目の前の“ダミー”を粉砕する。破片が散る。
「一発当たったら終わりだと自覚してるんだな。」
「はいっ!でも当たらなければどうということはないって、有名な人も言ってましたしぃ〜!」
その軽さ。そのうざさ。そして――。
ウィスの中で、久しぶりに「面倒なタイプ」という赤ランプが灯った。
コメント
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今回も神ってましたぁぁぁぁぁぁあ!!!!!! うはぁぁぁ!!!うちの子来たぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!✨✨ 相変わらずの陽キャっぷりでもう大満足以上ですわ!(?) ウィスたん流石にドン引きしてる...そりゃそうだよな() うちの子がウザくて可愛くてすみませんでした!! 次回もめっっっさ楽しみいいいいいいいぃ!!!!!!!!!