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モンスター暦、四月十一日の夜は終わり、今は四月の十四日の朝八時。俺はその時までずっと眠《ねむ》っていたそうです。(布団《ふとん》で)
「……ん? もう朝か。そろそろ起きるか……って、なんか息苦しいな」
俺がゆっくりと目を開けると案の定、俺の家族(仮)である約三名が俺の体を布団《ふとん》もしくは抱き枕《まくら》代《が》わりにしていた。
疲《つか》れていたからなのか、単に俺の近くで寝《ね》るのが好きなのかは分からなかったが、とりあえず起こすことにした。
「おーい、みんな起きろー、朝だぞー」
『…………』
ダメだ、全然起きる気配がしない。
まあ、知ってたけど……。
さて、どうやって起こそうかな……。
早くしないと、ここから一歩も動けずに一日が終わってしまう。
そのため、俺は体に力を入れて起き上がろうとした。しかし、そう、うまくはいかなかった。
「ナ、ナオトさん、行かないで……ください」
「ナオ兄、どこにも行かないで……」
『……はむっ』
俺の両サイドにいるマナミ(茶髪ショートの獣人《ネコ》)とシオリ(白髪ロングの獣人《ネコ》)がそれぞれ俺の耳を甘噛みしてきたからだ。
「……やばいな、これは」
説明しよう。俺は左耳が一番、敏感《びんかん》なのである。
そのため、俺の左側にいるシオリの甘噛《あまが》みは俺にとっては効果抜群なのである。
「……くっ! おーい、二人とも。もうそのへんでやめて! ほ、ほしいなー」
『あむっ……はむっ……ぺろっ』
どうやら二人には、やめる気がないらしい。
はぁ……いったいどうすればいいのかな。
俺がそう思っていると、今度は俺の顔にへばりついているチエミ(体長十五センチほどの妖精)が俺の額《ひたい》を舐《な》め始めた。
今日は幼女に舐《な》められる日だな。
というか、誰か早く助けてください。そんな俺に救いの手を差し伸べたのは。
「やぁ、ご主人。ようやく起きたみたいだね。僕が助けてあげるよ」
突如(とつじょ)として現《あらわ》れた小柄《こがら》な体型の持ち主は、水色の瞳《ひとみ》と黒髪ベリーショートが特徴的で服装は白いTシャツと水色のショートパンツであった。
そう、ミサキ(巨大な亀型モンスターの本体)である。
彼女は両手をポケットに入れて、こちらにやってくると、ニコニコと笑いながら、こう言った。
「その代わり、ご主人は僕に何かを差し出さないといけないけどね」
「わ、分かった! 分かったから! みんなをどうにかしてくれ!」
「じゃあ、ご主人の血液『一年分』で手を打とう」
「俺、死んじゃうよ! 確実に死んじゃうよ!」
「うーん、なら、ご主人の肉で手を打とう」
「た、食べないでくださーい!!」
「た、食べないよ!」
「いや、というか、とりあえず助けてくれよ!」
「……はぁ……仕方ないね。じゃあ、ちょっと待っててね」
「い、いったい何をするつもりなんだ?」
「え? 全員を無言の腹パンで起こそうと思ったんだけど、ダメかな?」
「ダメだ! 他のにしてくれ!」
「えー、一番手っ取り早いのにー」
「そんなこと言うなよ。えーっと、とりあえず、マナミとシオリをどうにかしてくれ。チエミはどうにかなるから」
「そうだね。じゃあ、ネコジャラシを持ってくるよ」
「おう……って、えっ? この世界にもあるのか?」
「あるよ、ちょっとヤバイものだけど……」
「え? ヤバイのか? それなら、普通に移動させてくれよ」
「睡眠中の獣人型モンスターチルドレンを無理やり移動させようとすると、この世界で一番|硬《かた》い金属を粘土《ねんど》みたいにできるっていう噂《うわさ》があるけど、いいの?」
「ネコジャラシを持ってきてください。お願いします」
「分かった。じゃあ、少し待っててね」
そう言うと、ミサキ(巨大な亀型モンスターの本体)はスタスタとどこかに行ってしまった。ちょっとヤバイ、ネコジャラシってどんなのだろうな。
「ただいまー、持ってきたよ」
「おっ、持ってきたか……って、それは本当にネコジャラシなのか?」
「ネコジャラショクシュ。ネコジャラシと触手《しょくしゅ》が合体というか、ネコジャラシが食虫植物に進化したら、こうなったらしいよ」
「そうなのか? というか、ウネウネ動いてるんですけど」
「くすぐるだけだから、大丈夫……なはずだよ」
「おい。今、はずって言ったよな? 本当に大丈夫なのか?」
ミサキは、そっぽを向いた。
「バッジもしくはスタンプの数が足りなくて、言うことを聞かないポ〇モンか、お前は」
「試しにやってみようよ、ね?」
