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____なんだろう? この心地よい感触は。えーっと、たしか、さっきまでサナエのところにいて……心臓を入れ替えられて戻ってきた……はずだよな?
俺は気になって、そーっと目を開けた。するとそこには。
「あっ、ナオ兄。起きた?」
白髪ロングとジト目と猫耳が特徴的な小柄な幼女シオリ(白髪ロングの獣人《ネコ》)がいた。あれ? でもどうしてシオリの顔が俺の目の前に……。
それに気づいた俺は、瞬時にシオリから離れようとした。しかし。
「ナオ兄、ごめんね。『|重力制御《グラビティコントロール》』を発動してるから、ナオ兄が動こうとすると、今よりも十倍の重力がかかっちゃう」
『|重力制御《グラビティコントロール》』は、シオリの固有魔法。
右手で触れたことがあるものを重くし、左手で触れたことがあるものを無重力にする魔法。
今の俺は、シオリの右手で頭を撫でられているからシオリが左手で俺に触れなければ、この魔法は本人の意思以外では、決して解除されない。
今の状況をようやく理解した俺は、シオリに問うた。
「えっと、その……何で『膝枕《ひざまくら》』をしているんだ?」
シオリは、キョトンとして。
「好きな人が寝てたら、こっそりキスとか膝枕(ひざまくら)して好感度を上げるんでしょう?」
「はぁ? いったい誰がそんなこと言ったんだ?」
「それは言えない」
「ええ……」
「……でも」
「でも?」
「ナオ兄が、知ってる人かもしれないよ」
「そ、そうなのか?」
「うん、いつか会えると思うよ」
「そ、そうか」
シオリは先程《さきほど》から、俺をいっこうに解放しようとしない。
それにしても、どうしてこうなったんだ? まあ、原因は多分、俺だろうが……。
というか、他のみんなはどこにいるんだ? よし、暇《ひま》つぶしに訊《き》いてみるか。
「なあ、シオリ。他のみんなはどこにいるんだ?」
「……さ、さぁ、どこだろうね?」
「えっ? 知らないのか?」
「し、知らないよ」
うーん……怪しいな。シオリが嘘《うそ》をつくことはないと思っていたが、意外にそういうとこあるんだな。
さて、どうやって真実を導き出そうかな……。俺がそれを考えようと思った直後、それは案外、すぐに思いついた。
よし、うまくいくか分からないけど試してみよう。
「なあ、シオリ」
「なあに? キスしてほしいの?」
「いや、そうじゃなくてだな」
「そうなんだ。残念……」
「そう落ち込むなよ。代わりと言ってはなんだが、これから俺がお前に質問していくから、正直に答えてくれないか?」
「いいよ。ナオ兄と遊ぶのは久しぶりだね。ん? 遊んだことあったっけ?」
「うーん、多分、今回が初めてだと思うぞ」
「そっか、えへへ。ナオ兄と遊べる」
いつも表情を変えずにしゃべるシオリから笑みがこぼれるとは思っていなかったが、それ以上は気にせずに質問を始めた。
「『こ○すば』、ついに映画化決定したな。知ってたか?」
「うん、知ってたよ。ナオ兄が好きそうなやつだからね」
「……じゃあ、次。『邪○真眼』って知ってるか?」
「うん、知ってるよ。ナオ兄が好きそうなやつだからね」
「……ねえ、魔法少女になってみない?」
「性転換しないのと、命を削らなくていいのと、殺し合いをしなくていいなら、なってあげてもいいよ。でも、赤目で体が白くて見た目はそこそこ可愛い小動物《あくま》から言われたら絶対に断る」
「……矢○晶子さん、二十六年と三ヶ月間ありがとう」
「……ぐすん、いつ聞いてもやっぱり悲しいね」
「あー、オラ毎日楽しいって、最後に言ってたな」
「……うん」
「……シオリ、みんなはどこにいるんだ?」
「ぐすん、私の固有魔法で、動けなくしてるよ。あっ」
計画通り! 少し話題をそらせば、急に本題に入った時に、ついつい本当のことを言ってしまう。
俺の高校時代に、ちょっとしたゲームとして流行《はや》っていたものが、ここで役に立つとはな。
まあ、少し大人気《おとなげ》なかった……かな?
