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新たな朝、そして新たな未来
静かな朝日が、ロンドンの街並みを優しく照らしていた。まだ薄暗い空に、最初の光が差し込むと、その光が街のビル群に反射し、金色に輝いている。澪は、窓から差し込むその光を浴びながら、デスクの上に広げたスケッチブックを見つめていた。
そこには、彼女が新たにデザインしたドレスの下絵が、細かな線で描かれている。色を塗る前のその線画だけでも、澪が描き出そうとしている世界の美しさを感じ取ることができる。
(……今度は、どんな世界を創ろう?)
ほんの数年前には、こんな日が来るなんて夢にも思っていなかった。あの日々の苦しみ、孤独、そして失ったものに埋もれそうになっていた自分を思い返す。その時は、自分が未来を切り開くことなんて到底できないと思っていた。貧しさに追われ、学びたくても学べなかった日々。家族との関係も壊れ、学校でのいじめに苦しんだ。その頃は毎日が戦いであり、希望を持つことすら難しかった。
しかし、それでも澪は歩みを止めなかった。何度も挫けそうになりながらも、彼女はその度に立ち上がり、前を向いて進み続けた。そして今、彼女はこうして成功の兆しを感じることができる。
彼女は「Mio」の正式なデザイナーとして活動を始め、ブランドは急速に名を知られるようになり、次第に世界中の舞台で注目を集めるようになった。数ヶ月後には、新作コレクションをパリ・コレクションに出展することも決まっている。それは、彼女にとって大きな一歩であり、また一つの夢を実現するチャンスだ。
(もう誰にも負けない)
心の中で、澪は強く誓った。何があっても、もう二度と夢を手放さない。すべての痛みを乗り越え、今の自分を誇りに思いながら。これからは自分の手で、次々と新しい世界を作り上げていくのだ。
その時、背後から温かな腕がそっと彼女を包み込んだ。その手の温もりに驚きつつも、澪は微笑んだ。
「……また朝まで作業してたのか?」
その優しい声に、澪は振り返ると、そこには御堂怜司が立っていた。彼は、澪の肩に顎をのせ、温かく微笑んだ。その顔には、いつも通りの優しさが溢れている。
「怜司さん……おはようございます」
「おはよう。まったく、どれだけ仕事に没頭するつもりだ?」
「だって、締め切りが……」
澪は少し焦りながら言ったが、怜司は何も言わずにゆっくりと彼女を見つめている。その目は、彼女がどんな状況でも支えてくれるという温かさを感じさせた。
「たまには休め。……ほら、朝食作ったぞ」
怜司の言葉に、澪は思わず目を見開いた。彼が料理をするなんて考えてもいなかったが、その温かい手が自分を包んでくれるような気がして、胸がじんわりと温まった。
「えっ? 怜司さんが料理?」
「俺も学んだんだよ。大事な人に美味しいものを食べさせたくてな」
その言葉が、澪の心にしみ込む。かつて、誰かに心から支えられることができるなんて想像もしなかった。怜司の言葉一つ一つに、澪はその深い愛情を感じ取ることができた。
「すごい……!」
澪は驚きの声を上げ、怜司に手を引かれてダイニングへと向かう。そこには、テーブルに並べられた豪華な朝食があった。焼きたてのクロワッサン、ふわふわのスクランブルエッグ、色とりどりのサラダ、そして温かいカフェオレが並べられている。
「まさか、怜司さんが料理できるなんて……」
澪は感動しながら、目の前の料理に手を伸ばす。怜司が手間暇かけて作ったその料理が、まるで澪のために作られたかのように、温かくて優しさに満ちていた。
「俺も勉強したんだ。大事な人に美味しいものを食べさせたくてな」
澪の胸は温かい気持ちでいっぱいになった。人生の中で初めて、こんなにも心から温かさを感じることができた。彼女の目に、少しだけ涙が浮かんだ。
(……こんな日が来るなんて)
澪は、自分の夢を叶えただけではない。彼女は今、愛する人と共に歩む未来を手に入れたのだ。そしてその未来は、今まで感じたことのないほどの幸福に満ちていた。
もう、私はひとりじゃない
食事をしながら、怜司はふと微笑んで澪を見つめた。
「……思い出すな。最初にお前と会った時のこと」
「バイト先で、でしたよね」
「そうだ。泥だらけで、それでも必死に食らいついてきたお前を見て……なんてすごい奴なんだって思った」
「……あの頃は、必死でした」
「今もそうだろ?」
澪はその言葉に少し笑みを浮かべながらも、その背中に流れる温かさを感じた。
「たしかに。でも、あの頃と違うのは——もう、ひとりじゃないってこと」
「……ああ、その通りだ」
怜司はゆっくりと手を伸ばし、澪の手を優しく握った。その手のぬくもりが、澪の心に届き、深い安心感をもたらしてくれる。
「これからも、お前がどこまで行こうと……俺はずっとそばにいる」
「……ありがとう、怜司さん」
澪はその手をしっかりと握り返しながら、彼の目を見つめた。過去に苦しんだ時も、前に進むことを決意した時も、今ここで感じるこの温もりが全てを変えてくれた。
もう、何も怖くない。過去の痛みも、苦しみも、すべてが今の自分を作り上げる大切なものだと感じることができる。
澪は、迷うことなく前を向いた。夢も、恋も——この手で掴み取る。
未来へ続く道
数週間後、澪はパリへと旅立った。怜司と共に、新しい挑戦の舞台へと向かうその道は、無限の可能性を秘めている。
その時、澪は決して振り返らないと心に誓った。
これからの人生は、もう一度やり直すためのチャンスではない。これは、彼女が選んだ人生であり、共に歩むと決めた愛の物語だ。
パリでの挑戦は、すべてが新しいスタートを意味している。そこには、これまでとは違う未来が広がっている。
澪は、もう「負ける」ことを恐れない。どんな困難にも立ち向かい、どんな壁にも自分らしく挑んでいく。
夢も、恋も、この手で掴む——そしてそれは、彼女が選んだ人生の一部として、怜司と共に歩む道となる。
澪は、微笑みながら新しい一歩を踏み出す。前を向いて、輝かしい未来に向かって進むその足音は、確かに彼女のものだった。