千春、ユラ、サフィーナはマルグリット王妃の部屋に向かっていた。
「チハル今日は泊まらないんですよね?」
「うん、明日学校だし戻るよー。」
「ユラちゃんはどうします?」
「扉の有る部屋の寝室でいんじゃないかな?」
「そうですね、もしチハルの部屋でお休みするようでしたら私が付きますね。」
「うんお願い、もしって他にある?」
「えぇ、チハルお泊りの時は何処でお休みになってます?」
「・・・あ、そう言う事か。」
「はい、そう言う事になるのではないかと。」
千春はサフィーナが言わんとしている事が分かった、マルグリット王妃に捕まるのではないかと、マルグリットの部屋の前に到着すると侍女が扉を開ける。
「お母様ただいま戻りました。」
「いらっしゃい、あらユラも来たのね、こっちにいらっしゃいな。」
マルグリットはにこやかにユラを手招きする。
「おかあさま、こんばんわ。」
「んー!こんばんわ!」
マルグリットはユラに抱き付く。
「お母様、ユラちゃんが窒息死しますよ。」
マルグリットの胸に埋まりムグムグともがいているユラを見ながらマルグリットに声をかける。
「あら、ごめんなさいね、チハルは今日お泊りしないのよね?」
「はい、明日から学校なので帰ります。」
「ユラは?」
「・・・・私の部屋で休む予定です。」
「それじゃ私が預かるわね、ユラ、今日は私と寝ましょうね。」
「はい、おねがいします。」
千春とサフィーナはやっぱり、と言う顔で2人を見ている、マルグリットもユラも笑顔だ、そして少し談話しながら軽くお茶を飲み時間を潰す。
「王妃殿下食事の準備が整いました。」
「あら、楽しい時間は直ぐ過ぎちゃうわね、それじゃぁ行きましょうか。」
「「はい。」」
千春とユラは返事をしてマルグリットに付いていった、王家の食卓に着くと男性陣は全員そろっていた。
「おぉ、その子がチハルの妹になったユラか、可愛い狐子だ、ルクレツィアを思い出すな。」
「えぇ、あの子は狼の獣人でしたけどね。」
国王陛下とマルグリットは冒険者時代の仲間、狼獣人の娘を思い出していた。
「エンハルト、ライリー、フィンレー、この子がチハルの妹として家族になる、要はお前たちの妹だ、仲良くしろよ。」
「「はい、お父様。」」
ライリーもフィンレーも返事をする。
「ユラ、よろしくな。」
エンハルトはユラに優しく挨拶を交わす。
「ユラです、みなさまよろしくおねがいいたします。」
ユラはサフィーナに教えてもらった挨拶をする、王族に会った時、貴族との挨拶を練習していた。
「お父様、今日は私の国の食事を準備させて頂きました、食材の方はオークを使っていますが、パンの代わりにお米を出させて頂きますがよろしいですか?」
そう言って横に居たサフィーナがアイテムボックスからワゴンの上に炊飯ジャーを出す。
「配膳させて頂きます。」
サフィーナは深めの皿にご飯をよそう。
「これが米だと?昔食べた米はもっと灰色で艶なんぞ無かったが。」
「えぇ、南の方では主食でしたから何度も食べましたがこんなにつやつやしてませんでしたわね。」
陛下とマルグリットは冒険者時代に南の方で食べた事があったらしい。
「これは米を真っ白になるまで精米して糠を落とした『白米』と言われるお米です。」
真っ白なご飯の説明をし千春も配膳を手伝う。
「これが米か、前見た米よりも丸いな。」
「こっちの米は長いの?」
「もう少し長細い感じだと思ったが気のせいかも知れない。」
「いえ、多分中粒種だと思います、このお米は短粒種なので食感も違いますけど炊き方であまり変わらないくらいに炊けますよ。」
千春はそう説明し皆の前にご飯を置いていく。
「おかずの方はオークを使わせてもらいました、猪肉では出ない柔らかさとジューシーさがありましたので。」
そう説明すると給仕が配膳していく。
「ふむ、このスープも向こうの物か?」
陛下が言うスープは味噌汁だ、味噌の量がどう考えても食堂で出せる量では無い為こっそりとシャリーちゃんに作り方を教え材料を渡しておいたのだ。
「はい、味噌汁と言います、こちらで味噌をまだ見つけてないので向こうから持ってきました、ダシや入ってる具も向こうの物です。」
野菜も入れようかと思ったがシンプルにワカメの味噌汁だけにした。
「さて、それでは新しい家族と共に新しい料理を頂こうか。」
そして食事は始まった、千春とユラは「いただきます」と2人で言いながら目が合いクスっと笑い合う。
「美味いな、オークは久しぶりに食べるがこんなに美味い物だったか?」
「いえ、私達が食べていたのは精々塩を振って焼いた物でしたからね。」
「子供たちは魔物の肉は初めてだったか?」
「私は市井で良く食べてますから大丈夫ですが。」
心配する陛下とマルグリット、エンハルトは街で良く食べているから忌避感は無かった。
「はい、お父様初めて食べました、とても柔らかくて美味しいです。」
「お父様お母様おいしいです!」
ライリーもフィンレーも大丈夫のようだ。
「チハルの料理は本当に美味いな、この料理も市井の方に伝えるのか?」
「そこはお任せしてますので多分伝わると思います、私の料理に関しては制限しなくても大丈夫ですよ。」