「そんなものをこっちに近づけるんじゃない! お、おい、二人とも! 起きろ! 早く起きないと、十八禁認定されちゃうから! 早く、起きてくれええええええええええええ!!」
その時、二人がようやく目を覚ました。
「うーん……朝ですか? まだ眠(ねむ)いですー」
「ナオ兄……おはよう。今日もいい天気……だね」
目を擦《こす》ったり、背伸びをしたりしている姿は、まるで本物の猫《ねこ》のようだった。
女の子座りをしている二人を見ながら、俺はムクリと起き上がると、チエミ(妖精)を俺の額《ひたい》から枕(まくら)の上に移動させた。
「はぁ、やっと解放されたよ。ミサキ、起こしに来てくれたのは感謝するけど、それはもう持ってくるな。色々とヤバくなるから」
「こちょ、こちょ、こちょ」
「ファッ!! ちょっ! おま!」
いつ移動したのかは不明だが、ミサキ(巨大な亀型モンスターの本体)は、ナオトの目の前にいた。
彼女は、ニコニコ笑いながら、右手で彼の左耳をくすぐっていた。
「いやー、ご主人の左耳は普通に触《さわ》っても、反応するのかなーって思ってさ」
「やめろ! いい加減にしないと! しないと……」
「えへへ、おもしろい反応するねー。これはもうやめられないねー」
「や、やめろよ! ミサキ!」
「……じゃあ、僕のお願いを聞いてくれる?」
「わ、分かった! 分かったから! もう、やめろ!」
「じゃあ……僕を食べて」
「えっ? 何だって?」
「ご主人、聞こえてないフリをしないでよー。ほら、早く口を開けて。もっと激しくしてもいいなら、話は別だけどね」
「……わ、分かった。分かったから。いい加減にしろ」
「おっと、ごめんね。反応がおもしろいから、つい」
ミサキは俺の左耳から、やっと手を退《ど》けてくれた。復活したばっかりなのに、こんなことをされるとはな。いや、それよりも、今は。
「今、息を整えるから少し待ってろよ」
俺は息を整えてから、口を開けようと思ったが。
「……もう我慢できない。無理やり入れるよ」
「え? ちょっ! 待っ!」
ミサキ(巨大な亀型モンスターの本体)は、俺の口の中に右手を入れてきた。
喉《のど》の奥の方までミサキの指が到達しているため、息苦しい。
そんな息苦しさを感じる中、いつ指を切ったのか不明だが、ミサキの血液が俺の中に、流れ込んできた。それと同時に、ミサキが俺の首筋に噛《か》みついて血を吸い始めたため、体の力が抜けていった。
「……んー! んー!」
「あっ、ごめんね」
俺がそんな声を出すと、ミサキはやっと我に返り、右手を俺の口から出すと、俺から少し離れた。
数秒間、ミサキに体を弄《もてあそ》ばれたことは一生忘れないだろう。ボクっ娘(こ)、怖い。
「はぁ……はぁ……お、お前、朝から、なに……やってんだよ」
「何って、僕はただ、部分契約をしただけだよ?」
「ぶ、部分契約?」
「うん、そうだよ。僕とご主人はまだ仮契約だったから、今のままだとこれから先、困ったことがあったら対処しにくいのさ」
「もう少し分かるように言ってくれないか? 今、起きたばっかりだから頭が回らなくてさ」
「うーん、そうだね。まあ、要するに僕とご主人の関係を進展させて、ご主人が部分的に僕の力を使えるようにしたってことだよ」
「お前の力を? それはいったい、どういうものなんだ?」
「まあ、あれだよ。僕の力の一部を身に纏(まと)って戦えるようになったってことだよ」
「……えっ? それって、もしかして」
「僕自身が、ご主人を守れるようになったってことだよ」
「……えーっと、つまり、俺は|聖衣《ク〇ス》みたいな物を纏《まと》って戦えるようになったってことか?」
「うん、そうだよ」
「すごいな! おい! どうしてもっと早くしてくれなかったんだよ!」
俺は立ち上がってガッツポーズをした後《あと》、ミサキ(巨大な亀型モンスターの本体)をギュッと抱きしめると、彼女の頭を撫《な》で始めた。
「ありがとな! ミサキ! これからもよろしく頼むぞ!」
ミサキは、俺を抱きしめ返しながら。
「うん、これからもよろしくね。ご主人」
どこか嬉しそうに、俺にそう言った。
「ナオ兄、ごはんだよー……って、お楽しみだったかな?」
いつのまにか、ピンク色のエプロンを着たシオリ(白髪ロングの獣人《ネコ》)が、こちらを見ていたため、俺たちはパッと離れた。
「い、いや、別になんでもないぞ? なぁ? ミサキ」
「ご、ご主人の言う通りだよ。僕はただ、ご主人と話をしていただけだよ」
俺たちが苦笑《くしょう》していると、シオリが。
「抱きしめ合って話してたって正直に言えない人たちには、朝ごはんを食べさせるわけにはいかない」
結局、俺たちは本当のことを言わざるを得なくなってしまった。
やれやれシオリには敵《かな》わないな。
俺たちはシオリに真実を話すと朝ごはんを食べ始めた。