「シオリ。最初、お前はみんなの居場所は知らないって言ったよな?」
「…………」
「シオリ、どうして嘘《うそ》なんてついたんだ?」
「………………」
「シオリ、いい加減に……」
「ごめん……なさい」
シオリの両目から、いつのまにか涙が溢れていた。ポタポタと俺の顔に落ちたそれは少し熱を持っていた。
「シオリ。俺は自分のしたことを理解し、反省し、改善し、次からはしないように気をつけるなら怒ったり、暴力でお前を支配したりしないぞ?」
「……ごめんなさい! ナオ兄を独占したいって思ったら、私の中の黒くて気持ち悪いものがどんどん溢れ出してきて……それで気がついたら私、みんなにひどいことしてて、怖くて言えなかった。ナオ兄に嫌《きら》われるかもしれないから……。正直に言おうとしたけど、私の中のもう一つの人格がそれを邪魔《じゃま》して、私もそれに便乗して、それから……」
シオリは獣人型モンスターチルドレン|製造番号(ナンバー) 三。獣人型は全員多重人格らしいが、一般的には二重人格である。
「もういいよ、シオリ。お前は昔の俺に似てるんだってことが分かったから」
「どういう……こと?」
「あー、その……要するに、あんまり気にしない方が身のためだってことだ」
「そう……なのかな?」
「ああ、そうだ。じゃないと人の心なんて簡単に壊れちまう」
「私、人じゃ……ないよ?」
「いいんだよ、そういう細かいことは。それより、みんなはどこにいるんだ?」
「……もう少し」
「えっ? なんだって?」
「もう少し、ナオ兄の顔を見ていたいな……なんて」
「……こんな顔でよければ、いくらでも見てていいぞ」
「本当? 嘘《うそ》じゃない? 夢でもない?」
「疑いすぎだぞ、シオリ。というか、俺はお前が固有魔法を発動している間は動けないんだぞ? 夢だと思うなら、自分もしくは俺のほっぺたをつねってみろ」
「じゃあ、ナオ兄のほっぺたにする。ちょっと痛いけど、我慢してね?」
「えっ? あー、まあ、死なない程度にしてくれよ」
「分かった。じゃあ、行くよ」
「ああ」
今、シオリの両手が俺の両頬《りょうほほ》に移動している。
目と鼻の先くらいの距離しかないのに、なぜかスローモーションに見えた。
ん? 待てよ? 今も固有魔法を発動しているとしたら、両手で触《さわ》られたら、どうなるんだ?
そんな不安があったが、その結論が出る前にシオリの両手が俺の両頬《りょうほほ》に到達した。
「ギュー」
シオリがそう言った直後、シオリの手の感触《かんしょく》が直接、俺の肌《はだ》に伝わってきた。
その後、神経を通り、その信号が脳に送られると、その信号が逆流して、全身の神経に伝達された。
俺はその数秒の間で、自分の異変に気づいた。
「……シオリ……もう、やめてくれ……体が……おかしいんだ」
「どうしたの? ナオ兄、顔が真っ赤だよ?」
「いいから……もう、やめてくれ」
シオリは不思議に思いながらも、両手を俺の両頬《りょうほほ》から離した。
「そんなに痛かったの? 大丈夫?」
「いや、もう大丈夫……だから、安心……しろ」
「顔がまだ赤いよ? 呼吸も荒《あら》いし、心臓の鼓動もどんどん速くなってるよ。本当に大丈夫?」
「あ、ああ、大丈夫だ。心配……するな」
「……熱でもあるの?」
シオリが、俺の額《ひたい》に手を置いてきたため、俺は必死で声が出るのを我慢《がまん》したが、ついこんなことを言ってしまった。
「……や、やめて……ください!」
俺はすごく恥ずかしい顔をしていたと思う。
体が火照《ほて》っているし、呼吸も苦しい。
だが、何よりも、いつものシオリのジト目がジト目ではなく、ひどく驚《おどろ》いて見えたのが動かぬ証拠《しょうこ》だった。
シオリは、ぱっと自分の手を俺の額《ひたい》から退《ど》けた。
どうやは俺の異変に気づいてしまったようだ。
ああ、ついにバレてしまったか。何がバレたのかって? それは……。
「ナオ兄、も、もしかして」
「……はぁ……はぁ……はぁ」
「今、ものすごく体が敏感《びんかん》に……なってるの?」
「……少し寝《ね》る。だから……このことは……みんなには言う……なよ?」