「そうなのか?メグ。」
「えぇ、ルノアーには説明しています、パンは商業ギルドに一任してますから、それ以外の料理に関しては何も言わない限り教えて良いと伝えましたわ。」
「そうか、食の文化が進むのは良い事だ、今まで塩ですら高価な調味料だったからな、これからは調味料も国で生産を考えて行こう、作る者に補助でも掛けていくか。」
「それが宜しいと思いますわ。」
陛下は食事を進めながらマルグリットと話を進めていた、そして皆楽しく食事を終わらせた。
「「ごちそうさまでした。」」
千春とユラは食後の挨拶をしニッコリと笑い合う。
「それはチハルの国の挨拶か?」
「はい、食事をする前に『いただきます』、終われば『ごちそうさま』が私の国での食事の挨拶になります。」
「ふむ、教会では食事前に祈りをするが、何か意味があるのか?」
「そうですね、『いただきます』は動物や植物、食事を作る人達への感謝を伝える言葉です、『ごちそうさま』はソレに対してごちそうになりました、有難う御座いますと感謝する言葉です。」
「ほう、神に祈りを捧げる教会とはまた違う考え方なのだな。」
「そうですね、『感謝』と言う部分では繋がる所は有るとも言えますが、私の国では食への関心が強い所が有るんです、だからこそと言う部分が強いですね。」
「だから食事もこんなに美味い物が多いのだな、広めたい文化だな。」
国王陛下がそう言うと王族はそろって頷く。
「さぁ、それではチハル、ユラ、そろそろ行きましょうか。」
「はい。」
「はい。」
千春はいつもの流れなので普通に返事をしたが、ユラは「?」と思いつつ釣られて返事をした、そして3人は部屋を出てマルグリットの部屋に戻る。
「あー今日も美味しかったわー、チハルが来て一番改善されたのは食事よね。」
「そう言ってもらえると嬉しいです、でもルノアーさんや料理人さん達の腕は確かですね、教えたら直ぐに覚えて、更に新しい料理を作ってました、料理に関しての下地が文化として出来て無かったんでしょうね。」
「手厳しい指摘ねぇ、色々と余裕が無かったんでしょうね、生きていくのに精一杯だからかしら。」
「そうかも知れませんね。」
2人はうんうんと頷きながら話した。
「湯浴みの準備が出来ました。」
侍女が呼びに来た、食事が終わり毎回おおよそ30分以上経ってから呼びに来る、千春は食後直ぐのお風呂は体に良くないと聞いていたが自然とそれをしている王族に感心していた。
「さぁ、行きましょうか。」
3人はマルグリットに付いていき浴室に向かう。
「サフィー付いてきて。」
「はい、チハル様。」
浴室に着きサフィーナが千春とユラの着替えとお風呂セットを出す。
「ありがとう、あ!お母様ユラの浴槽は?」
「勿論準備してるわよ?」
マルグリットは何を当たり前の事を?と言う様に千春を見る。
「流石ですお母様・・・」
そしていつもの如く千春とユラは侍女達に洗われる、それが終わると大浴槽の方へ向かう。
「はぁぁぁぁぁ、このお風呂はいつ入っても気持ちいいですねぇ。」
「フフッ、お泊り無くても毎日入ってるものね。」
「・・・・・ふぁぁ。」
千春もユラも満足そうに湯船に浸かっていた。
「チハルおねえちゃん、おかあさま、ありがとうございます。」
「あら、どうしたの?お礼なんて要らないわよ?」
急にお礼を言うユラに微笑みながらマルグリットは答える。
「たすけてもらって、目もなおしてもらって、おいしいごはんもらって、こんなおふろにはいって。」
「気にしないで良いわよ、ねぇチハル?」
「うん、ユラちゃんは私が面倒を見るって決めたんだから。」
「でも、ほかの子たちは・・・」
「そうね、比べればユラの待遇は良すぎるでしょうね。」
マルグリットはユラを見ながらそう言うと2人を両脇に寄せる。
「幸せは平等では無いわ、そして不幸もね、そしてその差し出す手と差し出された手を掴むのは自分なの、たまたま、運、運命の糸、生きていると色々有るわ、チハルとユラが繋がったように他の子達もこれから色々な手が出される、それを掴めるかどうかは自分次第なのよ。」
そう言って2人の頭を優しく撫でる。
「ユラ、あなたが今まで辛かった事が在ったからこそチハルと会えた、だから私の娘になった、ただそれだけ、その子達と比べる事は無いわ、あなたの村が襲われなければ会う事も無かったのだから。」
「はい。」
「人間万事塞翁が馬。」
千春はふと学校の先生が言った言葉を思い出した。
「それは向こうの諺かしら?」
「はい、お母様が今言った事と同じような事を短く伝えた言葉です。」
「そう、同じ様な事を考える人がそちらにも居たのね。」
「良い事が決して最後まで良いとは限らない、悪い事が決して最後まで悪い結果とは限らない、戒めや未来への希望を詰め込んだ言葉です。」
ユラの手を取り千春は言葉を繋ぐ。
「一緒に幸せになろうね。」
「うん、チハルおねえちゃん、おかあさま!」
ユラは2人に抱き付く、溢れる涙は暖かい涙だった。
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