「う、うん。バステト様に誓《ちか》うよ」
「そうか。あっ、あと……お前がみんなにかけている固有魔法を解除……してくれ」
「うん、分かった。分かったから、もうしゃべらないで」
「すまない、シオリ。もう一つだけ……頼めるか?」
「うん、いいよ。言ってみて」
「俺の体を……名取の剣術で……一時的に停止させてくれ。それから、俺を布団《ふとん》まで……運んでくれないか?」
名取《なとり》 一樹《いつき》。名取式剣術の使い手でナオトの高校時代の同級生。両目は前髪で見えず、人見知りだが武器のことになるとよく話す。今はナオトたちと共に旅をしている。
「ナオ兄の願いは私が責任を持って叶《かな》えるから、もう寝ていいよ」
「す、すまない。それじゃあ、おや……すみ」
「うん、おやすみなさい。ナオ兄」
俺はゆっくりと目を閉じると、そのまますぐに眠(ねむ)ってしまった。
こうなった原因はおそらく、鎖《くさり》の力を一日に二回も、しかもかなり長い時間使ってしまったからであろう。
まったく、こんな弱点があるなんてな。
俺が眠(ねむ)った後(あと)、シオリは最初に、名取にかけていた固有魔法を解いて、事情を説明した。
名取は首を縦《たて》に振《ふ》ると、俺の言った通りにしたそうだ。
その後《あと》のことは、俺がさっき言った内容だから説明は省《はぶ》く。
今夜はゆっくり、寝《ね》ると……しよう。
*
同時刻。モンスターチルドレン育成所では。
この異世界でも元の世界でも最強と言われていて、なおかつモンスターチルドレンの生みの親でもある存在が育成所にいるモンスターチルドレンの授業から戻り、自室の白いソファに座ると、好きな人のことを考え始めました。
『|純潔の救世主《クリアセイバー》』こと、|ア《・》|イ《・》|先《・》|生《・》は白くて丸いクッションを抱《かか》えながら、後悔《こうかい》していました。注:彼女の好きな人とはナオトのことである。
やっぱりここに連れて来ればよかったかしら? うーん、でも今はその時じゃないのよね。
はぁ、好きな人と一緒になれないのは、いくつになっても慣れないわね。
私はこんなにも彼のことを愛しているのに!
でも、私と彼はあくまで元生徒と元教師。
私がこの世界での役目を終えない限り、付き合うこともできない。
あの湖で再会した時に私の力で記憶を少し操作して、ここに連れて来ればよかったかしら?
うーん、でもそれだと私が無理やり彼を自分のものにしようとしているから、彼の母親が黙っていないわよね。
これ以上考えると、朝になってしまうわね。
よし、今日はもう寝《ね》ましょう。
彼女は白いクッションを白いソファに置いて、白いベッドの方に移動し、白いタオルケットの中に潜《もぐ》り込《こ》むと、ヒョコッと顔を出し、白い枕《まくら》に頭を預けました。
この育成所の中では彼女の分身が今も働いています。
しかし、本体の疲労《ひろう》が一定水準に達すると全ての分身が消滅してしまいます。
そのため、オリジナルのアイ先生は睡眠《すいみん》をとらなければなりません。
寝《ね》ている間に襲《おそ》われないのかって? それは大丈夫。
この部屋の存在は、オリジナルの彼女しか知らないですし、万が一、ここに侵入できたとしても、その時点でそれは魂《たましい》の欠片《かけら》も残らず、消滅《しょうめつ》してしまいますからね。
この空間で生存できるのは人間でも、化け物でもなく、宇宙ができる前に誕生し、あらゆる次元、世界において、あらゆる神々から最も恐れられている存在だけ。
そして、その条件を満たしているのは彼女ただ一人。よって、この空間に入れたとしても決して出ることはできないのです。
そんなこんなで彼女は今日も眠《ねむ》ります。明日もモンスターチルドレンたちの授業や、やらなければならないことがありますので。
あっ、ちなみに私は『|純潔の救世主の部屋《パーフェクト・ルーム》』といいます。
ついでに言っておくと、この空間そのものです。名前が長いので【パール】とお呼びください。
では、私もそろそろ寝《ね》ますので、くれぐれも起こさないようにしてくださいね?